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世界と闘う「読書術」思想を鍛える1000冊』

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No.0857

 

 『世界と闘う「読書術」 思想を鍛える1000冊』佐高信&佐藤優著(集英社新書)を読みました。

 気鋭の評論家と異能の作家による読書をめぐる対談本です。帯には2人の視線の鋭い写真とともに「言論界の武闘派コンビが贈る 生き残るための、読書術。」と書かれています。

 またカバーの前そでには、「世界は激変している。こんな時代に思想のないまま世界に対峙して生きていくことはできない。自分の言葉で世界をとらえ直し、みずからの思想を鍛えるのは読書しかない。ふたりの知の巨人が実体験をひきながら、読書を武器にする方法を説き明かす」と、本書の内容紹介があります。

 

 本書の内容構成は、以下のようになっています。

 

はじめに―「AKB48と宗教」  佐藤優

第一章  宗教・民族と国家   

第二章  家族と国家   

第三章  戦争・組織   

第四章  日本とアメリカ   

第五章  沖縄・差別の構造 

第六章  日本・日本人   

第七章  文学・評伝・文芸批評   

第八章  社畜とブラック企業   

第九章  未来を読む

おわりに―異能の人との連帯  

佐高信 佐高信が選ぶ、ジャンル別、必読「新書」リスト

 

 本書には膨大な数の本が取り上げられており、内容もじつに多岐に渡っているため、個別の話題を取り上げていてはキリがありません。でも、通読して特にわたしの関心を引いた部分を紹介したいと思います。

 

 第一章「宗教・民族と国家」では、「ノマド的生き方とエスペラントの共通性」として、宮沢賢治や出口王仁三郎も注目した世界語としてのエスペラントに佐藤氏が言及した以下のくだりが興味深かったです。

 

 「現代のエスペラントがあるとしたら、それはC言語だと思うんですよ。C言語、コンピュータのプログラム言語です。コンピュータのプログラム言語というのは、それをマスターしておけば、コンピュータシステムを動かせて、画像なんかも作れる。それが現代のエスペラントだと思うんですよ。

 そうすると、その言語を使えるような人たち、その横のネットワークは何かといったらハッカーのネットワークです。一昔前エスペラントに対して持たれていた警戒感というのは、今のハッカーのネットワークに対する警戒感と一緒なんです」

 

 第三章「戦争・組織」では、佐藤氏が「外交官の役割」を述べます。 

 

 「外交官というのは、これは今でもそうですが、ある意味で無思想なんです。それで基本的には、全員帝国主義者です。それは、国益ということを中心に物事を組み立てるという訓練をされているから。だから、大日本帝国という帝国の権益をどう理解するかということになります。

 帝国主義のゲームのルールというのは簡単なんですよね。まず自国の権益を相手のことを考えないで最大限に主張する。それで相手が黙って怯んでいると、国際社会が黙っている間はそれで権益を拡大するわけですよ。相手が必死になって抵抗して国際社会がいかがなものかということになったときには、適宜妥協して国際協調に転じる。これが帝国主義のゲームのルールなんです。外交官というのは、それをやる人たちなんですよ。それに対して旧大日本帝国軍人というのは、念力主義ですね。相手が必死になって抵抗しているんだけれどもそれは無視するとか、国際社会から顰蹙をかっているから精神力で乗り切るような、そういうことをやっちゃうんです。その違いですよね」

 

 第七章「文学・評伝・文芸批評」では、「医学の歴史」というものをめぐって、次のようなじつに刺激的な会話が交わされます。 

【佐藤】 

 医学の歴史で非常に重要なことは、外科と内科が歴史的にまったく違う世界だったということですよね。投薬などで内側から対処するのはヒポクラテス以来の医者の仕事だけども、外側から外科的な処置をするというのは、実は割礼師とか理容師の仲間ですよね。

【佐高】 

 理容師というと床屋さんですか?

