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50歳からの知的生活術』

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No.1003

 

 『50歳からの知的生活術』三輪裕範著(ちくま新書)を紹介いたします。

 著者から献本された本です。著者は、この読書館でも紹介した『クオリティ・リーディング』『自己啓発の名著』などの著者でもあります。わたしとの御縁については、わたしのブログ記事「読書の達人」をお読み下さい。


 1957年生まれの著者は、現在、伊藤忠経済研究所の所長を務められています。伊藤忠といえば、『中国の大問題』の著者である丹羽宇一郎氏が長らく「顔」として有名でしたが、三輪氏はその丹羽会長の懐刀でした。丹羽氏は大変な読書家としても知られますが、部下であった三輪氏に「最近、こんな面白い本を読んだ」と言って、いろんな本を紹介してくれたそうです。たとえば、モンテーニュの『エセー』(白水社)、アレキシス・カレルの『人間 この未知なるもの』(三笠書房)、張養浩の『為政三部書』(明徳出版社)、イザべラ・バードの『イザベラ・バードの日本紀行』(講談社学術文庫)などで、じつにバラエティに富んでいます。

 

 また、三輪氏は現役ビジネスマンとして活躍しながら、何冊もの本を書かれています。「週刊東洋経済」2008年6月21日号で、「最強の読書術」という特集が組まれました。そこで6人の人物が「読書の達人」として紹介されました。その6人とは、池田信夫氏、齋藤孝氏、佐藤優氏、本田直之氏、勝間和代氏、そして三輪裕範氏でした。読書家としての三輪氏がいかに凄いか、よくわかる顔ぶれですね。興味深いのは、「1カ月の読書量」についての質問に、三輪氏は「8~10冊」と答えましたが、他の5人は「50冊~100冊」と答えたことです。1桁違いますね。そう、三輪氏の読書は、「量」より「質」なのです。今はやりの「質より量」を求める、読書量重視の読み方を「クオンティティ・リーディング(quantity reading)」と三輪氏は呼びます。そして、自らは読書自体の「質」をより重視し、むしろ読書における非効率をよしとする「クオリティ・リーディング(quality reading)」という読書スタイルです。

 

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   人生を変える一生ものの勉強法!


 

 さて本書の帯には「読書術、新聞、テレビの活用法など、役立つヒントが満載」「人生を変える一生ものの勉強法!」と書かれています。またカバー前そでには、以下のような内容紹介があります。


 「人生八〇年時代、定年後の人生もとても長い。それを満足できるものにするためには、有効な勉強法を身につけて『知的生活』を充実させることが重要である。本書は、『自分が勉強したいと思えるテーマの見つけ方』、『本をより深く、きちんと読むためのコツ』、『新聞・雑誌・テレビの上手な活用法』など、実際に使える、一生ものの勉強法を多数紹介。さらに最終章では、勉強した成果を本にし、出版するための方法を伝授する。この一冊を読んで、知的で楽しい人生を!」

 

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   本書の帯の裏


 

 本書の目次構成は、以下のようになっています。
 

「まえがき」
第一章 知的生活が定年後を充実させる
第二章 テーマを見つける
第三章 五〇歳からの読書法
第四章 五〇歳からの新聞・雑誌・テレビとのつき合い方
第五章 五〇歳からの知的アウトプット

 

 2009年、著者は『四〇歳からの勉強法』(ちくま新書)という本を出版し、多くの読者を得ました。それから9年が経過し、今や著者も50代の後半に入る年齢となり、少しづつ「定年」や「定年後の人生」を現実味を帯びた問題として感じるようになったそうです。そんな著者は、「まえがき」で次のように書いています。


 「これぐらいの年齢になってきますと、それまでの年代とは違って、キャリアアップやスキルアップのようなことは以前ほど考えなくなりますし、また、その必要性も徐々に薄れてきます。むしろ、そんなことよりも、差し迫ってきた定年や定年後の毎日をどのように過ごしていけばいいのかということのほうが、より大きな関心事になってきます。
 実際、私自身も、50歳を過ぎたころから、定年後をどのように過ごしていこうかということを漠然と考えるようになり、特にここ数年は、その理想の姿として『知的生活』ということを強く意識するようになりました」


 また「まえがき」で、著者は次のようにも書いています。


 「最近では、年金の支給年齢が徐々に引き上げられるようになったこともあり、多くの企業では65歳までの雇用延長が一般的になってきました。また、働くことが健康にも役立つということで、できるだけ長く働き続けたいと考える人が増えてきました。
 しかし、いくら長く働き続けたいといっても、やはりそこには限度があります。会社勤めの方の場合であれば、いやでも65歳前後でやめなければなりません。そうすると、現在の日本人の平均寿命から考えると、会社をやめてからも、まだ20年前後の余生があることになります」


 そして「まえがき」の最後は以下のようにまとめられています。


 「この約20年の余生を組織を離れた1人の私人として、どれだけ知的に充実したものにできるかどうかは、それまでの期間、仕事以外の部分をどのように生きてきたのかということによって決まります。
 その意味でも、50歳以降定年までの期間をどのように過ごすのかということが決定的に重要になってくるわけです。
 昨日までロジカル・シンキングや会計学のような本ばかり読んできた人が、今日から急に古典や哲学の本を読むようにはなかなかなれないものです。そうした切り替えを円滑に行うためには、特に50歳以降、じっくり時間をかけながら徐々に準備を整えていくことが何よりも大切です」


