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「教養」を最強の武器にする読書術』

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 No.0854

 

 『「教養」を最強の武器にする読書術』樋口裕一著(大和書房)を読みました。

 著者は、翻訳家・多摩大学教授であり、東進ハイスクール客員講師(小論文)でもあります。大分県出身で早稲田大学第一文学部演劇科卒業、文学修士(立教大学フランス文学専攻)。いわゆる「樋口式小論文」を編み出した人物で、小論文指導のノウハウを応用した『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP新書)を出版し、250万部を超えるベストセラーとなりました。

 

 帯には「ビジネスも人生も『この一冊』で劇的に変わる―」「本と情報の洪水のなかから、『読むべき本』を選び取り、ホンモノの知性と豊かな教養を磨くための実践的読書法。」「目からウロコ!『読み方のコツ』と『ベストな読み進め方』を大公開!」、帯の裏には「10代からでも早過ぎない。40代からでも遅くない。知のバックヤードを耕し仕事と人生に差をつける知的読書の技法!」とあります。

 

 本書の目次構成は、以下のようになっています。

 

「はじめに」

教養を人生の「武器」にせよ     

      教養とは知識ではなく、推測と許容の幅     

      読書をはじめる年代に「もう遅い」はない

「始まりの1冊」から教養を広げるノンフィクション読書術     

      ノンフィクションは、12分野の教養を押さえよ     

      環境  何を選択し、どう生きるかを考えるための教養     

      日本文化  無意識レベルで私たちの言動を左右するものの正体         

      政治  生きづらさを解消するために必要な教養     

      ポストモダン  近代の知性が果たした役割とは     

      歴史  壮大な時間軸から現在を捉える教養    

      哲学  「自分なりに読む」という教養     

      人権  社会的な問題提起のための視点を養う     

      宗教  「ちっぽけな自分」を発見せよ     

      心理  殺人犯になる可能性は、自分にはないのか     

      日本語  教養を定着させる基礎となる教養     

      自然科学  人間の進化の歴史、ロマン、空想を味わう     

      自己啓発  迷ったときに立ち返るテキストを持っておく     

      歴史を蓄え教養を磨くノンフィクションの読み方

「何からどう読む」か? 文学作品を味わう読書術     

      文学を楽しみながら教養のベースをつくる     

      世界文学&日本文学、知の体系を知ろう     

      世界文学を「読み通せる」読み方、日本文学を「楽しめる」読み方     

      奇想天外小説で「脱・よい子」視点を磨く     

      ミステリーは深み読み術を鍛える最適テキスト     

      時代小説は現代ビジネスマンの啓発書として読め    

      「いつか!」と思いながら手つかずの古典は読む順序が肝要     

      あなたに最適な教養の入口は? 「文学マップ」の歩き方   

 

 「はじめに」の冒頭を「教養が見直されている。」の一語で書き始めた著者は、その「教養」について次のように述べています。

 

 「人々がどのようなことを求めているかを知り、言葉やレイアウトのセンスを身につけ、さまざまな要素を理解してこそ、人を惹きつけるソフトやホームページを作ることができる。そして、そうするには何よりも教養が必要なのだ。教養があるからこそ、幅広くものを考え、他人の要望も理解したうえで判断できる」

 

 教養が必要ならば、わたしたちはどのようにして教養を身につければいいのでしょうか。著者は、次のように述べています。

 

 「私は、教養をつけるためには、まずは本を読むことが大事だと考えている。本によってさまざまな価値観を知り、さまざまな考え方を知る。

 それはまさしく、教養を高めるということにほかならない。

 しかも、読書によって教養をつけるのはそれほど大変なことではない。これまで教養をつけようとしてうまくいかなかったとすれば、それは入口が自分に合わなかったからだろう。やみくもに本を読もうとしても、それに関心を持てなかったら、すぐに挫折する。だが、教養をつけるのにふさわしい本を読み、自分の読みたいものを的確に探し出して読んでいけば、必ず読書好きになり、教養が身につく」

 

 また、著者は「教養があるとは、博識になること自体ではない。博識になって、ひとつだけの考えに閉じこもるのではなく、多様な価値観を知り、他者を理解し、他者に応じて対応できる力なのだ」と訴えます。わたしも、まったく同感です。著者は、教養を身につけるために「環境」「日本文化」「政治」「ポストモダン」「歴史」「哲学」「宗教」「心理」「人種」「日本語」「自然科学」「自己啓発」というノンフィクションの12ジャンルを押さえることを提唱しながら、「私には確信していることがある」として、次のように述べています。