【佐藤】 

 そう。だから理髪店の看板は赤と青がクルクルまわるサインポールです。あれは赤は動脈、青は静脈を表している。中世ヨーロッパでは理容師が外科医を兼ねていたんです。

 今のように外科のステータスが高くなったというのは、戦後だと思いますよ。そして外科の発達というのは、おそらく戦争が広汎になっていくことと関係していたと思うんですよ。戦争で負傷者が多く出ればその分外科医が必要になるわけですから。それで外科医のウェートが、すごく上がるわけですよ。

 

 第八章「社畜とブラック企業」では、「新自由主義における、自由の正体」として、以下のような会話が交わされます。

 

【佐高】 

 京セラの創業者・稲盛和夫を囲む、盛和塾というのがあるんです。稲盛の経営哲学を学ぶというんだけど、これがすごい。全国組織になっていて、中小企業の社長たちがわんさか集まる。

【佐藤】 

 集まって「稲盛教」を学ぶと。

【佐高】 

 そう、稲盛教を学ぶ。本人が出てきて「私はJALを再生させた」とかブチ上げるんだけど、彼のやったJALの再生なんていうのは誰だってできる話でしょう。公的資金で援助して、法人税を免除してもらって、要するに借金を全部棚上げしただけなんだから。全日空は怒っているらしいけど。

【佐藤】 

 私はJALの再生は非常に高く評価していますけどね。というのは、市場原理主義とはまったく別の、独自ルートでやったわけですよ。あれは新自由主義に完全に逆行している。当時の前原誠司国土交通大臣のイニシアティブが大きい。新自由主義の理屈ではまったく説明できないものですよ。

【佐高】 

 そう。あれこそ国家資本主義そのものでしょう。

【佐藤】 

 そうです。国家独占資本主義そのものですよ。国家と結びつく独占(寡占)資本を守るためにやった。素晴らしいことですよね。新自由主義の論理と全然違いますよ。 また、「社長訓示の種本」というテーマでは、安岡正篤、中村天風、松下幸之助、稲盛和夫といった人々をメンターとする日本の経営者について、(この4人を敬愛するわたしには少々悩ましい)以下の会話が展開されます。

【佐高】 

 松下、稲盛もそうなんだけど、日本の社長たちはなぜか朝会で説教をしたがる。そして彼らの説教の材料になっているのが、古いところでは安岡正篤とか、中村天風。それに松下や稲盛の本ですね。

【佐藤】 

 説教で重要なのは、とにかく、苦労したから自分は偉くなったんだという、そのストーリーですよね。努力は報われるという。

【佐高】 

 そうです。

【佐藤】 

 でも実は話が逆で、報われている者は苦労して努力しているんだという、それだけの話ですよね。

 

 「おわりに―異能の人との連帯」の冒頭で、佐高氏は述べています。

 

 「佐藤優さんは異能の人である。とてつもない博識もそうだが、話していると、それが直ちに彼の頭の中に立ち上がって動き出す。

 私がかつて読んだ本についておぼろげに思い出そうとしていると、まるで映画のワンシーンのようにそれがよみがえるらしく、具体的に語り始めるので、私は唖然とすることがしばしばだった」

 

 「おわりに」の最後には、佐高氏が次のように書いています。

 

 「佐藤さんは母親が沖縄の久米島出身だが、父方は福島の三春の出身だという。福島の原発震災後の日本国家の東北に対する扱いを私は『東北処分』といっている。沖縄に対する『琉球処分』と同じである。東北出身の私としては、処分する国家に対する闘いを激しく展開していきたいが、佐藤優の闘いは2つの『処分』をされた者として、より苛烈になるだろう。もちろん私はそれに熱く連帯する」

 

 そう、本書の読者はまず、佐藤氏の博覧強記ぶりに感嘆することでしょう。一見、佐高氏が圧倒されているような印象を受けますが、じつは佐高氏が聞き上手であり、佐藤氏から興味深い話を引き出していることがわかります。また佐高氏は、「あらゆることに通じている佐藤だが、それゆえに知識過剰な人間には弱い」 と佐藤氏についてコメントしていますが、わたしもそう思います。佐藤氏の知識は過剰にして、かつ偏ってもいるように思えます。だからこそ現代日本の「知のモンスター」として活躍できるのかもしれません。そして、「知のモンスター」誕生の裏には2つの「処分」があったのです。