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Title

怪獣記』

Category

No.0659

 

 『怪獣記』高野秀行著(講談社文庫)を読みました。

 

 『幻獣ムベンベを追え』と同じく、UMA研究家でもある著者が謎の水棲生物を探すエキサイティングなノンフィクションです。表紙カバーの裏には、以下のような内容紹介があります。

 

 「トルコ東部のワン湖に棲むといわれる謎の巨大生物ジャナワール。果たしてそれは本物かフェイクか。現場に飛んだ著者はクソ真面目な取材でその真実に切り込んでいく。イスラム復興主義やクルド問題をかきわけた末、目の前に謎の驚くべき物体が現れた!興奮と笑いが渦巻く100%ガチンコ・ノンフィクション」


 本書の「目次」は、以下のような構成になっています。

 

第1章:驚きのUMA先進国トルコ

第2章:ジャナ、未知の未知動物に昇格

第3章:天国の朝

第4章:謎の生物を追え!

「エピローグ」

「あとがき」

「文庫のためのあとがき」

解説(宮田珠己)


 第1章「驚きのUMA先進国トルコ」の冒頭で、著者は次のように書いています。

 

 「私はなんでも『未知』が好きである。

 土地でも民族でも植物でも遺跡でも、もう『未知』と聞くだけで神経がざわめいてくる。

 今(2007年)から18年前、大学探検部時代に仲間たちとアフリカ・コンゴに謎の怪獣ムベンベとやらを探しに行ったのが、私の未知探求の原点だ。

 コンゴには通算4回も足を運んだし、その後、中国で野人を探したりもした。

 ここ10年くらいは、別の『未知』に気をとられ、未知動物とはごぶさたしていたが、前年からはじめたインドの怪魚『ウモッカ』探しで久々に未知動物に復帰した」


 そして、著者は本書のテーマである「ジャナワール」を探すことになるのでした。本書の主人公ともいえる「ジャナワール」とは何か。著者は書いています。

 

 「トルコ東部にあるワン湖に棲むとされ、一言でいえば、ネッシー型の巨大水棲動物ということになっている。体長は約10メートルとネッシー級だが、どうもそれがいわゆる『潮を吹く』といった感じらしいので、UMAファンの間では『クジラの祖先であるバシロサウルスがかつて海だった可能性のあるワン湖に取り残されて生き残っているのではないか』と推測するというか夢見る人もいる。もっとも実際にはバシロサウルスは子孫のように潮を吹かなかったらしく、それでは成り立たないらしいが、なにしろ、関心がないので細かいことはよく知らない」


 ここで、著者はジャナワールに「関心がない」と明言しています。未知の動物には目がないはずの著者が、いったいどうしたのでしょうか?

 著者がジャナワールに関心を持てないのには理由があるそうです。それは、ジャナワールが話題になったことには、現代メディアが生んだ共同幻想という側面があることです

 1997年に現地の人の手でビデオで映像が撮影され、CNNを筆頭に世界の各メディアで流されました。さらに本格的なネット時代の到来と重なっていたため、ジャナワールの映像は世界中の誰もがいつでもウェブサイトで見られるようになりました。著者にとってのジャナワールとは、「巨大マスコミとインターネットの作り上げたファンタジー」でした。

 著者は、「UMAというのは一種の病気であり、感染力は強い。近くに強力な症状を発症している患者がいると、『そんなもんにかかってなるものか』という自分の意志とは関係なく、罹患することがある」


 しかし、目に見えない運命の糸に操られて、著者はトルコを訪れ、ジャナワール探しに挑戦することになります。トルコといえば、世界遺産が多いことで知られるように、古代遺跡の宝庫です。数多くの謎も残っており、その最たるものこそ、アララト山に漂着したという「ノアの箱舟」の伝説でしょう。この『旧約聖書』に登場する「ノアの箱舟」は、幼いわたしの心を鷲掴みにし、小学生3年生ぐらいから「いつか大人になったら、アララト山にノアの箱舟を探しに行こう」と思っていました。

 しかし、本書に書かれた著者の言葉に、わたしは愕然となります。トルコという国は「フェイク」つまり「ニセモノ」だらけと書いた後で、著者は次のように述べるのです。

 

