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知の教室』

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No.1152


 『知の教室』佐藤優著(文春文庫)を読みました。

 「文藝春秋」別冊版として刊行された『佐藤優の実践ゼミ「地頭」を鍛える!』を文庫化したものです。

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「脳力UP!」と大書された本書の帯


 表紙カバーには相変わらず(苦笑)、著者の眼光鋭い顔写真の一部が使われ、緑色の帯には「脳力UP!」と大書され、「作家十周年記念出版」「塩野七生、池上彰も参加、超充実の全10講座」と書かれています。 帯裏には、「『教養』のすすめ」と大書され、「仕事場探訪、鼎談、座談会から外交官時代の論文まで。知のスーパーマンのすべてがここにある」と書かれています。


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「教養のすすめ」と大書された本書の帯の裏


 さらに表紙カバーの裏には、以下のような内容紹介があります。
「社会で生き抜くために最も有効な武器である『教養』とは何か。特捜事件での逮捕・勾留・裁判を耐え抜き、今や言論界でひっぱりだこの著者が学生やビジネスパーソンのため惜しげもなく伝授する! 作家デビューから10年間の論考から厳選した本書で、佐藤優の超実戦的思考法の全てがわかる。完全保存版のインテリジェンス10講座」

 本書の「目次」は、以下のようになっています。
「まえがき」
【第1講座】佐藤優の知的技術のヒント
【第2講座】情報を拾う、情報を使う
【第3講座】知をビジネスに取り込む
【第4講座】知の幹を作る最低限の読書
【第5講座】武器としての教養を蓄える
【第6講座】佐藤優式・闘い方を学ぶ
【第7講座】対話のテクニックを磨く
【第8講座】分析力を鍛える――国際情勢篇
【第9講座】分析力ケーススタディ――ロシア読解篇
【第10講座】佐藤優の実戦ライブゼミ
佐藤優「知の年表」
「あとがき」
「登場者紹介」
「初出一覧」

 「まえがき」の冒頭で、著者は以下のように書いています。
 「本書は、がっついたビジネスパーソンや学生を念頭に置いた実践書だ。最近は、大学でも『すぐに役立つ事柄』すなわち実学を重視する傾向が強まっている。成果主義、弱肉強食の競争が加速している中で、実務に役立たない教養などに時間を割いても無駄だと考えている人も少なくない。しかし、それは間違いだ。すぐに役立つような知識は賞味期限が短い。何の役にも立たないように見える教養こそが、中長期的視点からは、役立つのだ」

 第1講座「佐藤優の知的技術のヒント」の冒頭には「佐藤優の"脳力"」として、いきなり以下のような凄いことが書かれています。
「毎月の原稿の締め切り本数が80本。400字詰め原稿用紙で1200枚以上を執筆する。国内外の政治経済の動向を精査して情勢分析するほか、神学や哲学の研究にも勤しむ。尋常ならざる質と量の仕事をこなす日常からすれば、佐藤優の脳は酷使されていると想像されるが、本人はつい最近まで脳を休めるという発想自体なかったと話す」

 また、著者は次のようにも書いています。もう凄すぎる!
「私は朝5時に起床し、起きたその瞬間から仕事にとりかかります。家から仕事場に移動する時間を除けば、昼過ぎまでの7時間半は原稿執筆。集中して仕事ができるのは、基本的に脳の活動が活発な朝です。睡眠は中学1年生以来3時間だったのですが、最近は健康を考えて4時間に延ばしました」

 恐るべきアウトプット量を誇る著者ですが、当然ながらインプットの量もハンパではありません。以下のように述べています。
「私は毎月300冊の本を読みますが、すべて熟読できるはずなどありません。専門分野であればそれまでの知識でカバーできる部分がかなりあり、新たな知識となる情報は2割程度。その2割を補充すればいいと考えるわけです」

 さらに著者は以下のような私的ノウハウも披露してくれます。
「私は単行本執筆など長く集中するときには、数ヵ所ある仕事場に籠ってカンヅメでやることもあります。そのほうが思考の流れも途切れないからです。ただ、根を詰めてやっていると、どうしても脳にエネルギーが回らなくなるときがあります。そういう時に使う切り札がブドウ糖です。脳はエネルギー源としてブドウ糖しか利用できません。従って、集中して仕事をしているときにブドウ糖を摂るとよく効きます。とくに効果的なのは低血糖症対策のゼリー状のもので、飲めばすぐに反応します」

