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ハートビジネス宣言』

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No.0929

 

 わたしが『ハートフルに遊ぶ』(東急エージェンシー)でデビューしてから、20日でちょうど26年目となります。早いものですね。


 今回の「一条真也による一条本」は、『ハートビジネス宣言』(東急エージェンシー)です。1992年6月15日に上梓した本です。当時のわたしはハートピア計画の代表を務めながらプランナーとして活動していましたが、本書は古巣である東急エージェンシーから出版しました。担当編集者はもちろん、「出版寅さん」こと内海準二さんです。


 当時は時代の最先端であったコンピューターグラフィックスで「ハート」を描いたような表紙に「幸福創造の白魔術」というサブタイトルが踊っています。タイトルはゴールドで箔押し印刷され、見返し裏の黒色との対比が印象的な金色の内扉。この演出は"幸福創造の白魔術"を訴える本書の内容を著す良きシンボルとなりました。それにしても、この頃の本は贅沢に作られていたものですね。

 

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   タイトルは金の箔押し!

 

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   黄金に輝く内扉を見よ!

 

 

 表紙の最上部には、以下のような本書の内容の一部が使われています。


 「精神の豊かさの提供も、物質の豊かさの提供とともに、これからの経済が担っていくべき大きな役割である。それは宗教や芸術に絶望したからではない。経済と宗教と芸術が協力し合って人々に心の豊かさを提供してこそ、大いなる心の社会はやって来る。経済と宗教と芸術をつなぐもの、あるいはそれらを融合させるもの、それがハートビジネスなのだ」

 

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   気業時代を眺望する1冊

 

 

 またシルバーの帯には、「気業時代を眺望する1冊」というキャッチコピーに続いて、編集工学研究所・所長の松岡正剛氏による「思想と事業にとって最も扱いにくい『気』や『心』が、本書ではなんなく結ばれる。おまけに鬼才マーケティング・プランナーの薀蓄は留まるところを知らない。はたして読者は『教業遊』三位一体の魔術に、ついていけるだろうか」という推薦文が書かれています。

 

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   経済は人間を幸福にすることができるか?

 

 

 じつは本書の帯には、もう1つのバージョンがあります。黒地に白字で「経済は人間を幸福にすることができるか?」とのキャッチコピーに続いて、「『ハートフル』『ハートピア』『気業』『宗遊』などのキーワードを駆使して、心の社会を予見する! 新時代の企画思想家・一条真也を知る最高の入門書!」と書かれています。

 

 本書の目次構成は、以下のようになっています。


序論  ハートビジネスとは何か
ハートフルと至高体験
ハートピアと集合的無意識
イマジネーション資本主義
超人化する高度情報社会
生老病死のポジティブ・シフト
バーチャル・リアリティの役割
現代の魔術としてのサブリミナル・テクニック
ビジネス八十八ヵ所を求めて
自由時間とリゾートのコンセプト
オリンピックからのメッセージ
ハートのフィールドワーク
 ●聖地・伊勢と世界祝祭博覧会
 ●サイキック・スポット天河
 ●心の時代の経営コンセプト
 ●笑いの時代
 ●21世紀の集客ビジネス
 ●町かどの芸能に学ぶ
 ●プランニングの精神
 ●冠婚葬祭――究極のソフトビジネス
 ●葬儀の演出を考える
 ●月と死のセレモニー
 ●ハウステンボスに見るリゾートの思想
 ●まほろばを求めて
 ●志のある広告
コンセプトの発見
超能力マーケティングの可能性
宗教コンサルティングの思想
白魔術の時代
ハートビジネス宣言―あとがきに代えて―


 目次を見てもよくおわかりのように、「超能力マーケティング」だとか「宗教コンサルティング」だとか「白魔術」だのといった怪しげなフレーズが並んでいます。まさに、わたしの神秘主義者としての嗜好が全開となったテーマが揃いました。そして、ここには、それまでの仕事であった「広告」「イベント」「リゾート」「冠婚葬祭」といったジャンルについての文章も揃いました。本書は書き下ろしではありません。さまざまな新聞や雑誌に書いてきた文章を集めたものですが、全体を貫くメッセージは一貫しています。そのキーワードこそは、「ハートビジネス」です。


 それでは、ハートビジネスとは何でしょうか。ハートビジネスとは人を幸福にするビジネスです。冠婚葬祭、ホテル、イベント、リゾート 、エンターテインメント、アート、スポーツ、レストラン、ナイトスポット、その他いろいろ・・・・ ハートビジネスは人の心に働きかけ、感動を与えたり、病んだ心を癒したりすることができます。 つまり、「感動」と「癒し」のビジネスなのです。


 ハートビジネスは、これからのハート化社会において産業の主流となってゆきます。ハートビジネスには さまざまな業種がありますが、現在、「第三次産業」としてひととくくりにされています。 しかし、この第三次産業という概念は経済学者コーリン・クラークが1940年代に提案したものであり、時代遅れ以外の何ものでもありません。現在の産業は7つのレベルで分類するとわかりやすいでしょう。