 「なかでも最大のフェイクは『ノアの箱舟』である。雲の覆われたアララット山が間近に見える場所にそれはあったが、『どうしてこれが?』という代物だった。

 なにしろ、箱舟と言いつつ、木は何もない。ただ、土が大きい菱形に盛り上がっていて、それが旧約聖書に描かれた箱舟の形とサイズにぴったり一致するという。しかし、箱舟は木造のはずだ。どうして木が土になってしまうのか。

 ばかばかしいにもほどがある。だいたい、聖書によれば、箱舟はアララット山の山頂に着いたのだ。なぜかというと、アララット山が聖書の世界ではいちばん高い山で、洪水のあと、いちばん最初に水面から顔を出した土地がそれだったからだ。

 なのに、どうしてアララット山の頂上でなくて、ふもととも言えない場所に箱舟があるのだ? 富士山と静岡市くらい離れており、あまりにも遠い」

 

 このようなわけで、著者たちはワン湖周辺=フェイク天国=噴飯モノと決めつけ、当然ながらジャノワールのこともフェイクと疑うのでありました。


 そんな著者ですが、なんと本当にワン湖でジャノワールと思しき大きな魚影に遭遇するのです。UMA研究家としては、まさに千載一遇の機会ですが、そのときの著者の反応は以下のようなものでした。

 

 「『目撃者の心理』というのも初めて味わった。てっきり、とんでもなく興奮するだろうと思ったが、ちょっとちがう。図鑑にあるような恐竜や古代生物がぐいっと頭をもたげたりしたら話は別だろうが、何かわからないので、興奮するというより『なんだ、なんだ?』と首をかしげ、眉をひそめ、頭をポリポリかき・・・・・そう、ただただ困惑するのだ」


 ジャノワールと思しき物体は遠くに、しかも水の中にいます。それが困惑の要因で、とりあえず向こうがこちらに害を与えることもないですし、著者たちが向こうを追いかけたり捕まえたりできるわけでもありません。そんな思考を巡らせる著者たちをあざ笑うかのように、いくつものバカでかいものが水面を浮いたり沈んだりを繰り返しました。なにか、「陽気な無力感」というものを感じ、「これをあとで人に訊かれても困るな・・・」と思ったという著者は、次のように書いています。

 

 「今まで目撃談が切迫してないとか情熱がないとか言いたい放題だったが、今になって『そりゃそうだ』とわかる。なにしろ、目の前で見ているときですら困惑しているのだ。それをあとで他人に説明したらますます困惑するに決まっている。ただ不思議なものというのは、切迫とか情熱という感情とは無縁なのである」

 

 これは、実際にUMAを目撃してしまった人間の正直な言葉であると思います。


 さらに、著者は次のように示唆に富んだ発言もしています。

 

 「集団目撃の危険性にも気づかされた。百人で見ても信憑性が百倍になるわけじゃないのだ。集団では声の大きい人間が勝つという、一般世間の法則がここでもあてはまるのだ」

 

 著者がいたちっぽけな集団でさえ、中心メンバーの1人の主張にみんな反論できませんでした。ましてや、集団の中に地元の有力者などがいたらどうでしょうか。村長なり部長なり知事なりが「あれは間違いなくジャノワールだ。頭はドラゴンのようで体は10メートルもあった」と言えば、他の99人はもう何も言えません。「あれ、黒っぽい物体にしか見えなかったよなあ・・・・・」と、あとで仲間内でささやきあうのがせいぜいなのです。


 とはいえ、著者は確かにジャノワールらしき強大な黒い影を水中に見ました。それをビデオ撮影することにも成功しています。著者は書きます。

 

 「あの黒い物体の正体はわからない。

 しかし、それは少なくとも魚、草、岩、鳥、カメなど、誰かが思いつくものじゃない。

 何かわからないが、もっと意表をつくものだろう。

 そして未知のものかもしれない」

 

 この一文を読んで、わたしは本当に爽やかな気分になりました。またしても、著者から「根拠のない勇気」を与えられた心境です。

 

 なお、26日の朝、ヤフー映像トピックスで「イギリスのビーチで目撃された謎の生物」という動画を見ました。まだまだ世界には怪獣のロマンが溢れているようです。