 第2講座「情報を拾う、情報を使う」の冒頭には、以下のように書かれています。
「世の中には、実にたくさんの情報(インフォメーション)がある。情報には、正確なものもあれば、間違ったものもある。間違った情報にも、勘違いや事実誤認から生じている誤情報(ミスインフォメーション)と特定の国家や組織あるいは個人が意図的に情報を加工して流す操作された情報(ディスインフォメーション)がある」

 また、著者と第二次世界大戦を主たる時代背景とした昭和秘史にメスを入れた数々の傑作を生み出してきた作家の西木正明氏が「インテリジェンス力とは何か? 情報戦を制する世界の常識」と題するスリリングな対談を行っています。その中で、西木氏が「東京は『スパイ天国』とよく言われますが、実態はどうなんですか」と問いかけたところ、著者は以下のように答えています。
「その通りです。それには理由があります。私の持論なのですが、情報というものはほぼ国力に比例して集まる。国力は、現代においては経済力とほぼイコールですから、若干翳りが見えたとはいえ、GDP世界第二位(対談当時)の日本には相当の情報が集まっていることは間違いない。特に貴重な情報が集まっているのが、意外に思われるかもしれませんが、実は週刊誌なんです。北朝鮮のミサイル打ち上げがあったりすると、ドイツやイギリス、ロシアのインテリジェンス機関の職員がどっと東京に集まる。何をやっているかというと週刊誌を買い集めてきて記事を精査するんですね」

 第3講座「知をビジネスに取り込む」の冒頭には、以下のように書かれています。
「知には2つの形態がある。目に見えるものと目に見えないものだ。この2つの知を結びつけると大きな力になる。
学校の授業や企業の研修で学ぶのは、主に目に見える知だ。受験勉強、資格試験の勉強を含め、こういう目に見える知を軽視してはいけない。大学受験や国家公務員試験の勉強は、社会に出てから意外と役に立つのである。
これに対して、学校で友人や教師たちとの関係を通じて得られる人間関係が目に見えない知だ。会社で、先輩や同僚と居酒屋で1杯やりながら身につける知も目に見えない。ただし、こういう形態での知も確実に存在する」
 著者によれば、目に見える知と見えない知の力が総合的に現れるのが、話すときだそうです。なるほど、よくわかりますね。

 第4講座「知の幹を作る最低限の読書」の冒頭には、以下のように書かれています。
「知は力である。読書は他人のアタマを借りて考えることだ。それによって、他人の知力を自分のものにする。ただし、受動的な読書ばかりしていると、細かい知識はたくさん得られても、自分のアタマで考えることができなくなってしまう。入口で間違えた読書法を身につけてしまうと、読書がビジネスパーソンのキャリアアップにつながらなくなってしまう」

 第7講座「対話のテクニックを磨く」では、以下のように書かれています。
「対話も他流試合もしなくては腕を磨くことができない。もっとも他流試合には、2つの系統がある。ディベート(対論)とディアローグ(本来の対話)だ。
ディベートは、将棋やチェス、フェンシングのような勝負だ。ゲームのルールが決まっていて、審判がどちらが勝ったか判断する。外交交渉や商談で、ディベート力は不可欠だ。
これに対して、ディアローグは勝負ではない。それぞれの人が自分が持っている情報や意見を提示し、それに関する虚心坦懐な意見交換を行い、知をより一歩高い段階に高めていく試みである」

 第8講座「分析力を鍛える――国際情勢篇」の冒頭には、以下のように書かれています。
「インテリジェンスは、現実の分析に生かされなくては何の意味もない。日本語で、分析という言葉がよく使われるが、その意味は、英語のアナリシス、ドイツ語のアナリーゼ、ロシア語のアナーリスとは、少しずれている。『この黒猫は黒い』『あの白犬は白い』というのが分析だ。黒猫という主語に黒いという意味が、白犬という主語に白いという意味が含まれているからだ。これに対して、『この黒猫は賢い』『あの白犬は愚かだ』というのは、主語からは導き出されない判断だ。これを総合(英語のシンセシス、ドイツ語のジンテージス、ロシア語のシーンテス)という。日本語で日常的に使われる『分析』という言葉には、分析と総合の両方の要素が含まれている。従って、論戦をするときには、どこまでが分析で、どこからが総合なのかを区別した論議をすることが重要になる」

 全部で480ページにもおよぶ本書を一気に読了して、わたしは溜息をつきました。いやあ、この人、凄すぎる。インプットもアウトプットも、そのスケールはもはや完全に人間離れしています。眼力もド迫力でラスプーチンそっくりだし、やはり普通の人ではないのでしょう。「知の怪物」という異名が、まったく大袈裟ではないことを思い知りました。