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「いいね!」が社会を破壊する』

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No.0920

 

 『「いいね!」が社会を破壊する』楡周平著(新潮新書)を読みました。

 著者は1957年生まれの作家です。慶應義塾大学大学院修了。1996年、米国系企業在職中に書いたデビュー作『C の福音』がベストセラーになりました。翌年より作家専業となり、『虚空の冠』『再生巨流』『異端の大義』『ラストワンマイル』『衆愚の時代』などを発表しています。

 

いいねが社会を破壊する1.jpg
   ネット進化の冷徹な真実

 

 

 本書の帯には「『便利の毒』に殺される前に―経済小説の第一人者が見据えたネット進化の冷徹な真実」と書かれています。また、カバーの前そでには、以下のような内容紹介があります。


 「すべてのモノと情報が、ネットのプラットフォーマーに呑み込まれていく。『いいね!』をクリックするたびに、われわれは知らず知らず、自分の首を絞めているのではないか? より快適な、より便利な生活を追い求め、『無駄』の排除を続けた果てに生まれるのは、皮肉にも人間そのものが『無駄』になる社会・・・・・・。ネットの進化が実社会にもたらすインパクトを、『ビジネスモデル小説』の第一人者が冷徹に見据える」


 本書の目次構成は、以下のようになっています。


第1章  超優良企業はなぜ潰れたのか
第2章  素早く動き、破壊せよ!
第3章  便利の追求が雇用を奪う
第4章  「いいね!」ほど怖いものはない
第5章  勝者なき世界
「あとがき」


 第1章「超優良企業はなぜ潰れたのか」で、著者は世界最大の写真感光メーカーであるイーストマン・コダックが日本でいう会社更生法の適用を申請したことを読者に知らせます。2012年1月のことでしたが、このコダックこそは著者が専業作家になるまで15年間在職した会社でした。そのコダックについて、著者は次のように述べています。


 「高収益を上げるフィルムビジネスでしたが、コダックは決して写真産業の将来を楽観視していたわけではありません。フィルムが永遠に存在するなんて、露ほども考えてはいなかったでしょう。いやむしろ、フィルムを使う写真の時代が消滅する兆しを、誰よりも早く察知していたことは間違いありません。フィルムを過去の技術とする直接のきっかけになったのは、デジタルカメラの出現と見る向きが多いようですが、これについての私見は後述するとして、そもそもデジタルカメラを世界で最初に開発したのはコダックだったのです。1975年のことです」


 「デジタル時代の到来」もしっかりと見越していたのに、それでもコダックは潰れました。デジタル化の波はコダック以外のさまざまな会社を襲います。たとえば、書店という業態も大きな危機を迎えています。著者は、書店業界について次のように述べます。


 「ネット書店の出現は、大型店にとっても脅威と映ったはずです。
 対抗できる手段となれば、2つしかありません。品揃えを豊富にすること、つまり店舗を大型化し、その場で目当ての本、欲しいと思える本を販売すること。そして、店舗への集客力を高めることです。ギャラリーやカフェを併設し、あるいは新古本やDVD、CDも扱って、何とかお客様に書店に足を運んでもらい、本に接する機会を増やそうとしているのは、その表れでしょう」


 著者は「素早く動き、破壊せよ」という言葉を紹介します。これは、フェイスブックの創業者であるマーク・ザッカーバーグが同社のモットーとして語ったものです。これほど端的にネットビジネス経営者の本音を表した言葉はないとして、著者は次のように述べます。


 「電子書籍市場に参入しようとしている経営者が、既存流通との共存を模索するとはとても考えられません。むしろ、元からある市場を我が手に収め、さらに電子化によって、市場を拡大することを狙っているはずです」


 経済においては、イノベーションが必要とされます。しかし、現代社会におけるイノベーションは破壊力抜群の恐ろしい存在でもあります。著者は述べます。


 「少し前の時代まで、イノベーションは多くの雇用を産み、社会を豊かにするものを意味しましたが、今は全く違います。いみじくも、ザッカーバーグ氏の言う通り、現代において、この波がもたらすものは破壊。その後に創出されるのは、主に雇用の崩壊と、余りにも僅かな人間による富の独占。それ以外にないのです」


