No.0765 コミック 『ほしにねがいを』 中川貴賀著(講談社)

2013.07.24

 『ほしにねがいを』中川貴賀著(講談社)を読みました。
 ロマンティックでファンタスティックなコミックです。いわゆるSFのジャンルに入るのでしょうが、それしては甘すぎるという感じもします。稲垣足穂の『一千一秒物語』にも通じる”不思議系SF”といった印象を持ちました。  
 カバー表紙は、満天の星に抱かれて眠る少女の姿。
 帯には「人の願いを叶える星たちと、人になった星を好きになった少年が織りなす、千二百年に一度の恋(ラブ・ストーリー)。」「日本最古の物語(フィクション)『竹取物語』は、9世紀に落下したとも言われる直方隕石をモデルにした実話だった!?」と書かれています。
 また帯の裏には、以下のような内容紹介があります。

 「夏休みが始まる直前に、僕と妹の香夜(かぐや)はじぃちゃんに呼び出され、不思議な体験をする。じぃちゃんは隕石の落ちる場所に行き、落ちた星を人に変えると言うのだ。半信半疑のまま付いて行った僕は、目の前で星が人になるのを見る。そして、僕は星から人になった女の子、花ちゃんに恋をした」

 主人公の「僕」の名前は輝(あきら)というのですが、輝と香夜の父は通り魔に殺され、母親はガンで亡くなっていました。祖父は人に変えた星は願いを叶えてくれるといいます。しかし、輝も香夜も、すぐには願い事を決める事ができませんでした。やがて、さまざまな星たちが輝と香夜の前に姿を現します。星たちとの出会いは、輝と香夜に深い影響を与えていくのでした。   
 という具合に、「荒唐無稽」といってもいいほどの不思議な物語なのですが、読み進んでいくうちに心がリラックスしていくような感じになります。絵柄は『妖怪ハンター』の諸星大二郎と『アタゴオル物語』のますむらひろしを連想させるタッチです。両者とも手塚治虫賞を受賞していますが、本書『ほしにねがいを』も手塚賞っぽいというか、いかにも手塚治虫の好みそうなテーマだなと思いました。

 本書で面白かったのは、人にされた星(星人間)たちがいずれも読書好きなこと。本書の中には、星新一が口語訳した『竹取物語』とかサン=テグジュぺリの『星の王子さま』といった、「星」にちなんだ実在の物語が登場し、星人間たちが読書会のように読み耽る場面が出てきます。
 星はその輝きによって暗闇を照らしますが、本も人の心の闇を明るくするという意味で、「本は、こころの星である」といったメッセージを感じました。 いやあ、こんなロマンティックな考え方、わたし大好きですねぇ!

 最後に、1200年に1度の風が吹いて、星人間たちは宇宙へ還っていきます。 そのとき、「クイーン」という名の巨大な女性の星人間が、じぃちゃんや輝や香夜に対して、こう語りかけます。「忘れないで、あなた達も星よ」と。
 それを読んで、わたしは「そうか、人間はもともと星なんだ」と思い出しました。 人類の生命は宇宙から来たと言われています。わたしたちの肉体をつくっている物質の材料は、すべて星のかけらからできています。その材料の供給源は地球だけではありません。はるかかなた昔のビッグバンからはじまるこの宇宙で、数え切れないほどの星々が誕生と死を繰り返してきました。その星々の小さな破片が地球に到達し、空気や水や食べ物を通じてわたしたちの肉体に入り込み、わたしたちは「いのち」を営んでいるのです。

 人間はもともと星なのです。 わたしたちの肉体とは星々のかけらの仮の宿であり、入ってきた物質は役目を終えていずれ外に出てゆく、いや、宇宙に還っていくのです。
 宇宙から来て宇宙に還る私たちは、宇宙の子なのです。そして、夜空にくっきりと浮かび上がる月は、あたかも輪廻転生の中継基地そのものと言えます。
 人間も動植物も、すべて星の欠片からできている。その意味で月は、生きとし生ける者すべてのもとは同じという「万類同根」のシンボルでもあります。
 かくして、月に「万教同根」「万類同根」のシンボル・タワーを建立し、レーザー(霊座)光線を使って、地球から故人の魂を月に送るという計画をわたしは思い立ち、実現をめざして、いろいろな場所で構想を述べ、賛同者を募っています。 本書『ほしにねがいを』を読んで、わたしは自分が星の欠片であることを思い出し、「いのち」の行く末にしばし想いを馳せました。 

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