No.0598 経済・経営 『信頼への挑戦』 鶴蒔靖夫著(IN通信社)

2012.05.09

 互助会業界の大先輩である千代田セレモニーグループの大石和雄会長から送ってただいた本を読みました。『信頼への挑戦』鶴蒔靖夫著(IN通信社)という本です。「千代田セレモニーグループのあくなき情熱」というサブタイトルがついています。

 著者の鶴蒔靖夫氏は、ご自身が代表を務められているIN通信社から、さまざまな企業に関する本を出版されています。1991年には、やはり大手互助会であるメモリードさんについて書いた『夢企業 メモリードグループの挑戦』を刊行されています。近著には『「シャボン玉石けん」の挑戦』があり、同書はシャボン玉石けん・森田隼人社長の披露宴の引き出物の袋に入っていました。

 さて、『信頼への挑戦』には大石会長からの挨拶状が添えられていました。それによると、80才近くになられた大石会長が千代田に在籍されて人生過半の43年となり、これまでの人生を振り返って『千代田と私』という本を書こうとされたそうです。

 そんな折、ラジオ日本の番組「こんにちは鶴蒔靖夫です」に出演され、「これからの葬儀は?」のインタビューに答える機会がありました。その際に、参考資料として提出された千代田社内研修のしおりを読んだ鶴蒔氏から「本を書かせて下さい」と言われ、今回の出版に至られたとか。

 本書の帯には、「心と心の絆のために」と大きく書かれ、「いま、セレモニーのあり方を問う」と続いています。また、本書の「目次」は以下のようになっています。

「はじめに」
第1章:いま、お葬式が変だ!
第2章:千代田セレモニーグループ・大石和雄の情熱の軌跡
第3章:千代田セレモニーの挑戦
第4章:互助会のあり方を問う
第5章:時代とともに変化する葬式事情
第6章:いま「心のサービス」の時代を迎えて
座談会:冠婚葬祭業界の未来のカギを握る「心のサービス」の継承

 「はじめに」の冒頭で、著者は日本が世界有数の高齢化大国となったことをデータをあげて説明します。しかしながら、いくら日本人が長寿になったとしても「死は、いつも生の隣にある」として、次のように述べます。

 「それを如実に見せつけられたのが、平成23年3月11日に発生した東日本大震災である。地震と津波は、さっきまで生きていた多くの人たちの生命を一瞬にして奪い去った。それは、生の限界と死の必然、すなわち生あるものは必ず死ぬという冷徹な事実を改めて知らしめることになった。
 実際、東日本大震災を契機に日本人の死生観、さらには死者を見送る葬式に対する考え方も変化してきた。震災をきっかけに、葬式は単なるセレモニーではなく、故人と残された人たちとの絆を見つめ直す場であり、祈りと鎮魂の場であることを改めて気づかされた人も少なくないはずだ」

 ここで、大石会長の名前が初めて本書に登場します。

 「本書で取り上げる千代田セレモニーグループ代表・大石和雄氏は、『大災害の発生を契機に日本人がむかしから大事にしている人と人の絆を見直す気運が高まっています』と指摘する。その根拠として、被災地ではいまも行方の知れない身内を探索し、倒壊した家から先祖の位牌を捜す人たちが大勢いることをあげる。
 人と人との絆は、生者と生者だけのものではない。共に生き、人生に歴史を刻みながら故人となった死者とも絆が結ばれているということだ」