 

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 第一次と第二次は従来通りとして、第三次は手や足などによる「筋肉サービス」で、代表的な業種は洗濯業 、宅配業、運送業など。第四次は、いわゆる装置産業で、知恵によって開発して筋肉によって保守などをする 「複合サービス」。金融機関、私鉄、貸しビル、不動産業などがこれに含まれます。 第五次は知恵のサービスで、教師、コンサルタント、システム、エンジニアなど。マスコミやシンクタンクもここに入ります。第六次は情報サービスで、レジャー施設業、映画会社、劇団、芸術家など。そして第七次が宗教サービスで、冠婚葬祭業 、神社、寺院、教会などが含まれます。

 つまり、高次の産業になればなるほど付加価値が高くなり、ハートビジネスは主に第六次と第七次の産業に集中しています。ハートビジネスとは人をハートフルにし、ハートピアを想起させる心のビジネスです。21世紀はハートビジネスの時代になるでしょう。


 本書には「ハートビジネス」だけでなく、「ハート化社会」「ハートフル」「ハートピア」などの、わたしのオリジナル・ワードの解説も書かれています。それぞれ各方面で使われ始めたこともあり、これらの言葉を一回きちんと定義しておきたかったのですが、本書でようやく願いが果たせました。

 また、それら以外にも帯で使われた「気業」とか「宗遊」といったオリジナル・ワードも本書に書いたところ、大きな反響がありました。たとえば、「気業」という言葉について、わたしは次のように述べました。


 企業とは「気業」である。経営者が元気な会社なら、会社も元気である。社長が陽気で強気なら、陽気で強気な会社になる。その逆に社長が陰気で弱気なら、会社もそうなるのだ。特に人数の少ない小規模の企業になればなるほど、トップの気はストレートに反映する。まさに企業とは、経営者の気が社員に乗り移る一個の生命体なのである。


 わたしたち人間はハード(身体)とソフト(精神)の両方からできており、目に見える世界と見えない世界で生活している。「色即是空」「空即是色」という言葉が示すように、見える世界と見えない世界は渾然一体なのだ。


 「気」は見えない世界のエネルギーであり、ハート化社会のビジネスにおいて、もっとも重要なキーワードである。
人間と同じく、人間が経営する会社も見える部分(色)と見えない部分(空)の二重構造になっている。色とは、資本金、土地、建物、設備、商品、貸借対照表、損益計算書などだ。労働力としての人間も色に入るだろう。一方、空とは、会社のミッションやビジョン、経営者の思想や哲学、経営理念、社員のプロ意識、生きがい、働きがい、社風、企業文化などである。


 今後の企業は、色と空の両方をバランスよく充実させなければならない。特に、ハート化社会においては、企業の空の部分が重要視されるだろう。心ゆたかな会社、ハートフル・カンパニーの原点は、企業の経営理念、社長の哲学、そして社員の生きがいを確立することである。そして、そこには常に、元気、陽気、強気、勇気といったプラスの気が流れていなければならなのだ。ホテル業や冠婚葬祭業など、お客様に元気や勇気を与えるホスピタリティ・サービス業においては、すべての会社が「気業」を目指すべきなのは言うまでもない。わたしは、以上のようなことを述べました。

 

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 また「宗遊」については、以下のように述べました。


 宗教の「宗」という文字は「もとのもと」という意味で、わたしたち人間が言語で表現できるレベルを超えた世界である。いわば、宇宙の真理のようなものだ。その「もとのもと」を具体的な言語とし、慣習として継承して人々に伝えることが「教え」である。だとすれば、明確な言語体系として固まっていない「もとのもと」の表現もありうるはずで、それが「遊び」なのである。音楽やダンスなどの「遊び」は最も原始的な「もとのもと」の表現であり、人間をハートフルにさせる大きな仕掛けとなる。


 もはや何かを人間の心に訴えるとき、「教え」だけでプレゼンテーションを行なう時代ではない。幸福、愛、平和といった抽象的なメッセージを伝えようとしても、今までは「教え」だけだったので説教臭くなって人々に受け入れられないという面があった。そういった抽象的な情報は、言語としての「教え」よりも、非言語としての「遊び」の方が五感を刺激して、効果的に心に届きやすいのである。人間が心の底からメッセージを受け取るのは、肉体というメディアを通過させた「体感」によってだろう。情報と記号が氾濫する現代においては特にそのことが言える。また、今後の社会を動かす原動力となる若者や子どもに対しては、直接に「教え」を授けるより、音楽、映画、ミュージカル、スポーツ、それにゲームなどを通じてメッセージを送った方が素直に受け入れられることは確実である。


 わたしは「遊び」を通してメッセージを送る、このプレゼンテーション・システムを宗教ならぬ「宗遊」と呼んでいる。もちろん「遊び」だけでは、宗教は単なるレジャー産業になってしまい、宗教ではなくなってしまう。宗教にとっては決して「遊び」だけがすべてではない。ハート化社会においては、「教え」と「遊び」のバランスを図って、幸福や愛をプレゼンテーションしていく「教遊一致」が必要とされるのである。わたしは、このように述べました。

