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座右の古典』

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No.0547

 

 『座右の古典』鎌田浩毅著(東洋経済新報社)を読みました。

 

 帯には著者の写真とともに、「京大人気No.1講義カマタ教授が贈る」「いまこそ読みたい、"使える"古典、50選。」と書かれています。わたしは、この手の名著ガイドには目がない、というか、いつか自分でも書きたいと思っているので、読んでみました。


 京大の「カマタ教授」といえば、わたし的には「鎌田東二教授」なわけですが、本書の著者である「鎌田浩毅教授」は、火山学などを専門とする地球科学者です。

 

 1955年に東京都に生まれた著者は、74年に東京教育大附属駒場高校卒業、79年に東京大学理学部地質鉱物学科卒業。通商産業省地質調査所の主任研究官、米国内務省カスケード火山観測所の客員研究員などを経て、97年より京都大学大学院人間・環境学研究科教授、京都大学総合人間学部教授を務めています。附属駒場高校 → 東大 → 通産省 → 京大教授 という、これ以上ないほどのエリートコースを歩んできた著者ですが、これだけの黄金コースを歩むためのすぐれた勉強法がありました。著者は、その勉強法のノウハウを紹介した『一生モノの勉強法』をはじめ、『京大・鎌田流知的生産な生き方』『京大・鎌田流 一生モノの人脈術』などを本書と同じ東洋経済新報社から刊行しています。 

 

 なぜ東洋経済新報社からよく本を出すのかというと、同社が刊行している「週刊東洋経済」に連載ページを持っているからです。本書の内容も、同誌に連載された「一生モノの古典」に加筆し、再構成して書籍化したものです。


 本書の「目次」は以下の通りです。各章で取り上げられている50冊の古典も一緒に紹介します。

 

「まえがき」

 

第1章:Life―生き方の知恵

『論語』孔子、『幸福論』ヒルティ、『時間と自由』ベルクソン、『荘子』荘周、

『自助論』スマイルズ、『生きがいについて』神谷美恵子

 

第2章:Essence―人間の本質

『ソクラテスの弁明』プラトン、『ホモ・ルーデンス』ホイジンガ、

『人間性の心理学』マズロー、『ミケランジェロの生涯』ロマン・ロラン、

『神曲』ダンテ、『大衆の反逆』オルテガ

 

第3章:Learning―学びの技術

『風姿花伝』世阿弥、『知的生活』ハマトン、『春宵十話』岡潔、

『職業としての学問』マックス・ウェーバー、『学問のすすめ』福沢諭吉、

『民主主義と教育』デューイ、『学問芸術論』ルソー

 

第4章:Idea―発想の湧出

『方法序説』デカルト、『野生の思考』レヴィ=ストロース、

『サイバネティックス』ウィーナー、『陰翳礼賛』谷崎潤一郎、

『プラグマティズム』ウィリアム・ジェイムズ、

『からだの知恵』キャノン、『風邪の効用』野口晴哉

 

第5章:Relation―人間関係の構築

『ゲーテとの対話』エッカーマン、『人生の意味の心理学』アドラー、

『フランクリン自伝』フランクリン、『「いき」の構造』九鬼周造、

『幸福論』バートランド・ラッセル、『メディア論』マクルーハン

 

第6章:Will―志の堅持

『新科学対話』ガリレイ、『コモン・センス』トーマス・ペイン、

『コロンブス航海誌』コロンブス、『古代への情熱』シュリーマン、

『自省録』マルクス・アウレリウス、『バガヴァット・ギーター』ヒンドゥー教聖典、

『人生論』トルストイ

 

第7章:Leader―リーダーの条件

『第二次大戦回顧録 抄』チャーチル、『孫子』孫武、

『藁のハンドル』ヘンリー・フォード、『ローマ帝国衰亡史』ギボン、

『君主論』マキアヴェリ、『ジュリアス・シーザー』シェイクスピア、『韓非子』韓非

 

第8章:Reader―読書の愉快

『啓蒙とは何か』カント、『イタリア・ルネッサンスの文化』プルクハルト、

『森の生活』ソロー、『読書について』ショウペンハウエル

 

「あとがき」「索引」

 


 非常に目配りのよいブックガイドだと思います。

 しかし、とおりいっぺんの無難なセレクトではありません。『からだの知恵』キャノン、『風邪の効用』野口晴哉など、比較的新しい本も取り上げられていますが、著者の価値観が前面に出ていて好感が持てます。

