No.0736 経済・経営 『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』 山口揚平著(ダイヤモンド社)

2013.06.11

 『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』山口揚平著(ダイヤモンド社)を読みました。
 「これからを幸せに生き抜くための新・資本論」というサブタイトルがいています。表紙には絵を描くピカソのイラストの下に「お金の正体を知れば、僕たちはもっと自由に生きられる」とのコピーがあります。著者は、早稲田大学政治経済学部出身のコンサルタントで、複数の事業・会社を経営するかたわら、執筆・講演を行っているそうです。専門は貨幣論・情報化社会論だとか。

 わたしは「お金」に関する本をほとんど読まないのですが、本書は例外です。
 なぜなら、原田マハ氏の「美術」をテーマにした小説『楽園のカンヴァス』『ジヴェルニーの食卓』を読んだ直後だったので、「ゴッホ」や「ピカソ」といった単語に反応してしまったのです。
 ちなみに、原田氏にお会いした際、一番好きな画家を訊ねたところ「ピカソです」という答が返ってきました。

 本書の目次構成は、以下のようになっています。

「はじめに」
序章:お金とは何か・
1:ハゲタカが跋扈し、お金でお金が殖えた時代
2:自分の価値をお金に換える覚悟と難しさ
(バリューtoマネー)
3:企業や個人が国家に代わってお金をつくる世界へ
(クレジットtoマネー)
4:お金を媒介とせず、モノや価値を直接交換できる環境の広がり
(バリューtoバリュー)
5:お金でつながる新たなコミュニティづくり:資本より信用を貯めよう
(クレジット・ライン)
付録「お金について身につけたい3つの習慣」
「おわりに」
「参考図書」

 「はじめに」の冒頭を著者は次のように書き出しています。

 「ふたりの天才画家、ゴッホとピカソの偉大な名声なら、誰もが知っているだろう。だが、ふたりの生前の境遇には、天と地ほどの差があった」

 その2000点にのぼる作品のうち、生前に売れた絵はわずか1点だったというゴッホに比べ、ピカソは経済的にも大成功したことで知られています。そのピカソについて、著者は次のように書いています。

 「91歳で生涯を閉じたピカソが、手元に遺した作品は7万点を数えた。それに、数ヵ所の住居や、複数のシャトー、莫大な現金等々を加えると、ピカソの遺産の評価額は、日本円にして約7500億円にのぼったという。美術史上、ピカソほど生前に経済的な成功に恵まれた画家、つまり『儲かった』画家はいない」

 ゴッホは、間違いなく天才画家でした。
 では、両者の命運を分けたのは何なのか。著者によれば、ピカソのほうが「お金とは何か?」に興味を持ち、深く理解していたという点であったといいます。本書には、ピカソがお金の本質を見抜く類まれなセンスの持ち主であったエピソードが多く紹介されています。以下、「はじめに」から抜き書きしたいと思います。

 「特に、自分の絵を販売することに関しては天才的で、ピカソは新しい絵を描き上げると、なじみの画商を数十人呼んで展覧会を開き、作品を描いた背景や意図を細かく説いたという。絵が素晴らしいのは前提だ。だが人は、作品という『モノ』にお金を払うのではない。その『物語』を買うのだ、と彼は知っていた。そして、たくさんの画商が集まれば、自然に競争原理が働き、作品の値段も吊り上がる。ピカソは、自分の作品の”価値を価格に変える方法”、今でいえば”マネタイズ”の方法をよく知っていたのだと思う」

 「まずピカソは、当時から有名であった。その彼が買い物の際に小切手を使えば、それをもらった商店主は、小切手をどのように扱うだろうか?ピカソは次のように考えた。商店主は、小切手を銀行に持ち込んで現金に換えてしまうよりも、ピカソの直筆サイン入りの作品として部屋に飾るなり、大事にタンスにしまっておくだろう。そうなれば、小切手は換金されないため、ピカソは現金を支払うことなく、実質的にタダで買い物を済ませることができる。
 ピカソは、自分の名声をいかに上げるか、のみならず、それをどうやって、より多くのお金に換えるか、という点についても熟知していたのだろう。これは現代の金融でいえば、信用創造、”キャピタライズ”の考え方である」

 「シャトー=ムートン=ロートシルトというフランス・ボルドー地方にある有名シャトーのワインがある。この1本5万円は下らない高級ワインの1973年モノのラベルは、ピカソがデザインしている。そして、その対価は、お金ではなくワインで支払われた。ピカソの描いたラベルの評判が高ければ高いほど、ワインの価値は高まり、高値がつく。ピカソがそのワインをもらえば、自分で飲むにしろ売るにしろ、価値が高いほうがいいに決まっている。双方に利益のある話である」

