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つながる読書術』

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No.0546

 

 『つながる読書術』日垣隆著(講談社学術新書)を読みました。

 

 著者は、1958年長野県生まれ、東北大学法学部出身の作家・ジャーナリストです。『そして殺人者は野に放たれる』(新潮文庫)で新潮ドキュメント大賞を受賞していますが、最近は情報整理に関連する本もよく書いています。


 本書の「目次」は、以下のようになっています。

 

「まえがき―おもしろくなければ、本の価値なし」

第一章:仕込みとしての読書術―選別力と読解力の基礎トレをする

第二章:知的体力を鍛える読書術―おもしろい読書で、激しく脳を活動させる

第三章:書いて深める読書術―読書で得た知識を「自分のネタ」に変換する

第四章:話してつながる読書術―読書を介したネットワーキングを構築する

第五章:電子書籍時代の読書術―電子書籍と紙媒体の共存共栄は当然

「あとがき」

付録―読まずに死ねない厳選100冊の本!

 

 じつは、「つながる読書」という書名から、わたしは「DNAリーディング」のイメージを連想しました。「DNAリーディング」というのは、わたしの造語です。拙著『あらゆる本が面白く読める方法』(三五館)でも紹介しましたが、いわゆる関連図書の読書法です。1冊の本の中には、メッセージという「いのち」が宿っています。

 

 その「いのち」の先祖を探り、思想的源流をさかのぼる、それがDNAリーディングです。当然ながら古典を読むことに行き着きますが、この読書法だと体系的な知識と教養が身につき、現代的なトレンドも完全に把握できるのです。

 

 現時点で話題となっている本を読む場合、その原点、源流をさかのぼり読書してゆくDNAリーディングによって、あらゆるジャンルに精通することができます。たとえば哲学なら、ソクラテスの弟子がプラトンで、その弟子がアリストテレスというのは有名ですね。また、ルソーの大ファンだったカントの哲学を批判的に継承したのがヘーゲルで、ヘーゲルの弁証法を批判的に継承したのがマルクスというのも知られていますね。マルクスの影響を受けた思想家は数え切れません。

 こういった影響関係の流れをたどる読書がDNAリーディングです。


 しかし、本書を読んでみて、DNAリーディングとは違うことがわかりました。本書では、「つながる」に以下のような5つの意味を込めています。

 

 第1に、ある本を読んで、次の本へと「つながって」いく読書の愉楽。

 第2には、書物を通じて、人と人とが「つながって」いく醍醐味。

 第3として、ネットやリアルの読書会などを介して、本来出合わなかった名著と「つながる」贅沢な時間。

 第4は、本を読んで、無知または未知または無関心だった多彩な現実世界と向き合う「つながり」。

 第5は、自己目的の読書にとどまらず、何が起きても不思議ではないこの時代に、良かったと思ったことを即行動に移せるか否か、という「つながり」方。


 「まえがき――おもしろくなければ、本の価値なし」で、著者は次のように述べます。

 

 「改めて問うてみます。

 人は何ゆえに本を読むのか―。

 最大の理由は、『おもしろいから』でしょう。

 逆に言えば『読書はおもしろい』という体験を積み重ねられないと、たいていの人は本など読まなくなっていきます。おもしろくなければ、本に存在理由など、ないのです」

 

 著者によれば、現代の日本に自分で本を選ぶことのできる人は少ないそうです。さらに著書は、次のように述べています。

 

 「自分で『読むべき本を選べる』人、すなわち偏りのない『本の目利き』は日本に20万人ほどでしょう。この数字は大正教養主義時代から、それほど変わっていません。明治晩年の夏目漱石の小説は、いずれも初版3000部から4000部でした。死後、大量に売れ始めたのですね。売れるから読まれる。

 その傾向は、むしろ出版の王道なのかもしれません。しかし、かつては年間に出版される本が1000点あればいい時代でした。今は8万点にも達しています」


 そして、とにかく本の価値を「おもしろさ」に求める著者は、次のように述べます。

 

 「おもしろい本をおもしろく読んで蓄えた知識や知慧や勇気は、言葉を換えれば教養です。今や流行らない、軽視されてきた概念かもしれませんが、今後は生き抜く力として、ますます必要になってゆくことでしょう。

