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夏を喪くす』

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No.0730


 『夏を喪くす』原田マハ著(講談社文庫)を読みました。

 帯には、「話題作『楽園のカンヴァス』の著者が、女性が人生の意味に気づく瞬間を描く。」「恋愛も仕事も家族も、上手くいっているはずだった」「走り続けた女が、立ち止まるとき」と書かれています。カバー裏には、以下のような内容紹介があります。


 「『なんだか、硬いね』ベッドで恋人が乳房の異変に気づいた。仕事と恋を謳歌する咲子の人生に暗雲が翳る。夫との冷えた関係に加え、急に遠ざかる不倫相手に呆然とする。夏の沖縄で四十歳を迎えた女性の転機を描く表題作『夏を喪くす』。揺れる女心の決意の瞬間を、注目作家が鮮烈に綴る中編集。」


 本書には、「天国の蝿」「ごめん」「夏を喪くす」「最後の晩餐」の4つの中・短編小説が収められていますが、いずれも40代のキャリアウーマンが主人公です。

 

 「天国の蝿」の範子は、偶然、ある詩を目にします。そのとき、彼女は自分たちを捨てた父親の記憶を呼び起こします。

 

 「ごめん」の陽菜子は、夫以外の男性と不倫を続けています。彼女の夫は、事故が原因で意識不明となりますが、その夫の口座に毎月お金を振りこみ続けていた人物と対面を果たします。

 

 「夏を喪くす」の咲子も不倫を続けています。彼女は病気を告知されて初めて、本当の自分の願いを知るのでした。

 

 「最後の晩餐」の麻理子は、7年前に行方不明となった親友と暮らしていたニューヨークのアパートを再び訪れます。このように4編とも、けっこうドロドロした内容で、男のわたしが読むとギョッとしてしまう箇所も多いのですが、 『楽園のカンヴァス』で文芸界の話題をさらった著者が女性たちの揺れ動く心を見事にを描いています。


 「解説」を文芸評論家の斎藤美奈子氏が担当していますが、本書に出てくる4人のヒロインについて次のように書いています。


 「4人の女性は、読者の共感だけでなく、反発を買いそうな女性像でもあります。なんだかみんな野心家だし、自らの欲望には忠実だし。
 しかし、仕事を続けてきて、結婚もして、場合によっては恋人まで確保している40代の女性が小説の主人公になることは、かつてはありえませんでした(そんな男性の主人公なら掃いて捨てるほど存在しましたが)」


 1986年、男女雇用機会均等法が施行されました。「女の自立」がしきりに叫ばれ、仕事と恋愛に悩む女性たちの姿を林真理子や森瑤子が小説に描き、1997年にはキャリアウーマン志望者の群像を追った篠田節子『女たちのジハード』が直木賞を受賞しています。


 このような時代の流れを踏まえた上で、斎藤氏は述べます。


 「ひるがえって本書はどうか。ここに登場するヒロインは、そんな段階はとっくにすぎて、次のステージで、次の悩みに直面しています。公私ともに充実した人生をおくってきた女性が、後半生をどう生きるか。それは21世紀になって、はじめて浮上した課題といっていいでしょう」


 この文章を読んで、わたしは周囲の女性たちの顔を思い浮かべました。輝いている女性もいますし、いつも暗い表情をした女性もいます。新しい夢を追っている女性もいれば、家庭を大事にしている女性もいます。みんな、それぞれの悩みを抱え、希望を抱いて、懸命に生きています。


 「解説」の最後に、斎藤氏は「夏を喪くす」の次の一節を取り上げます。


 「気がつけば、いつもせわしなく生きてきた。目の前にこなすべき仕事があり、勝つべき競争があり、進むべき道があった。空いちめんに広がる紅を吸ってたっぷりと肥大した太陽が、急速に水平線に落ちていくわずかな時間に、咲子は日没を眺めたことがなかったいままでの人生を振り返った」


 そして、斎藤氏は「日没が目に入ったときに、はじめて見える光景もある。ネガティブな出来事にぶつかったとき、人はどう対処するのか。21世紀を生きる女性に、本書がなんらかの勇気を与えることは間違いありません」と書いています。


 本来ならば、本書はわたしのような中年男性ではなく女性が読むべき本なのでしょうが、わたしにとっても色々と考えさせられる一冊でした。