No.1022 SF・ミステリー | 小説・詩歌 『後妻業』 黒川博行著(文藝春秋)

2014.12.23

 『後妻業』黒川博行著(文藝春秋)を読みました。
 この読書館でも紹介した『殉愛』のアマゾン・レビューを読んでいるとき本書の存在を知りました。著者は『破門』(角川書店)で第151回直木賞を受賞した売れっ子ミステリー作家です。

    本書の帯

 本書の表紙カバーには、見たこともないような物凄い表情をした老人の顔が描かれています。帯には「直木賞受賞第一作」と大書され、「爺を騙すのは功徳や」「圧倒的なリアリティ、絶妙なテンポと語り口、息をつかせぬ一気読みの展開、炙り出される人間の業―」「〈色で老人を喰う〉裏稼業を描く戦慄の犯罪小説」と書かれています。

   本書の帯の裏

 帯の裏には「金が欲しいんやったら爺を紹介したる。一千万でも二千万でも、おまえの手練手管で稼げや。」と書かれ、以下に続きます。

 「妻に先立たれ、結婚相談所で出会った二十二歳歳下の小夜子と同居を始めた老人・中瀬耕造は、脳梗塞で倒れ一命を取り留めたものの意識不明の重体に。だが、その裏で、実は小夜子と結婚相談所を経営する柏木は結託、耕造の財産を手に入れるべく、周到な計画を立てていた。病院に駆けつけた耕造の娘・尚子と朋美は、次第に牙をむく小夜子の本性を知り・・・・・・」「新直木賞作家が描く、身近に忍び寄る新たな『悪』」

 さらに、アマゾンの「内容紹介」には、以下のように書かれています。

 「妻に先立たれた後期高齢者の耕造は、六十九歳の小夜子と同居しはじめるが、夏の暑い日に脳梗塞で倒れ、一命を取り留めるも重体に陥る。だか、裏で小夜子は結婚相談所を経営する前科持ちの男、柏木と結託していた。
 病院へ駆けつけた、耕造の娘である尚子、朋美は、小夜子の本性を次第に知ることとなる―。結婚相談所の男と、結婚したパートナーと、死別を繰り返す女につきまとう黒い疑惑。恐るべき”後妻業”の手口と実態。
 『黒川節』炸裂、欲に首までつかった人々が奔走する。犯罪小説の手練れが、身近に忍び寄る新たな『悪』を見事に炙り出す。『カウント・プラン』をはじめとするコンゲーム小説、『文福茶釜』などの美術ミステリー、『悪果』などの警察小説、そして直木賞を受賞した『破門』をはじめとする桑原&二宮の「疫病神」シリーズなど、関西を舞台にした数々の作品で、オリジナリティに溢れたテンポある会話と、リアリティに満ちた描写、そして一気に読ませるストーリーテリングの妙で、他の追従を許さない犯罪小説の第一人者・黒川博行による直木賞受賞第一作」

 あとは「ネタバレ」になるのでストーリーを書くことはできませんが、とにかく面白くて怖い小説でした。しかも、単なる作り話ではなく、この小説とまったく同じような事件が実際に世間を騒がせているではなりませんか! 

 69歳の小夜子という主人公は、本当に恐ろしい女です。柏木という結婚紹介業の男も根っからのワルです。この2人を中心に、いかがわしい司法書士やら弁護士やらで「後妻業」のチームを作っていく・・・・・・そう、後妻業とはチーム・プレーなのです。

 これは安岡正篤の本で知ったのですが、1人でも悪党というのは、悪人はみな団結性を持っているからです。彼らに立ち向かうためには、悪に染まらず、悪を知る。そしてその上手をいく知恵を出すことが求められます。

 その意味で、この本を読んでおくことは、明るい「終活」を送るためにも必要なことだと思います。世の中、悪い女がいるものですが、それに引っかかるのはいつも色ボケ爺です。男子たるもの、ある程度の年齢になったら女体と交わりたいなどという邪念を絶って、読書三昧の余生を送るべきであると本気で思いました。しかし、そうであったはずの安岡正篤でさえ死の直前にはある女性(後年、大変有名になりました)と入籍し、遺族とのトラブルを引き起こしています。なかなか「立つ鳥跡を濁さず」というのは難しいですね。

 それにしても、筆力のある作家がまだまだいるのですね。後半がいきなりハードボイルドになるのは驚きましたが、怒涛の展開でハードカバー414ページを一気に読了しました。こんな厚いハードカバーを読んだのは百田尚樹氏の『殉愛』以来です。百田氏といい、黒川氏といい、大阪の作家というのは文体にリズムがありますね。

 ところで、百田氏は『後妻業』を、黒川氏は『殉愛』を読んだのでしょうか? どういうわけか、そんなことが気になって仕方がありません。(苦笑)

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