 第一章「知的生活が定年後を充実させる」では、著者が影響を受けたという渡部昇一氏の名著『知的生活の方法』(講談社現代新書)が取り上げられていました。著者は渡部氏のことを「知的生活という概念を日本に定着させた功労者」と表現し、同書の内容を紹介しています。
 

 わたしは本年の8月14日に渡部氏と「読書」を中心とした対談を行いました。その内容は『永遠の知的生活』(仮題、実業之日本社)として11月末に刊行される予定です。対談に先立って、わたしは渡部先生の書斎および書庫を拝見させていただきました。


 さて、本書を通読して、わたしは「この本は、終活の準備段階としての本だな」と思いました。たとえば本書には、以下のように書かれています。


 「フランス文学者の宮下志朗氏(東大名誉教授)によると『告白』『エミール』などで有名なフランスの思想家ジャン・ジャック・ルソーは『孤独な散歩者の夢想』の中で、『人生という競技の終わりも近いのに、馬車を操縦する技術を向上させても仕方ない、コースからの「退場」の仕方こそが大事だ』と書いているそうです(日経新聞、2013年12月1日)。本書の読者の多くの方々にとっては、新しい経営理論やロジカル・シンキングなどは、まさにルソーがここでいう『馬車を操縦する技術』そのものです。今さら、そんな『技術を向上させても仕方ない』のではないでしょうか」

 わたしは最近、『決定版 終活入門』(実業之日本社)を書きましたが、この「人生という競技の終わりも近いのに、馬車を操縦する技術を向上させても仕方ない、コースからの『退場』の仕方こそが大事だ」というルソーの言葉は心に沁みました。


 第三章「五〇歳からの読書法」では、「読書」だけでなく「蔵書」についての著者の想いが熱く語られています。「本を買って精神の巣づくりをする」で、著者は以下のように述べます。

 「私は、毎日朝晩、自分が買い集めた本を詰め込んだ部屋の中の本を見て、そこでしばしの時聞を過ごすのを無上の喜びとしています。そこにいて、自分が長年にわたって買い集めてきた古今東西の珠玉の書物に囲まれていると、それを見ているだけでも、何か王侯貴族にでもなったかのように大変精神的に充実した気分を味わうことができます」


 興味深かったのは、「羊の読書」と「狼の読書」についてのくだりでした。「『羊の読書』から『狼の読書』へ」で、著者は次のように述べています。


 「著者の書いていることを虚心坦懐にじっくり聞く姿勢をもつのは大切なことです。しかし、批判的精神をもたず、いつもそうした姿勢で本を読んでいるかぎりは、一方的に著者の考えを受け入れるだけで、何の進歩もありません。こうした読書のあり方は、著者の意見に対して非常に柔順でおとなしいという意味で、私はこれを「羊の読書」と呼んでいます。こうした『羊の読書』では、著者のいうことにすぐ納得し、『なるほど』という言葉が連発されます。それに対して、著書の主張を無批判に鵜呑みにせず、常にその内容に疑問をもちながら、自分なりに吟味していく読み方を、私は『狼の読書』(狼は疑い深い動物として知られています)と呼んでいます。『狼の読書』では、著者の主張に対して、常に『本当か』という言葉を発します」


 「読書効率は悪いほうがいい」では、著者が年来推奨している「クオリティ・リーディング」について以下のように述べます。


 「私が皆さんにお勧めする『クオリティ・リーディング』では、知的アウトプットを重視していますが、そうした知的アウトプットを意味あるものにするためには、インプットは多ければ多いほどいいわけです(もっとも、インプットが多いほうがいいといっても、むやみにインプットするのではなく、良質のものを厳選しなければなりません)。しかし時間には限りがありますから、インプットを多くすれば、それに反してアウトプットはどうしても少なくなってしまいます。このように、インプットが増えてアウトプットが減ると、たしかに知的生産効率という点では悪くなります。しかし、知的生産においては、むしろ、こうしたインプットは多いがアウトプットは少ないという効率の悪さこそが大切なのです」


 そして、「人間が勉強すべきテーマは『人間』である」では、読書の目的について次のようにズバッと述べています。


 「読書する目的というのは年代によっても大きく変わるものです。歴史家の山内昌之氏は読書の目的というのは、大きくいって、(1)エンターテインメントや娯楽としての読書、(2)仕事に役立てる知識を吸収するための読書、の2つしかない(『「反」読書法』講談社現代新書)としています。しかし、どちらかというと、この分類は現役世代用のものであり、50歳以降の定年前後世代には、この2つに加えて、3つめの(3)精神的に豊かな人生を送るための読書、というのが付け加えられるべきではないかと思います」

 まったく同感です。この「人間」を学ぶための読書入門としては、著者には『自己啓発の名著』(ちくま新書)、わたしには『面白いぞ人間学』(致知出版社)という著書があります。ぜひ、ご一読下さい。


 このような読書に対する考え方をきちんと持っていれば、60歳で定年を迎えても、その後の膨大な自由時間を「至福の時間」として過ごしていけるのではないでしょうか。現役時代を漫然と過ごしていると、残念な晩年になってしまいます。誰もが「心豊かな晩年を送って、幸せに人生を卒業したい」と思っていることと思いますが、それに50歳代からの入念な準備が必要です。読書で豊かな晩年を過ごし、死ぬまで本を読み続ける・・・・・・。そんな「永遠の知的生活」に至る入門書として本書を読みました。

 三輪さん、素敵な御本を送っていただき、本当にありがとうございました。

 

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   著者・三輪裕範氏と