 意味のない単語では記憶力にさっぱり自信がない私ですら、意味のある、または映像的な『つながり』のある物語や教養やスキルは、かなり長期にわたって備蓄することができます。頭もしくは心の中に蓄えられているのですから、たとえ手ぶらで身ひとつになっても、地の果てまで携行することも難しくはありません」


 著者が最重要視する「おもしろさ」ですが、次の7つのカテゴリーがあるそうです。

 

 その1 むやみやたらとおもしろい

 その2 背伸びができておもしろい

 その3 「いろいろな人がいる」ことを学べるからおもしろい

 その4 知的好奇心を満たせるからおもしろい

 その5 人生の先達に学ぶ近道だからおもしろい

 その6 世の中を広く知ることができておもしろい

 その7 ありえたかもしれない人生を味わえておもしろい

 

 以上の7つのカテゴリーについて理解すれば"おもしろさの概念"が広がり、よりおもしろい本に触れる機会が増すと著者は述べています。


 また、著者は「読書」にも7種類あることを指摘します。それは以下の通りです。

 

 その1 楽しむための読書

 その2 調べるための読書

 その3 発想するための読書

 その4 「自分とは何か」を知る読書

 その5 問題解決のための読書

 その6 行動のバネにする読書

 その7 考える力をつける読書


 ということで、シンプルな「一味唐辛子の読書」から、味わい「七味唐辛子の読書」への転換を著者は提唱するわけですが、その中でも特に"その5"の「問題解決のための読書」について次のように述べています。

 

 「意外に思われる方も少なくないかもしれませんが、古典は問題解決に役立ちます。現代のビジネス書は景気や世界情勢など時代に即して書かれており、かなり具体的かつ実用的です。特段、想像力を働かせずとも、読むだけで身近に感じられるように『営業マンのための~』『課長のための~』『30代で~』といった切り口で書かれています。

 これは読み手としては非常にラクですが、そのぶん『5年たったらさっぱり役に立たない』という宿命を負っています。10年生き残るビジネス書のベストセラーというものは滅多にないと言われているゆえんでしょう」

 

 『自己啓発の名著30』や『座右の古典』も、そのメッセージはつまるところ「古典は問題解決に役立つ」ということでしょう。


 著者は基本的に本の再読はしないそうです。しかし例外もあるそうで、次のように述べています。

 

 「例外的に何百回も読んだ唯一の本は『聖書』(講談社ほか)。ときどき再読するのは、モンテーニュ著『随想録』(白水社)などです。これは本文2083ページ、索引だけで48ページという大部ですが、どこから読んでもはっとする言葉や、元気づけられる名言が詰まっています」

 

 ここまでは「へえ~、そうなの。『聖書』を何百回も読んだなんて、ひょっとしてクリスチャン?」と思っただけでしたが、続く以下の文章には少し引っ掛かるものを感じました。

 

 「そのほかに定番本を挙げるとすれば、吉川幸次郎著『論語』(上下巻、朝日選書)です。生きる上で大切なことは、すべて書いてあるのではないかと思えてきます。『自分と同じ悩みなど、大昔からあったのだ』と気づかせてくれる上に、『自分の悩みなんて小さいな』と悟らせてくれる人生訓だとも感じます。

 あらゆる答えが見つかりすぎて、私が書くネタなど残っていないように思えてしまい、『焚書にしろ!』とときどき思ってしまう(冗談ですよ)のは、愛情ゆえのことです」

 

 こういう(冗談ですよ)のような書き方は、わたしはすごく疲れてしまいます。なんだか、読者を馬鹿にしているような気さえしてきます。ところが、本書の中にはこの他にも読んで疲れる文章がけっこうあるのです。


 たとえば、「まえがき」にある以下のようなくだり。

 

 「私は『積ん読』ということをしません。確定申告の時に税理士さんが算出してくれる経費を見て、自分でも驚くのですが、年間600万円ほど本代(電子書籍や資料代も含む)に使います。買ったら必ず目を通します。そこに例外はありません。

 ケチなのかもしれませんが、一応プロですからね(笑)」

 

 「私の手法はプロとしてのものであり、言ってみれば極論ではありますが、これまでに10万冊近くを読み、現在も仕事部屋に書庫を3つもっているような極端な読書や調査を続けてきたからこそ、汎用性もノウハウも蓄積せざるをえない―と思ってくださいな(笑)」