 第3章「便利の追求が雇用を奪う」の冒頭で、著者は再びイノベーションについて次のように述べています。


 「イノベーションによる構造破壊。閉塞感漂う今の世相を反映してか、これを既得権益の崩壊と捉え、拍手喝采を以て迎える方々も少なからずいらっしゃるようです。しかし、ことはそう単純ではありません。確かに現代のイノベーションは既得権益を壊し、新たな産業を創出するものには違いありませんが、破壊した産業に優る雇用を生むことを必ずしも意味しないのです」


 電子化の波は出版業界のみならず、新聞業界をも一変させるとして、著者は次のように述べています。


 「それは何も紙メディアに限ったことではありません。長い時間のなかで確立された産業であればあるほど、イノベーションの波に襲われた時の衝撃は甚大です。何しろ、自分たちが長く従事してきた仕事の多くが新しい技術に取って代わられ、全く不要のものとなってしまうのです。人事、財務、法務など、他業種に転じてもそのまま通用するスキルを身につけている方々はまだしも、破壊される産業の技術や製品に特化した仕事をしていた人ほど、次の仕事を得るのが困難という状況に陥りかねないのです」


 著者は、「人」は経営の最大のリスク要因であると断じます。そして、その理由について次のように述べています。


 「何しろ、正社員を雇えば業績の如何にかかわらず、常に一定の人件費が発生します。しかも大抵は、昇給もありなら、ボーナスも支払わなければなりません。加えて、社会保険、厚生年金、退職金の積み立て等、給与には表れない多額のコストも発生する。ましてや、一旦正社員として採用してしまえば、余程の理由がない限り解雇はできません。『企業は人なり』とは言いますが、それは『十分、給与に値する働きをする人』を指すのであって、裏目に出れば全く逆のことになってしまうのです。そう考えると、経営者にとって『人』は経営上の最大のリスク要因の1つであるとも言えるでしょう」


 著者はまた、「格安航空会社が成り立つ理由」を次のように述べます。


 「商品価格の中に占める人件費が、いかに高額か。言い換えれば、1つの事業の中で携わる人間を減らすと、どれほど物が安くなるかは、近年相次いで創業したローコストキャリア(格安航空会社)、いわゆるLCCの仕組みに端的に表れています。
 LCCの価格の安さは、経費を極限まで切り詰めたからこそ実現したものです。まず、空港使用料の削減。新機材、かつ統一機種の導入による整備費用や燃料費のコストダウン。本社にしても大手航空会社のような豪勢な代物にはほど遠く、オフィスの什器備品の類いも中古。そうして最大で大手の9割安、週末運賃にしても半額以下という驚異的な低価格料金を提示できたのでしょうが、オペレーションに携わる人間をできる限り排した結果であることも、また事実でしょう」


 そして、ついには雇用そのものが「無駄」であるとして、著者は述べます。


 「雇用を排除すれば、物は安くなる―。これはIT技術が発達し、多くの人々がそれに依存する生活が加速していく現代社会において、実に恐ろしい現象です。なぜなら、IT技術が進歩した今の社会において、無駄を削ぎ落とすことが容易に雇用の喪失につながる。言い換えれば、これまでの社会では、まさにその『無駄』の部分に生じた『雇用』によって生かされてきた人間が圧倒的多数を占めるからです」


 第4章「『いいね!』ほど怖いものはない」の冒頭で、著者は「「何かを得れば、何かを失う」という言葉を紹介します。これは、作家の開高健の至言だそうですが、著者は「猛烈な勢いでテクノロジーが進歩し、常にイノベーションの波に晒される現代社会において、便利さ、快適さを手にする代償として手放さなければならないものは何かと考えると、真っ先に挙がるのが雇用です」と述べます。


 既存の産業を衰退させるイノベーションは、メディアの世界の話だけではありません。ひょっとしたら、製造業そのもの、特に生産の現場に従事してきた人間が不要になる時代が来ているとして、著者は述べます。


 「その可能性を秘めたテクノロジーが3Dプリンターです。製品をデザインし、あるいはスキャンしてデータをCAD化(コンピュータで設計すること)する。それを3Dプリンターに送れば、その場で製品そのものができ上がる。まさにSFの世界を垣間見るような技術が、いよいよ実用化の段階を迎えようとしています」


 それでは、3Dプリンターによって何が可能になるのか。著者は述べます。


 「インプラント、義歯、人工関節、義足、人工骨、ネジ、歯車、調理器具、玩具、文具、ランプシェードなどの家具、建築物の模型、自動車や航空機の部品などなど。果ては自動車のボディまで、どんなに複雑な構造物でも製造可能。それもシームレスで、一体成形することができる。しかも、縮小、拡大、デザインのカスタマイズも思うがままときています」


