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トーチソング・エコロジー』

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No.0647

 

 『トーチソング・エコロジー』第1巻、いくえみ綾著(幻冬舎コミックス)を読みました。

 

 朝日新聞の書評で知って興味を持ち、購入しました。平凡な役者志望の若者の前に、自分にしか見えない不思議な少女が現れるというファンタジー漫画です。帯の裏には、次のような内容紹介があります。

 

 「しがない役者、清武迪。最近なぜか頭の中で聴いたことのない歌が鳴っている。そんなとき、アパートの隣の部屋に、高校時代の同級生だった日下苑が引っ越してきて!?そして彼女に寄り添う謎の少女とは・・・・・。この世の片隅で鳴る、不思議な失恋歌」

 

 そう、「トーチソング」とは「失恋歌」という意味なのですね。


 著者は、わたしより1歳下の1964年生まれで、北海道名寄市出身だそうです。現在は北海道札幌市に在住とのこと。1979年、「マギー」でデビューし、2000年に『バラ色の明日』で第46回小学館漫画賞を受賞、さらに09年には『潔く柔く』で第33回講談社漫画賞少女部門を受賞しています。

 

 ペンネームの「いくえみ綾」は「いくえみ・りょう」と読みます。これは、尊敬する漫画家くらもちふさこの『小さな炎』『白いアイドル』『糸のきらめき』それぞれの登場人物の名前に由来するそうです。


 わたしは著者の漫画を読むのは初めてなのですが、絵もうまく、物語にもすっと入っていけました。なんというか、少女漫画の絵の中には生理的に合わない作品が多々あり、また恋愛偏重のストーリーにも違和感を覚えることが多いのです。

 でも、この作品は、どちらかというとわたし好みの漫画でした。何よりも、「生者は死者とともに生きている」という世界観がわたしにマッチしました。

 主人公の清武迪は、隣人・日下苑が恋心を寄せていた高校時代の親友の霊が見えるのです。彼は自殺したのですが、そのことは迪にとって大きな出来事でした。「親友を亡くした人は、自分の一部を失う」という言葉があります。

 まさに、親友の死によって迪の一部は失われてしまったのでした。そんな迪の前に、ときどき親友の霊が現れては、他愛もない会話を交すのでした。

 といっても、この作品はいわゆるホラーではありません。死者が生者の側に寄り添っていることを当たり前のこととして自然に描いています。

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   「魂のエコロジー」を提唱しました

 


 このナチュラルな死者の描き方がタイトルの「エコロジー」という言葉につながるように思います。わたしは、本書のタイトルから「魂のエコロジー」という言葉を連想しました。

 かつて、わたしが『ロマンティック・デス~月を見よ、死を想え』(幻冬舎文庫)で提唱した言葉です。わたしは、同書で次のようなことを書きました。

 現代の文明は、その存在理由を全体的に問われていると言えます。近代の産業文明は、科学主義、資本主義、人間中心主義によって、生命すら人為的操作の対象にしてしまいました。そこで切り捨てられてきたのは、人間は自然の一部であるというエコロジカルな感覚であり、人間は宇宙の一部であるというコスモロジカルな感覚です。ここで重要になるのが、死者と生者との関わり合いの問題です。


 日本には祖霊崇拝のような「死者との共生」という強い文化的伝統がありますが、どんな民族にも「死者との共生」や「死者との共闘」という意識が根底にあると言えます。

 

 20世紀の文豪アーサー・C・クラークは、SFの金字塔である『2001年宇宙の旅』の冒頭に、「今この世にいる人間ひとりの背後には、20人の幽霊が立っている。それが生者に対する死者の割合である。時のあけぼの以来、およそ1000億の人間が、地球上に足跡を印した」と書いています。私はこの数字が正しいかどうか知りませんし、また知りたいとも思いません。重要なのは、私たちのまわりには数多くの死者たちが存在し、私たちは死者たちに支えられて生きているという事実です。

 

 多くの人々が孤独な死を迎えている今日、動植物などの他の生命はもちろん、死者たちをも含めた大きな深いエコロジー、いわば「魂のエコロジー」のなかで生と死を考えていかなければなりません。本書『トーチソング・エコロジー』が、「魂のエコロジー」を日本人が考え直すきっかけになることに期待しています。

 

 第2巻以降を読むのは、今からとても楽しみです!