 

 この「教遊一致」に「業」を加えて、松岡正剛氏は「教業遊一致」という表現をされたわけです。まことに光栄なことだと思いました。もともと本書は、松岡氏が関わられた工作舎の出版物のようなビジネス書を刊行したいという想いから生まれたものでしたので、松岡氏に帯の推薦文を書いていただいたときは本当に嬉しかったです。


 しかしながら、本書の醍醐味は最後の「白魔術の時代」にあると思います。クロウリーやヒトラーを黒魔術師、シュタイナーやチャップリンやディズニーを白魔術師として描き、「これからは白魔術の時代である」と宣言した文章で、多くの方々から高い評価、熱い支持を受けました。編集を担当した内海さんも、最初にこの文章を読んだとき、「なんだかわからないけど、不思議な魅力があるなあ」と言っていました。きっと、内海さんも魔法にかかったのでしょう。(微苦笑)


 「ハートビジネス宣言―あとがきに代えて―」では、わたしは次のように述べています。


 「今後の経済人、企業家の役割はますます大きくなる。効率主義一辺倒で地球環境を破壊するだけが経済ではない。本来、『豊かさの提供システム』である経済は、ハートビジネスによって人類の幸福に寄与することもできる。その意味で、ハートビジネスとは経済の良心が純化されたものなのだ。士農工商は過去の話だが、日本語で商人というときのイメージには、もみ手をしてお客の顔色をうかがって巧みに売り込むというような卑屈なイメージが今でもどこかしら残っている。しかし商業という機能は、本来きわめて広く、かつポジティブなものなのである。商業とは、技術と人とは媒介し、人と人、組織と組織、さらには文化と文化を連結させる技術なのだ」


 ギリシャ神話で商業の神といわれるヘルメスやローマ神話のマーキュリーは、商業、発明、音楽、情報などを司る神々の使者でした。現代の社会で取引を機能させ、経済的成功へと導くには、人と人、組織と組織、文化と文化を連結するこのような使者の手が必要なのです。ゲーテは「商業という秩序は何と見事なものか、商人の精神ほど幅広くなくてはならぬものはない」と書いています。


 このようなヘルメス的役割をもつ企業家のさらなる現代的役割とは何か。それは、いうまでもなく、個人の幸福、企業の幸福、国家の幸福、そして地球の幸福を媒介し、連結させることです。すぐれた企業家は、世界を解釈するだけの思想家と違って、世界を変革する力をもっています。企業家たちの力を合わせて世界を良い方向に変えなければなりません。わたしは、哲学者の三木清の次の言葉を紹介しました。


 「近代的な冒険心と、合理主義と、オプティミズムと、進歩の観念との混合から生まれた最高のものは企業家精神である。古代の人間理想が賢者であり、中世のそれが聖者であったように、近代のそれは企業家であるといい得るであろう」


 そして最後に、わたしは次のように書きました。


 「これからの心の社会においては、ハートビジネスで人々を幸福にできる企業家は賢者と聖者の性格を併せもつことになるだろう。さまざまなハートビジネスによって個人の心が癒されつづければ、結果として地球が癒されることになる。人類が幸福になることこそ、最高の地球孝行なのである」

 

 この文章を読むと、今でもわたしの胸は熱くなります。


 これを読んだ「ベスト50レビュアー」こと不識庵さんは、 ブログ記事「ハートビジネス宣言―幸福創造の白魔術」に、次のように書かれています。


 「賢者と聖人を目指す企業人・・・現在の経済界では、かの稲盛和夫氏こそ、この定義どおりの経営者。その稲盛氏は日本はもとより、中国で一番尊敬されている経営者であることは周知のとおり。稲盛氏は第二回孔子文化賞を受賞されておられますが、この世界最大ともいえる"賢者にして聖人"の名を冠した賞を佐久間庸和氏という経営者も同時受賞しておられます。この佐久間氏こそ、一条真也その人。蛇足と知りながらも、このことを書かずにはおられません。本書での予言をご自身で実現され、その後の著書の"洛陽の紙価を高める"ことになろうとは! 白魔術、ここに極まれり」

 

 この不識庵さんのブログは、本当に心に沁みました。たしかに、本書を上梓した後、わたしはサンレーという会社の中で一貫して「ハートビジネス」を追求してきたように思います。


 本書は、わたしにとって大きな区切りの1冊でした。本書を上梓した直後、わたしの人生は大きな転換期を迎えます。父が経営していた会社が危機的状況となり、長男であるわたしは東京を引き上げて、故郷の北九州市に移り住んだのです。以来、じつに10年半ものあいだ、わたしは1冊も本を書かなかったのです。そう、2003年12月25日に『結魂論~なぜ人は結婚するのか』『老福論~人は老いるほど豊かになる』(ともに成甲書房)を2冊同時に上梓するまでは・・・・・・。