 この3Dプリンターの衝撃は、産業界全体を襲うはずです。


 個人情報の重要性は誰でも理解しているでしょう。しかし、現代社会に生きる人間が個人情報を守ることは、もはや不可能であると著者は言います。スマートフォンやネットを使わなければ流出を最小限に抑えることはできるでしょうが、そんな生活は考えにくくなっています。

 そして、著者が最も恐れることがグーグルとフェイスブックの合体です。この「今そこにある危機」について、著者は次のように述べています。


 「『ストリートビュー』、『グーグル・ブックス』、サービスごとの収集データの一元管理等々。これらはいずれも、準備段階から異議を唱えられ、あるいは訴訟にまで発展したものですが、お金を払うことで、一部修正して、あるいは敗訴しても当事国の法律は適用されないと判決を無視して提供されるに至ったサービスです。
 この懸念はすでに現実のものとなりつつあって、グーグルが開発中の眼鏡型端末「グーグル・グラス」には、フェイスブック、エバーノートがアプリをすでに提供しています。もうスマホで写真を撮らずとも、目の前の人に興味を持ったら、『この人誰?』とつぶやけば、顔面認識機能が働き、フェイスブック上で公開されているデータが、ディスプレイ上に表示される。さらにそこで判明した名前を元に、グーグルで検索をかければ、何を語り、何を言われているのか、その人のさらに詳細なデータもたちどころに把握できる。そんな時代になるのかもしれないのです」


 これは、確かに怖いですね。わたしのようにブログで毎日のように間抜け面をさらしている人間ならまだしも、顔出しを控えている人などには悪夢のような話でしょう。特に若い女性などは恐怖だと思います。


 実際、現代は個人情報ダダ漏れの時代であると言えます。それは大統領でさえも例外ではなく、著者は次のような驚くべき事実を示します。


 「アメリカでは2009年にオバマ氏が大統領に就任した際、氏が使用する端末、ブラックベリーからの情報流出を恐れ、米国は徹底的なセキュリティー対策を施したことが伝えられましたが、果たして我が国の要人、中枢機関に勤務する人たちは大丈夫なのでしょうか。時の首相が使用する携帯電話に、機密保持対策が講じられたなんて話は、寡聞にして存じませんし、それどころか国会議員の先生方は嬉々として携帯電話やスマホで会話し、メールを送受信し、フェイスブックのページを持ち、ツイッターで情報を発信しています。国家中枢で働く官僚の皆様にしてもおそらく同じだと思われますが、まさか国政に関する資料をスマホでやり取りしたり、自宅のパソコンと同期したり、果てはクラウドに上げておくなんて、情報リテラシーの高いことはしてませんよね。利便性に魅せられて、得体の知れぬアプリを使っていたりはしませんよね」


 第5章「勝者なき世界」では、著者は「安きに流れるのが人間の常」であり、ただで楽しめる手段があるのなら、お金を払わずに済ますものだと述べます。そして、もはやコンテンツにはお金を使わない時代が来ているのだとして、次のように述べます。


 「情報にしてもそうです。一般社団法人日本新聞協会のデータを経年で見てみると、2000年から12年の間に、世帯数は約700万も増加しているのに、一般紙の朝夕刊セット部数は逆に530万部の減。スポーツ紙も225万部の減。興味深いのは、平成23年版『情報通信白書』(総務省)の中の『趣味・娯楽シーンでの「新聞を読む」時間の年代別変化』で、2010年と05年を比較してみると、10代から60代のあらゆる年齢層で読む時間が減少しており、40代11.53分から5.29分、30代7分から2.80分、20代5.44分から1.44分、10代2.51分から0.81分と、若年層に向かうほどほとんど新聞に目を通していないことが窺い知れます」


 本書を読んで、いろいろと初めて知ったことがありました。ただ、書名と内容があまりマッチしていない印象があったことも事実です。


 わたしは当初、この読書館でも紹介した『群れない力』のような内容を予想していました。「なにが『いいね!』だ!」という名言を流布した面白い本です。でも、わたしの予想は外れました。はっきり言って、本書では「いいね!」はあまり関係ありませんでした。これならば、『ネットが社会を破壊する』、もしくは帯にある『ネット進化の冷徹な真実』などのほうが看板に偽りなしのタイトルだったと思います。