No.0951 人間学・ホスピタリティ | 帝王学・リーダーシップ | 論語・儒教 『佐藤一斎 一日一言』 渡邉五郎三郎監修(致知出版社)

2014.07.16

 『佐藤一斎一日一言』渡邉五郎三郎監修(致知出版社)を再読しました。
 幕末の儒者・佐藤一斎の「一日一言」です。主に一斎の語録集である『言志四録』から選ばれています。

 1年分の366条を一気に目を通すとまさに壮観ですが、一斎がキーワードを操る達人であったことがよくわかります。それも、「忠」と「孝」、「和」と「介」、「知」と「行」、「恕」と「譲」、「苦」と「楽」、「忍」と「敏」、「労」と「逸」といったように主に相反する二つの一文字キーワードを対比させて、自らの思想を示すというスタイルが多いですね。

 たとえば、「忠」と「孝」なら、曾子(そうし)の「君(きみ)に事(つか)えて忠ならざるは、孝に非(あら)ざるなり。戦陣に勇無きは、孝に非ざるなり」との言葉を持ち出します。「君に仕えて忠義を尽くさない者は孝とは言えない。また、戦場に出て勇気のない者は孝とは言えない」という意味ですが、これをもって忠と孝は両立しないという見方があります。

 しかし一斎は、これは俗世間の間違った見方であり、「忠孝両全」というコンセプトを新たに打ち出すのです。キーワードの達人はコンセプトの達人なのです。これは「正」「反」「合」で知られるヘーゲルの弁証法にきわめて近いと、わたしは思います。 

 最後に読書についての一言を紹介しましょう。「精神を収斂(しゅうれん)して、以て聖賢の書を読み、聖賢の書を読みて、以て精神を収斂する。」です。「心を引き締めて聖人・賢者の書物を読み、聖人・賢者の書物を読んで心を引き締める。これは修養のための読書の心構えである」という意味です。このことをよく心して、ぜひ本書をお読み下さい。

なお、本書は『面白いぞ人間学』(致知出版社)でも取り上げています。

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