 このようなさまざまな方法で、ピカソの絵は高く売れるようになっていきました。

 序章「お金とは何か?」で、著者は以下のようなお金の定義を紹介します。

 「お金とは権力である」
 「お金は資本主義の偏差値だ」
 「お金は社会の議決権」
 「お金は怠惰の原因であり、搾取の結果である」
 「お金は可能性の原因であり、貢献の結果でもある」
 「お金は自白剤であり、人間の本質を明らかにするもの」

 さまざまな定義を紹介した上で、著者は次のように自説を述べます。

 「お金は協力だが、絶対的なコミュニケーション・ツールではない。それを理解しているだけで、僕たちはお金の呪縛から放たれ、お金に対する偏見から少し距離を置いて、冷静な目でそれを捉え直せるようになる。そして、その冷静で俯瞰的な視点こそ、僕たちがお金とよい関係を築くきっかけとなる」

 第1章「ハゲタカが跋扈し、お金でお金が殖えた時代」では、著者は「人びとの不安と欲望でお金は育つ」として、次のように述べています。

 「『欲望は海水を飲むことと似ている』と言ったのは、ダライ・ラマ14世だった。海水は、飲めば飲むほどまた欲しくなり、人は乾きの果てに命を落とす。だから海水を飲んではいけない、ということは誰もが知っている。
 そうした不安と欲望を糧にしたビジネスの最たるものが、生命保険とギャンブルである。生命保険は不安を、ギャンブルは欲望を喚起することで稼ぐ。『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』(作品社、2008年)の著者ジャック・アタリによれば、今世紀の主要なビジネスは、保険と娯楽になるという」

 また、「死ぬときが最も金持ちになれる瞬間」として、著者は次のように生命保険について述べています。

 「生命保険についていえば、海外の先進国の保険加入率は通常5割程度だという。9割を超える日本の加入率の高さは、明らかに異常である。
 保険の正体は、ファイナンス的にいってしまえば、『自分が死ぬほうに賭ける』という意味である。しかも、死んでしまったほうが勝ち、というなんとも悲惨なギャンブルだ。つまり僕たちは、保険に加入した途端、生命保険会社という巨大な胴元に死ぬまで手数料を抜かれ続ける、損な賭けに参加したことになる」

 貯蓄好きの一般的な日本人がもっとも金持ちになる瞬間は、死ぬときなのです。「あの世で現世のお金は使えないのに、まったく滑稽な話である」と、著者は言います。まったく、その通りですね。

 著者いわく、ギャンブルの仕組みも同じで、たとえば宝くじの胴元が抜くテラ銭は売り上げの52%だそうです。つまり100円の宝くじ1枚の価値は、買った瞬間にすでに48円にまで落ちてしまっているわけです。「これは、今の日本でもっとも損な賭けのひとつである」と著者は断言し、続けて次のように述べます。

 「もっともフェアな賭博は、実は『ヤクザ』の博打場である。ヤクザの博打場のテラ銭は、5%程度にすぎない。なぜなら、ヤクザの博打場は自由競争市場だからだ。客から多く抜きすぎれば敬遠されてライバルの博打場に流れるため、この程度に落ち着くのである。その一方で、たとえば競馬(農林水産省管轄)のテラ銭は25%、パチンコ(警察庁管轄)は約20%である。お上が絡むほど参加者にとって不利な賭けになるのだから、これも皮肉な話である」

 生命保険にせよギャンブルにせよ、なぜ人々はこのような不利な賭けに参加してしまうのでしょうか? 著者によれば、人間がみな、本能的に「小さな確率をより重視し、大きな代償を払う」という性質を持っているからだそうです。そして、著者は読者に対して、「これからの僕たちにとって大切なことは、お金を使うときに、それはいったい何の対価なのか、いったん立ち止まって考える姿勢だ。それは、本格的な資本主義世界を生きる僕たちの義務だ」と訴えるのでした。

 第2章「自分の価値をお金に換える覚悟と難しさ」では、「やりたいことがなければ、やるべきことをやろう」という項目が心に残りました。著者は、スタジオジブリの宮崎駿監督が「僕は才能の奴隷です」と話しているのをテレビで観たそうです。そのとき、考え悩み抜いて作品に魂を込める宮崎監督の姿勢はまさにプロフェッショナルの仕事そのものであると思ったといいます。プロフェッショナルについて、著者は次のように書いています。

 「プロフェッショナルとは、神に宣誓する存在である。プロは、顧客や社会、自分の状態を考慮に入れながらも、あくまで、「神との契約」に基づいて、みずからの美学、使命に従い、仕事を遂行する。
 僕もそうありたいと思った。使命が転じて、価値となる。価値が変じてお金になる。その一貫した流れの中で生きていきたいと思った。使命に従うことは、もっとも効果的・効率的な『お金を稼ぐ』、つまり価値を産み出す方法なのだ」

