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稲盛和夫の実学』

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No.0553

  

 『稲盛和夫の実学』(日経ビジネス人文庫)を再読しました。

 

 これまでに10回以上は読み返した、わたしの愛読書です。著者と第2回「孔子文化賞」をともに受賞させていただいたことをきっかけに、再読してみたのです。


 3月1日、月初恒例の本部会議を行いました。さまざまな部署の予算や実績をチェックしていきます。冠婚葬祭の件数、互助会の募集口数、売上、原価、利益・・・・・次々に現れる数字の群れに向かっていく時間です。わたしは、かつて本書を読んでから、数字が好きになりました。というより、数字の持つ不思議な魅力に気づきました。


 本書は、多くの読者に愛されてきたロングセラーです。帯には、「会計がわからんで経営ができるか!」と書かれています。

 

 わたしは、2001年の10月に社長に就任しました。経営者デビューです。そのときに決心したのが、「数字に強い社長になろう」ということでした。それまでは、経済とか経営といったものをほとんど意識したことがありませんでしたし、高校のときから数学にはコンプレックスを持っていました。はっきりいって、数字には弱いほうでした。しかし、社長になったことで、金融や経済のことを学び直さなければならない必然性にかられたのです。そこで、まずは数学の入門書などから固め読みをしました。


 世の中には、数学と聞いただけで嫌な顔をする人もいます。

 

 ところが、数学ほど面白いものはありません。関ケ原の合戦の翌年に生まれたフェルマーの最終定理が証明されたのは約360年後の1995年。有史以来で最高の数学者と評されるガウスが天才ぶりを発揮していたのは、江戸時代の謎の浮世絵師・写楽と同時期ですし、ピタゴラスやユークリッドは紀元前の人物です。

 

 受験勉強とは無縁の世界で遊んでみると、数学は俄然面白くなります。「万物は数である」とはピタゴラスの言葉ですが、考えてみれば、あらゆるものは数字に置き換えられます。1人の人間は年齢、身長、体重、血圧、体脂肪、血糖値などで、国家だって人口、GDP、失業率などで表わされます。そしてもちろん企業も、売上、原価、利益、株価といった諸々の数値がついてまわります。


 企業における数値は会計という部門に集約されますが、「会計がわからなければ真の経営者になれない」と喝破したのが、本書の著者である稲盛和夫氏です。稲盛氏は、本書でひたすら会計の重要性を力説しています。

 

 わたしたちを取り巻く世界は一見複雑に見えますが、本来は原理原則にもとづいたシンプルなものが投影されて複雑に映し出されているものでしかありません。これは企業経営においても、まったく同じです。会計の分野では、複雑そうに見える会社経営の実態を数字によってきわめて単純に表現することによって、その本当の姿を映し出そうとしているのです。 


 もし、経営を飛行機の操縦に例えるならば、会計データは経営のコックピットにある計器盤に表示される数字に相当します。計器は経営者たる機長に、刻々と変わる機体の高度、速度、姿勢、方向を正確かつ即時に示すことができなくてはなりません。そのような計器盤がなければ、今どこを飛んでいるかわからないわけですから、まともな操縦などできるはずがありません。


 ですから、会計というものは、経営の結果を後から追いかけるだけのものであってはならないと稲盛氏は言います。いかに正確な決算処理がなされたとしても、遅すぎては何の手も打てなくなります。会計データは現在の経営状態をシンプルにまたリアルタイムで伝えるものでなければ、経営者にとって何の意味もないのです。本書は、わたしに経営と会計の基本を教えてくれた忘れえぬ1冊です。


 それにしても、経営を飛行機の操縦に例えた稲盛氏が、実際に日本航空の会長に就任されたときには驚き、再生不可能とまでいわれた同社を見事に再生させたときには感動しました。稲盛和夫氏は、やはり、わたしが最も尊敬する現役の経営者です。