No.0689 小説・詩歌 『ビブリア古書堂の事件手帖4』 三上延著(メディアワークス文庫)

2013.03.15

 『ビブリア古書堂の事件手帖4~栞子さんと二つの顔』三上延著(メディアワークス文庫)を読みました。
 ライトノベル・シリーズ『ビブリア古書堂の事件手帖』の最新刊です。帯にはドラマ化された番組で主役の篠川栞子を演じている剛力彩芽の写真がありますが、やはり年齢といい作品に描写されている外見や雰囲気といい上戸彩のほうが絶対に良かった!

 カバー表紙の裏には、次のような内容紹介があります。

 「珍しい古書に関係する、特別な相談―謎めいた依頼に、ビブリア古書堂の二人は鎌倉の雪ノ下へ向かう。その古い家には驚くべきものが待っていた。
 稀代の探偵、推理小説作家江戸川乱歩の膨大なコレクション。それを譲る代わりに、ある人物が残した精巧な金庫を開けてほしいと持ち主は言う。
 金庫の謎には乱歩作品を取り巻く人々の数奇な人生が絡んでいた。そして、迷宮のように深まる謎はあの人物までも引き寄せる。美しき女店主とその母、謎解きは二人の知恵比べの様相を呈してくるのだが―」

   わが書斎の『世界幻想文学大系』

 これまでの3作は連作短篇でしたが、今回は初の長篇となっています。しかも江戸川乱歩が題材ということで、乱歩大好きなわたしは狂喜しました。特に、わたしは『パノラマ島奇譚』『押絵と旅する男』などの幻想性の強い乱歩作品が大好物なのです。思えば、わたしは小学校の頃に乱歩の作品を読み耽って幻想文学の魅力に目覚めたのでした。と思ってシリーズ第4巻となる本書を読み始めたら、いきなり21ページに国書刊行会の『世界幻想文学大系』が登場して、また狂喜!

   紀田順一郎氏の2冊の著書

 この海外の幻想文学の名作を揃えた全集は中学から高校にかけて読み耽りました。監修を評論家の紀田順一郎氏と作家の荒俣宏氏が担当しています。荒俣氏といえば日本における幻想文学の第一人者ですが、その師匠が紀田氏です。慶應大学の先輩だった紀田氏の協力で、荒俣氏はこの道に進んだのです。紀田氏にはビブリア・シリーズに強い影響を与えたとされる『古本屋探偵の事件簿』『古書収集十番勝負』(ともに創元推理文庫)という作品もあります。
 ちょうど少し前に、わたしは紀田氏の著書を2冊読みました。1冊は『幻想と怪奇の時代』(松籟社)で、『世界幻想文学大系』に関するエピソードも登場します。そして、もう1冊は『乱歩彷徨~なぜ読み継がれるのか』(春風社)でした。

   『少年探偵』シリーズ全26巻!

 そんなわたしですから、この『ビブリア』第4巻は、もう貪るように一気に読みました。古書、幻想文学、乱歩・・・わたしの趣味に100%合った内容でした。うーん、これはもうたまらぬものなり! さらには、乱歩の児童書まで登場して、物語の中で重要な役割を果たします。一昨年、わたしはこのシリーズのポプラ文庫版を全26巻一括購入しました。「大人買い」というやつです。
 このシリーズは昭和39年(1964年)から刊行がスタートしていますが、わたしは多大な影響を受けました。小学生だったわたしは、このシリーズのオリジナル単行本を1冊づつ自分で購入しました。

   最初に買った『悪魔人形』と『魔法博士』

 この『少年探偵』シリーズは、書店の児童書コーナーでも怪奇的かつ猟奇的な香りをプンプン放っていました。そのせいか、『名探偵ホームズ』や『怪盗ルパン』のシリーズは小学校の図書室に置いてあっても、『少年探偵』は絶対に置いていませんでした。ですから、それを読むためには、ひたすら小遣いを貯めて、自分で本屋さんで買うしかなかったのです。
 しかし、この『ビブリア』第4巻を読むと、登場人物たちの何人かは小学校の図書館で読んだことになっています。世代や地域も違うのでしょうが、あのようなオドロオドロしい本を図書館に並べる小学校もあったのですね。その『少年探偵』シリーズの中でも、わたしが最初に求めた『悪魔人形』という作品が、この『ビブリア』第4巻ではちょっとした役割を果たすのであります。これは本当に、もう、たまらん!

 わたしも含めて、乱歩の『少年探偵』シリーズから読書の楽しさを知った子どもは多いと思います。この『ビブリア』第4巻でも、古書店「ヒトリ書房」の主人である井上が小学校の図書館から『少年探偵』シリーズを借りて一気に読んでしまったことを告白し、次のように語ります。

 「それが俺の江戸川乱歩の・・・・・いや、探偵小説、推理小説の原体験だ。あの頃、そういう子供は珍しくなかっただろう。そこから児童向けに翻訳されたホームズものやルパンものを読みあさって、十代で国内外の本格推理を手当たり次第に読むようになった。そのうちに幻想文学やSFにも読書の幅を広げて・・・・・とにかく、本を読むことが好きで仕方がなかった」

 これを読んで胸が熱くなった読者は、わたし1人ではありますまい。ミステリーですので詳しいストーリーの紹介は控えますが、この第4巻に登場するさまざまな小道具やトリックがすべて乱歩作品へのオマージュになっています。このあたりも、乱歩ファンにしてみれば嬉しいところです。

 前3作と打って変わって、栞子の母親が登場するのですが、これが娘に輪をかけた本の虫であり、古書の知識はハンパではありません。栞子を見守る大輔は、最高のビブリオマニアであると信じていた栞子よりもさらなる上手の出現に戸惑います。このあたり、なんだか格闘コミックの『グラップラー刀牙(バキ)』みたいでした。最強の格闘家をめざす範馬刀牙よりも父親・範馬勇次郎のほうが遙かに強いというやつです。これは親子のレベルにとどめておかないと、延々とさらに強い相手が現れる展開にしてしまうと、『北斗の拳』とか『ドラゴンボール』のように、エンドレスな「強さのインフレ」が起こってしまいます。また、親子間であっても、『美味しんぼ』の山岡と雄山のようにはなってほしくないですね。

 まあ、この「ビブリア」シリーズはそれほど長期化はされないでしょう。この第4巻の内容を読むと、あと2巻ぐらいでラストを迎えるのではないでしょうか。著者も、「あとがき」の最後に「この物語もそろそろ後半です。最後までお付き合いいただければ幸せです」と書いていますし・・・・・。いや、それにしても、本当に面白い物語でした。夢中で読みました。
 シリーズ最高傑作だと確信しますが、テレビドラマとは別に、この第4巻だけ映画化してくれないでしょうか。もちろん、栞子役は上戸彩で!

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