No.0669 コミック 『本棚の神様』 深沢かすみ著(集英社)

2012.08.30

 『本棚の神様』深沢かすみ著(集英社)を読みました。

 帯には「―人生を変えた1冊との邂逅を描く珠玉の読み切り漫画作品集―」と大きく書かれており、続いて「読書ガイドとしても最適!!」「元となった文学作品の解説コラム+BOOKガイド付き」と記されています。

 また、カバー裏には次のような内容紹介があります。

 「娘を兄に預け歌手の夢を追った母親、ちゃんと理解し合えぬまま姿を消した友人、互いの感情のすれ違いで崩壊寸前の家族・・・・・。さまざまな人生のさまざまな瞬間に訪れる、1冊の本との出会い、ふれあいを描いた漫画作品集」

 本書の「目次」は、以下のようになっています。

BOOK  芥川龍之介「杜子春」
BOOK  太宰治「黄金風景」
BOOK  T・ウィリアムズ「ガラスの動物園」
BOOK  野上弥生子「山姥」
BOOK  堀辰雄「風立ちぬ」
BOOK  八木重吉「定本 八木重吉詩集」
BOOK  イプセン「人形の家」
「BOOKガイド」

 『本棚の神様』というタイトルから、わたしは最初、図書館の司書か書店員の物語なのかなと思いました。でも、それは勘違いで、この漫画には主人公はいません。それぞれの物語では、さまざまな人物が登場して、さまざまな人生の辛苦を味わい、そしてさまざまな本と出合って生きてきます。

 文学作品ではないにせよ、わたし自身も本との出合いで人生の活路を得たという経験があります。人生を変えた1冊というのは確かに実在します。もし、「自分には、そんなものは関係ない」と言う人がいたら、その人はまだその1冊に出合っていないだけでしょう。その運命の1冊に邂逅するために、人は読書を続けるのかもしれません。

 本書に収められた7つの物語は、いずれも読む者の胸を打ちます。なんというか「人間が生きる意味」のようなものを問うているような気さえします。これほどの名作が現在絶版中というのが本当に残念です。本を愛するすべての人におススメしたいと思います。

 続いてご紹介したいのが、『草子ブックガイド』第1巻、玉川重機著(講談社)です。帯には「青春は、一冊の本からはじまった。」と大きく記され、続いて「読書の歓びを繊細華麗に描き出す幻の漫画家12年ぶりの新作」と書かれています。

 アマゾンには、以下のように本書の内容が説明されています。

 「内海草子(うつみそうこ)は本を読むのが好きで好きでたまらない中学生。いつも本を読んでいて、本の中の世界にひたっている。内気で、他人と打ち解けるのが苦手な草子にとって、古書・青永遠屋(おとわや)の店主は良き理解者。読んだ本の感想を描いた草子の『ブックガイド』が、店主を喜ばせ、さらには周囲の人々に本を読むことの素晴らしさを伝える。濃密な絵柄で、読書の魅力を最大限に表現する」
 どこにも居場所がない草子は、東京の小さな古書店で万引きを繰り返します。その行為そのものは立派な犯罪行為であり、けっして許されることではありません。
 しかし、草子の孤独に気づいていた店主は、彼女の良き理解者となります。

 草子は、青永遠屋を通じて出会った本を、ひたむきに読み解きます。そして、その感想をメモに記すことによって、徐々に人々や世の中と結びついていきます。
 草子独自の「ブックガイド」は、読んだ本のポイントを繊細にすくいあげ、イメージ豊かに語り尽くします。それも、草子が本の中に登場するキャラクターに毎回なりきるのです。本の登場人物になるきることによって、草子は鮮やかな「読み」を披露します。
 この第1巻には、『新約ロビンソン漂流記』『ティファニーで朝食を』『山月記』『名人伝』『山家集』などが登場します。いずれの話もそれぞれ面白いのですが、その中でも特に興味深かったのは、『ティファニーで朝食を』のエピソードです。

 草子は、この本でブックトークに挑戦するのです。ブックトークとは、テーマを1つ決めて、それに関連した本を数冊選び、それぞれの本につながりを持たせながら紹介していく方法です。語りのうまい司書が話術を駆使して本を紹介していきます。司書の代わりに、児童や生徒がやることもあります。
 このブックトークの場面を読んで、わたしは現在流行中の「ソーシャル・リーディング」の原点であると思いました。「ソーシャル・リーディング」というのは、インターネットなどで多くの人と本の感想などを共有する読書法です。

 本好きの人は1人で読書をしますが、それだと寂しくて、普通は何か共感したいという欲求があるものです。ということから、現在はいくつかのソーシャルリーディングサイトがインターネット上に作られています。その原点こそ、本書で草子が行ったブックトークなのです。読書というと、なんだか孤独な行為のように思いがちですが、読書によって他人とつながることもできるのです。本書は、そのことを教えてくれます。

 第2巻の刊行が「待ち遠しい」と心の底から思います。

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