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荒木飛呂彦の超偏愛!映画の掟』

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No.0791

 

 『荒木飛呂彦の超偏愛! 映画の掟』(集英社新書)を読みました。

 著者は、日本を代表する人気漫画家の1人です。代表作『ジョジョの奇妙な冒険』はコミックでシリーズ総計100巻以上という大作です。本書は、『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』の続編となる偏愛的映画論です。前作はホラー映画が中心でしたが、今回はサスペンス映画を主に取り上げています。帯には「『サスペンス』が面白さの鍵!」「独自の分析から創作の秘密が明かされる」と書かれています。

 

 また、カバーの前そでには次のような内容紹介があります。

 

 「アクション映画、恋愛映画、アニメ・・・・・取り上げたジャンルを問わぬ映画作品の数々には、その全てに、まさに荒木飛呂彦流の『サスペンスの鉄則』が潜んでいる。本書は、その1つひとつを徹底的に分析し、作品をまったく新しい視点から捉え直した映画論であり、エンターテインメント論である。
『ジョジョの奇妙な冒険』を描かせたとも言える、荒木飛呂彦独特の創作術とは? 映画の大胆な分析を通じて、その秘密が明らかに!」

 

 本書の目次構成は、以下のようになっています。

 

まえがき
第一章:ベストオブベストは『ヒート』と『96時間』
第二章:名作の条件とは「男が泣けること」
第三章:サスペンスの巨匠たちのテクニック
第四章:情事・エロチックサスペンス
第五章:イーストウッドはジャンルだ
第六章:この映画、軽く見るなよ!
第七章:名作には都市伝説が必要だ
「あとがき」
掲載サスペンス映画・TV一覧

 

 「まえがき」によれば、エンターテインメントの基本は「サスペンス」にある、というのが著者の持論だそうです。では、サスペンスとは何か。その手の本では、「ラテン語の『吊るす』が語源で、気がかり、不安な状態をさし、読者をはらはらさせる緊張感の効果をいう」と説明されています。かつて若かりし頃に漫画家を志した著者は、「面白い漫画って何だろう?」と考えるようになり、そこから「そもそも『面白い』って何だ?」と考え、「面白い」ものには時代の価値感には左右されない不変の法則があるに違いないと思ったそうです。

 

 著者は、大好きだった映画を研究材料に選びました。自分が面白いと感じているものを分析して説明できるようになれば、「面白い」の正体が見えてくる。そして、優れた作家のテクニックを取り入れれば、その「面白い」を自分も漫画で追求できると思ったそうです。
 著者が好んでいた映画には、ヒッチコックやスピルバーグやデ・パルマといった監督の作品が並んでいました。それらの「面白い」作品には、謎を解いていく話や、謎に立ち向かって冒険していく話、つまりベースにサスペンスがある映画が多いことに気づきました。
 また、サスペンスを得意とする監督の作品は出来が安定していて、とんでもないハズレがないことも発見したそうです。

 

 著者は、長年にわたる研究の結果、よいサスペンスは5つの条件を満たしていると結論づけました。以下の通りです。

1.まず一番大事なのは、「謎」。
2.「主人公に感情移入できる」こと。
3.「設定描写」の妙。
4.「ファンタジー性」。
5.「泣ける」かどうか。

 

 そんな著者が選んだサスペンス映画20選が次のように紹介されています。

 

「荒木飛呂彦が選ぶサスペンス映画 Best20」
1.ヒート
2.大脱走
3.96時間
4.ミスティック・リバー
5.許されざる者
6.サイコ
7.天国から来たチャンピオン
8.シュレック
9.ファーゴ
10.ダーティーハリー
11.ボーン・アイデンティティー
12.シティ・オブ・ゴッド
13.激突!
14.アイズ・ワイド・シャット
15.バタフライ・エフェクト
16.マスター・アンド・コマンダー
17.運命の女
18.フロスト×ニクソン
19.バウンド
20.刑事ジョン・ブック 目撃者
次点.レザボア・ドッグス

 

 著者は、サスペンス映画を「現実世界の不安を直視する」映画として、以下のように述べています。

 

