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背負い続ける力』

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No.0674

 

 『背負い続ける力』山下泰裕著(新潮新書)を読みました。

 御存知の方も多いことと思いますが、わたしの「一条真也」というペンネームは、梶原一騎原作のテレビドラマ「柔道一直線」の主人公「一条直也」にちなんだものです。わたしは講道館で修行した父の影響で、幼少の頃から柔道の稽古に励みました。高校時代には二段を取得していますが、今年から稽古を再開し、三段を目指したと思っています。しかし、いったい最近の日本柔道はどうしてしまったのでしょうか?金メダリストである内芝選手のセクハラ問題に続き、全日本女子の園田監督のパワハラ問題・・・・・まったく、講道館の創始者である嘉納治五郎があの世で泣いているはずです。

 

 そんなとき、わたしのような柔道愛好者(あえて柔道家とは自称しません)が思い浮かべる理想の柔道家こそ、本書の著者である山下泰裕氏です。
 1984年のロサンゼルス五輪で無差別級の金メダルに輝いたのみならず、引退から逆算して203連勝、また外国人選手には生涯無敗という大記録を打ち立てました。85年に引退されましたが、偉大な業績に対して国民栄誉賞も受賞されています。とにかく当時、27歳で国民栄誉賞を受賞したという事実は、あまりにも偉大であると言えるでしょう。1月19日に亡くなった元横綱の大鵬の受賞が決定しました。あの32回の大相撲史上最多の優勝回数を誇る「昭和の大横綱」でさえ、72歳で亡くなった後に受賞したわけです。ちなみに山下氏の次に若い受賞者は女子マラソンの高橋尚子(28)で、続いて女子レスリングの吉田沙保里(30)となっています。山下氏の27歳というのは、今でも史上最年少なのです。

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   「史上最強の柔道家」である山下泰裕氏と

 


 昨年の秋、わたしは山下氏に初めてお会いしました。山下氏は、「NPO法人柔道教育ソリダリティー」の代表として、柔道を通じた国際交流を推進しておられます。特にミャンマーとの国際交流に情熱を燃やしておられ、その関係で「日緬仏教文化交流協会」の代表である佐久間進会長と会談の席が設けられ、同協会の理事であるわたしも同席しました。ミャンマーの件についても大いに意見交換させていただきましたが、わたしには山下氏と柔道の話をたっぷりさせていただいたことが何よりの至福の時間となりました。


 山下泰裕といえば、なんといっても「史上最強の柔道家」として知られます。
 わたしは、木村政彦、ヘーシンク、ルスカなど歴代の強豪に比較しても山下氏のほうが強いと確信します。わたしは柔道こそ最強の格闘技であると信じています。ですから、最強の柔道家である山下泰裕こそは最強の格闘家であったと本気で思います。「世界最強の男」と呼ばれたヒョードルも、あるいはヒクソン・グレイシーも、全盛期の山下氏の前では数分と立っていられなかったでしょう。


 わたしと会ったときも、山下氏は「ルスカが猪木さんにプロレス・スタイルで敗れたとき、柔道の名誉挽回のために猪木さんと闘おうと本気で考えていました」と真剣な顔で語ってくれました。その後、山下氏は新日本プロレスにスカウトされる騒ぎとなりますが、猪木・山下戦、ぜひ見たかったですね!


 話が脱線してしまいました。本の話に戻します。本書は、「史上最強の柔道家」である著者の人生論です。本書の構成はまことに素晴らしく、次のようになっています。


「はじめに」 
第一章:期待を背負う
第二章:日本を背負う
第三章:家族を背負う
第四章:柔道を背負う
第五章:教育を背負う
第六章:世界を背負う
「おわりに」


 このように「背負う」が本書の一貫したキーワードになっています。「はじめに」で、著者は次のように述べています。


 「人間は『自分のため』だけを考えている時には、大した力を発揮できない。家族のため、恩師のため、日本のためと、自分よりも大きなものを背負っている時にこそ、ずっと大きな力が出せる。古来『情けは人の為ならず』と言うが、自分以外のもののために戦い続けていると、結果的に人が自分を助けてくれるようになるし、自分も成長し、ひとりではなし得なかったような大きな果実を手にする機会も巡ってくる。何かを背負い続けてきた人生に、私は一片の悔いもない」


 これはまさに、わたしが社員にもよく言っていることです。自分を支え応援してくれる人々に対する「感謝の心」、お客様など自分以外の人々のために行動するという「利他の精神」そのものです。これを発揮することで、人生における素晴らしい成果を収めることができるのです。

 

 また、本書の中で特に印象に残ったのは、創始者である嘉納治五郎が掲げたという「柔道の3つの目的」でした。すなわち、勝負法、体育法、修心法です。勝負法とは、実際の試合で勝つこと、悪漢から身を守る護身術です。体育法とは、運動能力を高め、健全な肉体を作ることです。修心法とは、社会に適合し、社会にとって有益な人物になるための方法です。
 つまり、柔道を通して心身を磨き高め、それによって世に補益する人材を輩出するのが真の目的なのです。著者は、「嘉納師範が柔道で目指したのは、心身両面を鍛え上げる教育体系と言ってよいのではないだろうか」と述べています。

 

 そう、晩年の嘉納治五郎は「精力善用」と「自他共栄」の精神を説きました。「柔道で大事なのは精力善用である。自分のエネルギーを、よきことに使いなさい。そして、自他共栄である。自分だけでなく他人も共に栄える世の中を、柔道を通じて作っていこう」と訴え続けたのです。この言葉、セクハラやパワハラで身を滅ぼした柔道関係者は、どのような思いで聞くのでしょうか。

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   山下泰裕氏のサイン色紙

 


 「おわりに」で、著者は「私はいま、第四の人生を生きている」と述べています。

 

 第一の人生は、ライバルたちとしのぎを削った選手時代です。9歳で柔道を始め、28歳で現役引退を表明するまで、19年間にわたって柔道界の一線を走り続け、前人未到の記録を打ち立てました。

 

 第二の人生は、現役引退後の指導者としての人生です。野村忠宏選手、古賀稔彦選手、井上康生選手、篠原信一選手など、素晴らしい名選手たちを育てました。

 

 第三の人生は、シドニーオリンピックを最後に、選手、指導者として追求し続けた勝負の世界から離れてからの人生です。
 特に、国内外の柔道界を支える活動に力を注いできました。


 そして第四の人生は、2007年に教育コーチング理事を離れてからの人生です。現在はスポーツ、人間教育、国際交流という3つのテーマを複合的に絡めた活動を展開しています。ミャンマーや中国をはじめ、紛争の絶えないパレスチナにまで柔道指導に赴く著者の姿は、武道を通じての平和の使者そのものです。

 

 史上最年少で国民栄誉賞を受賞した著者に、いつの日かノーベル平和賞を受賞していただきたいと願っています。わたしへの色紙に書いてくれたように「夢への挑戦」を座右の銘とする山下泰裕氏。これからも、山下氏の新たな夢への挑戦から目が離せません。


 最後に、本書は、企業や組織のリーダー、一般のビジネスマンなどにとっても非常に参考になる内容です。ぜひ、ご一読下さい。


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 わたしの夢は、柔道三段!