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共喰い』

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No.0567

 

 『共喰い』田中慎弥著(集英社)を読みました。

 

 表題作の「共喰い」は、言わずと知れた第146回芥川賞受賞作です。小説の内容を自分で書くのは「ネタバレ」を避けるため、控えたいと思います。アマゾンの「内容紹介」には、以下のように書かれています。

 

 「昭和63年。17歳の遠馬は、怪しげな仕事をしている父とその愛人・琴子さんの三人で川辺の町に暮らしていた。別れた母も近くに住んでおり、川で釣ったウナギを母にさばいてもらう距離にいる。日常的に父の乱暴な性交場面を目の当たりにして、嫌悪感を募らせながらも、自分にも父の血が流れていることを感じている。同じ学校の会田千種と覚えたばかりの性交にのめりこんでいくが、父と同じ暴力的なセックスを試そうとしてケンカをしてしまう。一方、台風が近づき、町が水にのまれる中、父との子を身ごもったまま逃げるように愛人は家を出てしまった。怒った父は、遠馬と仲直りをしようと森の中で遠馬を待つ千種のもとに忍び寄っていく・・・・・。

 川辺の町で起こる、逃げ場のない血と性の臭いがたちこめる濃密な物語。

 第144回芥川賞候補作『第三紀層の魚』も同時収録」


 1972年山口県生まれの著者は、地元の高校を卒業後、2005年に「冷たい水の羊」で第37回新潮新人賞受賞、08年に「蛹」で第34回川端康成文学賞を受賞、同年に「蛹」を収録した作品集『切れた鎖』で第21回三島由紀夫賞を受賞しています。

 

 芥川賞を受賞する以前に、すでに作家としては成功を収めていたわけですね。それが、芥川受賞会見でのあの態度につながったのでしょうか。賛否両論あったようですが、わたしはあの態度は不愉快でした。芥川賞というものに対しての「礼」が決定的に欠けています。

 

 そもそも文句があるなら受賞を拒否して会見に臨めばよいし、「気の小さい選考委員が倒れたら」とか「都知事閣下うんぬん・・・・・」とつぶやきながらの批判も情けなく感じました。石原慎太郎氏に言いたいことがあるなら、正々堂々と名指しで批判を述べればよろしい。わたしは、正直言って、このような内向的でありながらエキセントリックな人物は性に合いません。それとも、小説家という職業にはそういう人が多いのでしょうか?


 著者は、谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫らの文学に出合ったとき、「それまで本というのは役に立つものだと思っていたのに、役に立たなくてもいいんだとわかった」と感想を述べたそうです。しかし、ここまで「役に立たない」小説をわざわざ自分で書かなくてもいいのでは・・・・・。石原氏が選考委員辞任の弁で述べた「自分の人生を反映したりリアリティーがないね。つまり、心身性、心と体、そういったものが感じられない」という言葉は、まったくその通りだと思うのですが。

 

 SEX、暴力、父への憎悪といったテーマもあまりに陳腐な印象を持ちました。レビューの中には「文章が端正」とか「日本文学の王道」といったものもありましたが、わたしには理解できません。ただ、「昭和の片田舎のドロドロ感がよく出た小説」というレビューだけは納得できました。