 また、「あとがき」に書かれている以下のようなくだり。

 

 「はっきり申し上げて、書物こそ、さまざまなアイデアやスキルや疑似体験や多彩な発想を一気に手に入れることができる完成したメディアなのであり、本を読む習慣を『わずか月数冊』程度もっているだけで、全ビジネスパーソンの上位1パーセントに入ることができます。エグい言い方かもしれません」

 

 こういう言い方は不快感を感じる読者が多く、わざわざ敵を作るようなものです。内容はまっとうで好著なのに、こういう書き方をするのは惜しいですね。

 もっとも、よくカリスマ・コンサルタントを自称するような人物が、このような自慢げな物の言い方をします。「おまいらと俺様では、こんなにレベルが違うんだぜ」ということが言いたいのでしょうか。まあ、コンサルティングを業とする人には、無知な素人を騙すための「ハッタリ」も必要なのかもしれませんね。


 でも、本書の著者はコンサルタントではなく、プロのライターです。ライターとしてのノウハウを書いた部分には参考になるべき点がいくつかありました。たとえば、アマゾンで本を選ぶポイントを書いた次のくだり。

 

 「本を選ぶ際、ネット書店を利用する人が参考にするのはレビューでしょう。

 その本を読んだ『誰か』の声を参考にしているわけですが、アマゾンの星などは気にしないことです。敢えて判断材料にするとしたら、★がレベル5と1に分かれているものに読むべき本が多いとは断言できます。

 ★1つは、まず「嫉妬」のマーキングと思って間違いありません(笑)」

 

 また、取材相手の発言をチェックするポイントを書いた次のくだり。

 

 「私の場合、取材をするにあたって相手の著作に目を通しておくことは最低限のルールです。しかし100冊も書いている人で、どの本も目次が100項目もあるようなタイプの書き手が取材相手だったら、『最新作、代表作、処女作』に目を通せばよいでしょう。すると、その人の持ち味や考え方が『今現在、基本、原点』という3つの見地で把握できます。それに加えて、『貴重な時間を無駄にしない』という課題をもって、あと数冊だけでも読むと、勘所はほぼおさえることができます。私は、すべて読みますけれども」

 

 この「私は、すべて読みますけれども」の一文が余分なのでは? まあ、大きなお世話かもしれませんけれども。


 本書は、本の「おもしろさ」にとことんこだわっています。そんな本書で、一番おもしろかった部分は以下のくだりでした。

 

 「井上ひさし著『本の運命』(文春文庫)に、井上さんが上智大学に通っていた頃の図書館員が登場します。大量の本を読んでいた井上さんは、借りた本を期限内に返さないとバツ印がつき、次から借りられなくなる決まりに苦労していました。アルバイトをしているので、8時閉館ギリギリに走っていく。それなのに1人とても厳格な図書館員がいて、1秒でも遅れると返却を受け付けてくれなかったというのです。

 『よし、あいつに一度、泡をふかしてやろう』と思った井上さんたち学生は、図書館員の目を盗んで大学図書館が一番大事にしている蔵書を隠してしまいます。このやりとりが何ともおもしろく描写されており、『彼はのちに有名な評論家になられました(笑)』とあります。

 別の折、渡部昇一さんの本にも、渡部さんの上智大学大学院時代に図書館で生活(アルバイトとして)したときの話が書かれている件りに遭遇し、鏡の両面がピタリと一致しました。図書館員として働きながら勉強していた彼は、ある日イタズラ学生たちに大切な蔵書を隠され、館長からこっぴどく叱られたというのです。―この話はずっと後年、お二人から(もちろん別々に)直接、確認する機会がありました。

 このように、一見関係ない本を読んでいて『つながった!』と感じる喜び。どんなコレクションであっても量が増えると、色違いや型番続きが集まってくるようになると言いますが、知的財産にもいえることのようです」

 

 いやあ、これはお世辞抜きで、本当に面白かったです!わたしは、井上ひさし、渡部昇一、ご両人の本を愛読しているので、このエピソードにはコーフンしました。まさに、「つながる読書」ここにあり! このエピソードを知っただけでも、本書を読んで良かったです。