 

 「それは、すべての本は良書であるということだ。誰もが知っている古典的名著だけが、素晴らしい本というわけではない。どんな人間にもよいところがあり、誰かの役には立っている。それと同じように、どんな本でも、それを求めている人にとってはよい本だ。どんなにいかがわしいものであっても、読み手が『これは役に立つ』と思えれば、それは間違いなく良書だ」

 

 『あらゆる本が面白く読める方法』(三五館)のタイトルからも一目瞭然なように、わたしはすべての本は面白く読めると思っています。ですから、「すべての本は良書である」という著者の考え方をすんなり受け入れることができました。

 

 本書には著者の個人的な読書体験も書かれており、「環境」の項でレイチェル・カーソンの『沈黙の春』を初めて読んだときの以下のくだりが印象的でした。

 

 「小学校低学年のころ、親に連れられ、列車で北九川市の八幡駅付近(当時の八幡市)の工業地帯を通ったときのことを鮮明に記憶している。1950年代末のことだ。煙突から赤と緑の煙が出るのを見て、私は「きれいだな。科学ってすごいな」と思った。それを口に出していった覚えがある。30代半ばだった母親も全くそれを否定しなかったように思う。 現代人が見れば、『これは本当に大丈夫なのか?』と違和感を抱くだろうものに対して、疑うという意識がなかったのは、私と私の家族だけではあるまい。科学が進歩するのはよいことだ、工業が発達するのはよいことだと皆が思い、科学の力はすごいと信じていた。それに口を挟む人はいなかったし、『環境を壊す』という発想そのものがなかった。おそらく、世界中が同じような状態だったはずだ。

 そんなときに、誰も気づいていなかった化学物質の危険性を『沈黙の春』が示し、人類は環境問題を『発見』した。 現代の環境問題を考えるうえで、また、環境問題に関する教養を得るうえで、この本はまぎれもなく、『はじまりの1冊』といえよう」

 

 本書がユニークなのは、ノンフィクションだけでなく、フィクションを読むことも推奨している点です。わたしの周囲にはかなりの数の読書家の方がいるのですが、小説は読まないという人がけっこういるのです。それと、小説が苦手でどうしても読めないという人もいます。多いのはビジネス書あるいは自己啓発書の類を読み漁っている人です。だいたい面接のマニュアル本の延長みたいな自己啓発書をたくさん読む人というのは、成功へのショートカットの指南を著者に求めているというか、自分の頭で物を考える癖が身についていない人が多いように思います。あるいは「今の自分はこのままでいいんだ」と著者に肯定してもらって、慰めてほしい人とでもいえばいいでしょうか。

 

 しかし、本書の著者は「文学的教養」というものを重視し、次のように述べます。

 

 「いうまでもないが、文学的教養というものは、単に読書家である自分をひけらかし、飾りとするために必要なのではない。人生を豊かにし、知性を磨き、感性を高めるために必要なのだ。これが身につくことによって、読書そのものの楽しみ方は倍増する。大事なのは、文学という知の体系を知っておくこと。そして、自分が手に取った作品が全体の中でどういう位置づけにあるかを把握しながら読むことだ。それそのものが、まさに文学的教養といえる」

 

 わたしは小説などの文学作品を読まない人は惜しいと思うのですが、反対に小説しか読まない人も残念な人だと思います。このタイプも周囲に多いので書きにくいのですが、物語の世界に遊ぶことは人生を豊かにしますが、それだけではやはり偏ってしまいます。というか現実の諸問題に対応する思考が育ちません。ここは「貧しい」というよりも「もったいない」と言ったほうが適切でしょう。小説しか読まない人は、もったいない。

 

 哲学書も宗教書も社会学や自然科学の本もエッセイも、そしてビジネス書もそれぞれに広くて深くて豊かな世界を教えてくれます。わたしは意識的に小説とそれ以外の本を交互に固め読みしています。本書には、ノンフィクション、フィクション両方の読み方が丁寧に説かれており、非常に良心的で実践的な読書入門だと思いました。