No.0764 コミック 『カタミグッズ』 野村宗弘著(講談社)

2013.07.21

 コミックの『カタミグッズ』野村宗弘著(講談社)を読みました。
 20歳前後の主人公・蟹山やよいは、最愛のじいちゃんを亡くします。
 じいちゃんが住んでいた家も再開発による取り壊しが決まっています。弥生は取り壊されるまでの短い期間、じいちゃんの家に1人で住むことにします。じいちゃんの遺した思い出が詰まった家で、カタミの品々に囲まれながら、「じいちゃんも、じいちゃん家もなくなってしまうけど、じいちゃんを忘れるんは嫌じゃけえ」という弥生は今は亡きじいちゃんを想うのでした。

 著者は1975年生まれ、福岡生まれ広島育ち。約6年間、溶接工として働いた後、2006年に高知新聞社主催「第18回黒潮マンガ大賞」準大賞受賞、07年「第5回イブニング新人賞」奨励賞受賞後、本作品にてデビューしました。
 本書には小倉弁とおぼしき方言や明らかな広島弁が登場しますが、著者が「福岡生まれ広島育ち」と知って、納得しました。ちなみに、弥生が口にするこれらの方言は、読者をホンワカ優しい気持ちにさせてくれます。
 もうすぐ初盆を迎えるわたしの義父は広島の人でしたので、当然ながら広島弁を話していました。おじいちゃんっ子だった2人の娘も、弥生と同じように亡きじいちゃんを懐かしんでいることでしょう。

 本書は、まずカバー表紙に描かれた弥生の絵がいいですね。
 じいちゃんの思い出に囲まれて、体育館座りで物思いに耽る弥生の表情には「なつかしさ」と「切なさ」が見事に表現されています。帯には「大好きなじいちゃんの残した形見。想い出―」と書かれています。
 この帯のコピーを読み、わたしは『遺品』という本を思い出しました。
 同書の帯には「愛する人は逝ってしまったけれど、心の中には『宝物』が遺っている・・・。」と記され、カバー前そでには次のように書かれています。

 「遺品―。
 それは、高価なものでも珍しいものでもないけれど、
 かけがえのない大切なもの。
 流れていた時間は止まってしまっても、
 あなたが遺してくれたものの思い出は、
 ずっとずっと生き続けています」

 弥生のじいちゃんは晩年、実験考古学というものに打ち込んでいました。
 それで、じいちゃんの家には埴輪などの考古学にまつわるモノがたくさんありました。ひと気のない家にそういうモノがたくさん残されていれば、当然ながらちょっと不気味です。実際、じいちゃんを偲ぶ心から1人暮らしを始めた弥生でしたが、少々怖い思いをしながら生活するのでした。  
 興味深く感じたのは、じいちゃんにもう一度会いたいと思いながらも、じいちゃんが幽霊となって出てくることを弥生が恐れることでした。
 「大切なじいちゃんを怖いと思うなんて・・・」と弥生は自責の念に囚われるのですが、じつはこの死者に対する「恐れ」と「追慕」というのは人間の自然な感情であり、けっして矛盾するものではありません。そして、この2つの感情こそが「お盆」をはじめとする各種の死者儀礼を支えてきたのです。

 わたしは死者と再会するベストな方法は、夢で会うことだと思っています。拙著『命には続きがある』(PHP研究所)にも、以下のような記述があります。

(一条)
祖先すなわち死者と会う方法を考えた場合、「夢で会う」というのが、一番わかりやすいのではないでしょうか。

(矢作)
霊の存在を考えるとき、「夢」というのが実感を持って受け入れられると思いますよね。

(一条)
たとえ、いくら愛する人でも、幽霊になって会いに来られたとしたら、やはり怖いですよね(笑)。でも、死者の立場からすると、せっかく愛する人に会いに来たのに怖がられては傷つきます。そこで、夢の中で会うというお互いにとってベストな方法が取られることが多いように思います。
『命には続きがある』163ページより)   

 弥生にとって、生前のじいちゃんは優しい祖父でした。
 弥生がコンビニのレジのバイトを始めたことを知ると、わざわざ2時間もかけて来店し、いつも大量のアイスを買っていくのでした。そのアイスの商品名は「ガジガジ君」というのですが、これは「ガリガリ君」がモデルであることは一目瞭然です。じいちゃんは糖尿病にかかったことが原因で、いろんな病気を併発し亡くなるのですが、そもそも糖尿病になったのは自分が売ったガジガジ君を食べ過ぎたせいだと弥生は思うのでした。

 購入した本人はもうこの世にいないのに、冷蔵庫の冷凍室には大量のアイスが残されている。この場面には、しみじみとした無常観をおぼえました。
 弥生はじいちゃんの墓前にガジガジ君を供えようとしますが、どうしても溶けて墓石を汚してしまいます。苦肉の策として、ビニール袋の中にアイスを入れてお供えするのですが、この場面にもホロリときました。
 わたしはガリガリ君が大好物なので、わたしが死んだら、墓前にガリガリ君を供えてくれると嬉しいです。お酒も嬉しいけど・・・・・。

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