 さらに著者は、「お金を稼ぐ」には「使命を見つける」ことが必要と主張します。
 しかし、使命を見つける最良の方法は、実はそれを探すことではありません。ならば、どうやって使命を見つけるのか。著者は、次のように述べます。

 「使命は自然に授かるものである。では、僕たちがやるべきことはといえば、使命を探すこととは逆に、使命でないもの、つまり、私心・私欲を濾過して、自分を透明な存在に徹底していくことである。一般に、プロ意識が髙い人ほど謙虚になるのは、誰もが感覚でわかるだろう。なぜなら、プロは仕事の姿勢を通じて、この『エゴの濾過』がなされているからだ。
 僕たちの人生は、僕たち自身で形づくらなければならない。自分の人生を自分でデザインするということだ。デザイン(design)の語源は、デ(de:削る)・ザイン(sign:形作る)である。これはラテン語で『私欲(ノイズ)を削り落とし、本質を磨き上げること』を意味する。私欲(ノイズ)を削り、自分自身を透明な状態に保つことによって、使命に沿った生き方ができるようになり、それが社会にとっての一番の価値創造や貢献につながり、結果的にお金となって返ってくる」

 そして本書の内容で最もわたしの心を捉えたのは、第3章「企業や個人が国家に代わってお金をつくる世界へ」に出てくるインフラについての話でした。著者は、衣食住といった生活インフラについては、今後、巨大企業が一気にそのニーズを満たすようになるだろうと予測し、次のように述べます。

 「たとえばユニクロがそうだ。この売上高9300億円、営業利益率14%(2012年度)という企業規模は、もはや単なるアパレルとはいえない。
 服の『機能』という面に限っていえば、ほとんどの国民が『普段着はユニクロで十分』と思っているのではないだろうか。つまりユニクロは『衣のインフラ』となり、国民服となっている」

 著者は、同じ現象が「食」や「住」でも出てくるだろうと推測します。

 「一例では、セブン&アイ・ホールディングスが提供するオリジナル食品群『セブンプレミアム』がある。同社はこれまでコンビニ中心であったが、最近は宅食や給食などの食の”ラスト・ワンマイル(家まで届く)”に進出し、調理済み食品まで広範に品ぞろえしている。いずれ、普段の食事なら『セブンでいいよね』と国民の多くが思う日がくるかもしれない。そのとき、この会社は、食の機能を独占する巨大企業へと進化する」

 そして、「衣」と「食」に続いて「住」においても著者は述べます。

 「住についても、身寄りのない高齢者がますます増える一方、空き住居も多いことから、従来の老人ホームや介護施設とは一線を画した新しい集合住宅の仕組みが出てくるだろう。
コンビ二のバラエティに富んだ食品群、ユニクロの安価で丈夫な衣服、住居の空室率が25%という現実。これら衣食住の”インフラ企業”は、今では東京電力を超える公共性・一般性を有している」

 この一文を読んだとき、わたしの目の前に天から梯子が下りてきました。真の「住」のインフラとは何か? それが明確にわかりました。

 企業秘密ですので詳しくは書けませんが、すでにわが社が進めている企画をさらに推進すれば、わが社は”インフラ企業”に確実になれることがわかりました。
 しかも、「住」のインフラとは1つではなく、2つあることにも気づきました。
 この2つの分野の「住」のインフラを同時に事業展開できるのは、多分わが社だけではないでしょうか。詳しいことが書けないのでもどかしいですが、このアイデアを練って実行に移せば、多くの日本人を救うことができます。結果として、わが社は大きく発展できるかもしれません。

 いやあ、最初は美術的な関心から購入した本書から、途轍もないビジネスのアイデアを得ることができました。これだから読書はやめられませんね!
 本書の価格は1500円ですが、このアイデアが実現すれば1500億円以上のビジネスに成長すると思いますよ。1億倍ものコスト・パフォーマンスを可能にできるのは、もはや書籍しかないでしょう。わたしは、ビッグビジネスのヒントを気前良く与えてくれた著者に心から感謝いたします。

 本書の「おわりに」には、ドラッカーのエピソードが紹介されています。
 経営学者である彼は生涯一度も部下を持ったことがありませんでした。
 著者は「そんな彼が、『リーダーシップとは正しいことをすることである。マネジメントとは、物事を正しく行うことである』と喝破し、マネジメントの父として、世界中の経営者の共感を得ている」と書いています。この一文は、わたしのハートにヒットしました。そう、深く共感しました。

 わたしも経営者として、ただ金儲けをするのではなく、とにかく物事を正しく行うことを心がけたいと思います。そして、世のため人のためになる事業をすれば、必ずや結果はついてくると確信しています。

 それにしても、ドラッカーの一連の著書といい、本書といい、ダイヤモンド社は素晴らしい良書を出しますね。ダイヤモンド社さん、本当にありがとう!

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