 さらに、著者は次のように、大石会長の葬儀に対する考え方を紹介します。

 「大石氏は『葬式は人と人の永遠の別れに際して心の区切りをつけ、故人の冥福を祈ると同時に、残された人たちの悲しみを癒す大切な行事です』と葬儀の意義と必要性を説く。すなわち、葬式は、死者と生者の関係に根ざす厳粛な儀式であり、やむにやまれぬ気持ちが葬式をあげる動機になっているということだ。だから、『葬式で大切なのは故人に対する深い愛情なのです』という。
 だが大石氏は、従来の葬儀における葬儀業者と宗教者の考え方や振る舞いに問題があったことも認識している。だから、葬儀のあり方が議論されることは必然であり、生者と死者の永遠の別れを演出する葬式にも、時代の要請が反映されるのは当然ととらえている。『現代日本人の葬式に対する要求は十人十色。多様化、個性化、簡素化が進むのは、時代のしからしむるところです。ですから、葬儀の主催者も葬儀業者も従来の形式、規模、施行方法にこだわる必要はありません。葬家が納得し、満足する葬式をあげるように最大限の努力をすればいいのです』と明言する。
 千代田セレモニーは、この大石氏の考え方にもとづき、『葬家が納得し、満足する葬式の施行』を経営理念に掲げている」

 「葬祭業は地元産業」というのが大石会長の持論だそうです。本書には、次のように千代田セレモニーグループの目的が紹介されています。

 「互助会会員は、同社の営業所や葬祭ホールがある地域で暮らす人たちである。いずれも同じ地域、町会に所属する『隣組』なのだ。この近隣に住む者同士の関係を重視し、長い間日本人が失っていた『人と人との絆』の再生をはかり、家族の絆と地域連帯意識の再生を達成するのが千代田セレモニーグループの究極の目的である」

 第1章「いま、お葬式が変だ!」では、島田裕巳氏の『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)を紹介し、同書が葬式論議に火をつけたと述べています。学者やジャーナリストを中心に、多くの「葬式無用論」が提唱されました。

 しかしながら、島田氏をはじめとする知識人の人々は「人間の死の尊厳を論じ、葬儀の通俗化を理論的に批判し、その結果として葬式が無用であることを主張している。つまり理屈である」と断じています。そして、著者は次のように、わたしの名前を持ち出されています。

 「むろん、世間に現れたのは葬式反対論だけではない。『葬式は人生の大切なけじめ』とする必要論もいくつか展開されている。たとえば、大手冠婚葬祭互助会の株式会社サンレー代表取締役社長・一条真也は、著書『葬式は必要!』(双葉社刊)で『儀式には<かたち>が必要です。葬儀とは、人間の死に<かたち>を与えて、あの世への旅立ちをスムーズに行なうこと。そして、愛する者を失い、不安に揺れ動く遺族の心に<かたち>を与えて、動揺を抑え、悲しみを癒すこと』と意義を説く。
 このように『葬式は、要らない』の刊行を契機に、書籍だけでなく、各種の雑誌や新聞などでも葬式に対する賛否両論が活発に議論された」

 図らずも、千代田セレモニーグループさんについての本に小生の名前を見つけ、まことに光栄でした。なぜなら、わたしは同社の大石会長を業界の大先輩として尊敬しているからです。大石会長は、わたしが副会長を務める全互連(全国冠婚葬祭互助連盟)の大御所であり、わたしも若い頃から御指導いただきました。息子さんである千代田の大石竜二社長とも、親しくお付き合いをさせていただいています。

 第6章「いま『心のサービス』の時代を迎えて」の最後には、大石会長の死生観が以下のように紹介されており、感銘を受けました。

 「いつも、自分の死を前提に仕事をしています。時流の一歩先を見て、もっとも効果的であると考える施策を講じてきました。幸い、それが功を奏して、自分でも納得できる成果をあげることができました。そうした企業人生も、もう終わりにしなければなりません。これからは、周囲の事情にわずらわされることなく、静かに、優雅に、花鳥風月ですよ」

 いま、互助会業界は大きな変化の波の中にあります。本書を読んで、業界が現在に至った歴史というか、大きな流れを知ることができました。

 大石会長の挨拶状の最後には、「我が社の社員研修の意味をもつ本ですが、ご一読賜ればと希います」と書かれていましたが、本書は互助会業界に身を置くすべての人々にとって必読の書であると思いました。

 本書をお送り下さった大石和雄会長に感謝申し上げます。

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