 「前著『ホラー映画論』で、ぼくは次のようなことを書きました。生きていれば、どうしたって人生の醜い面や世界の汚い側面に遭遇する。そうした暗黒面を誇張して描いたのがホラー映画であって、それを観ることが現実世界と向きあう予行演習になるのではないか、と。
 サスペンス映画にも、これに近い効用があります。人というのは、お金持ちでも、モテていても、自分が幸福だと言いきれる人でも、何かしらの不安を抱えて生きています。いつかは病気になるかもしれないし、ひとりぼっちで孤独になるかもしれない。この先どうなるんだろう、というサスペンスの中を生きているわけです。この現実世界の不安を癒してくれるのが、われわれを現実とは別の胸騒ぎに誘う、サスペンス映画に他ならないと思うのです」

 

 第四章「情事・エロチックサスペンス」では、何ともいえないB級感が匂う言葉である「エロチックサスペンス」について考察されています。著者は、情事サスペンスに傑作が少ない理由として、以下のようなハードルの存在をあげます。

 

 ひとつ目のハードルは、「脚本」。
 ふたつ目のハードルは、「関わるスタッフの心意気」。
 三つ目のハードルは、「女優の脱ぎっぷり」。
 四つ目のハードルは、「監督の資質」。

 

 著者は以上のようなハードルをあげた上で、次のように述べます。

 

 「こうした要素が何拍子も揃わないことには、傑作は生まれません。でも揃ったときは奇蹟の出会い。僕は関係者に代わって、『このスタッフの心意気、すごくないですか? どんな映画になるか分からないのに脱いだ女優の決断、すごくないですか?』と喧伝したい」

 

 著者は、ダイアン・レイン主演の「運命の女」やエイドリアン・クライン監督の代表作である「危険な情事」といった情事サスペンスの傑作を取り上げます。
そして、それらの作品に登場する危ない人物には都市伝説の匂いがすることを指摘して、次のように述べます。

 

 「この人物像は本当に実在しそうだから怖いんです。実際にここまでやる女はいないだろう、と思いながら、どこかにいるかもしれないとも考えてしまう。こういう都市伝説を髣髴とさせるリアルな感覚は、人の心をくすぐります。逆にいえば、人の心をくすぐるから都市伝説として残っているといってもいいでしょう。なさそうでありそうなギリギリのラインであるほど、刺激が強くなる。
ホラー映画も都市伝説の匂いがするほど怖い作品に仕上がりますが、サスペンスにもその匂いが必要なんです」

 

 さらに著者は「都市伝説は最強のサスペンスアイテムだ」として、「ザ・スカルズ 髑髏の誓い」という映画を紹介します。これはアメリカの名門大学のエリートだけが入れる秘密結社をテーマにした作品ですが、「秘密結社」モノはサスペンスのアイテムとして高い人気を誇るとして、次のように述べます。

 

 「なぜ秘密結社のような都市伝説感のあるものが面白いかというと、僕らの本当に存在するのではないかという好奇心と、何より『見てみたい』という欲望を刺激するからでしょう。これを物語に落としこむと、強いサスペンスを生む最強のアイテムになる。実は『ジョーズ』も『ジュラシック・パーク』も、話の核になっているのは、『凶暴な人食いザメがいるらしい』『あの孤島で恐竜が生きているらしい』という都市伝説なんです」

 

 「あとがき」で、著者は「人間」とは家族や仲間、友人、恋人のことを何よりも大切にしている存在であると述べます。そして、家族、仲間、友人、恋人こそが人生に目的を与えてくれるといってもよいというのです。しかし、結局のところ人間は「ひとりぼっち」でもあります。この「ひとりぼっち」は、まさにサスペンス映画やホラー映画で描かれる状況そのものであるとして、次のように述べます。

 

 「『ひとりぼっち』でいることの恐怖に打ち震えるからこそ、人は、身近な付きあいから人類の共存共栄、平和まで、あらゆる人間関係を大切に考えます。そしてそこに、サスペンス映画やホラー映画が存在する哲学的な意味もあるのだと思います。それらはときに、人間に与えられた恵みにさえ感じられます」

 

 巻末には「掲載サスペンス映画・TV一覧」として、多くの作品の名前が並んでいます。著者の前作である『ホラー映画論』を読んだときと同様に、本書を読了した直後もアマゾンに大量のDVDを注文してしまいました。やれやれ、ただでさえまだ観ていない映画のDVDが溜まっているのに困ったものです。(苦笑)