 

 それにしも、なぜ今、古典を読む必要があるのでしょうか。著者は、「まえがき」で次のように述べます。

 

 「めまぐるしく変転する現代社会を生き抜くには、時代を超えて変わらぬものに着目するのがよい。変化だけに目を向けていては、翻弄されるばかりだからである。

 古典は、長いときを経てふるいにかけられた書物である。古典から人間と社会と学問に関する変わらぬ真理を吸収するのが、本当は最も早道なのである」


 著者によれば、古典の読書には以下の4つのメリットがあるそうです。

 

 (1)未来に対するビジョンが得られる。

 (2)現代を読み解くキーワードが得られる。

 (3)本質をつかむ訓練ができ、どうでも良いことに振り回されなくなる。

 (4)過去の偉人の生きざまを追体験できる。

 

 加えて、コミュニケーションに必要なツールも、古典は与えてくれるとして、著者は次のように述べています。

 

 「他者を理解するには、自分とは異なるフレームワーク(考え方、価値観)がわからなければならない。こういうときに、古典は、時代を超え、地域を越え、自分と異なるフレームワークの存在を教えてくれる。すなわち、古典の読書を通じて、古今東西に見られる数多くのフレームワークを知っておけば、世界の理解がより容易になるのである。

 また、1冊の古典を読むと、著者が一生かけて試行錯誤の果てに得た知恵と処世術も得られる。つまり、50冊読んだら50人分の人生を我が身の参考にできるのだ。言ってみれば、人生の選択肢が増えるのである」


 本書を読んでいて興味深く感じたのは、それぞれの古典を著者自身の人生や学問に照らし合わせて述べている部分です。たとえば『論語』では、憲問編にある「むかしの学んだ人は自分の修養のためにした。このごろの学ぶ人は人に知られたいためにする」という言葉を取り上げて、次のように書いています。

 

 「米国でここを繙いたとき、私はひどく驚いた。パブリッシュ・オア・ペリッシュ(論文を書くか、さもなくば職を失うか)というフレーズが、頭をよぎる。学問を進める原動力は、生活や地位のため。そうした現代の科学者に蔓延している業績主義に対する批判が、何と2500年もの大昔に書かれているではないか。

 当代きっての知恵者を率いていた孔子は、学者の状況を鋭く告発した。一方で、私の周囲には、世界中で最も有能で精力的な火山学者が集まっている。目の前の研究競争を止めるわけにはいかない。こんな中、米国西部にあるセントヘレンズ火山の麓で、夜更けにひとり論語を読む生活が続いていた」


 また、ハンセン病患者の救済に人生を捧げた神谷恵美子の『生きがいについて』では、著者は次のように書いています。

 

 「私は大学生の頃に本書に出合った。いつも『これでいいのだろうか?』と問うてきた自分に、著者は一筋の光明を与えてくれた。

 生きがいとは何か、どうしたら生きがいを得られるのか?―その問いに対して少しでも真相に近づきたい、という真摯な願いが、本書が書かれた最大の動機である。悩む著者自身が本書を書きつつ解放されていく軌跡は、私にとっての心の解放でもあった」


 さらに、ルソーの『学問芸術論』では、著者は次のように書いています。

 

 「『自然に還れ』というフレーズは、ルソーの思想を端的に示した表現である。

 人の社会が築き上げた人為的な因習から脱却し、自然に近い状態へ戻ることをすすめるものだ。自然と離れることなく、知育に偏らない徳育とのバランスを取る必要があることを、本書は教えてくれる。

 確かに学問が進むと人は傲慢になり、自然に対する畏敬の念を失ってゆく場合がある。私自身も火山の研究をしながら、痛切にこのことを感じる。『火山学』が明らかにしたことは、自然の造形メカニズムのごくわずかでしかない。野外で何カ月もフィールドワークに没頭していると、自分が拠り所としている学問の小ささを思い知らされるのだ。

 こうした感覚は、自然の中に深く分け入って仕事をしなければ得られない。私は本書に出合って初めて、自然に還り良心の声を聴くべきであるというルソーの主張を、明確に意識するようになった。

 読書とは、自分が何となく薄々と感じていたことを定着させる役目も果たす。私にとって思想家ルソーは、無意識から意識への定着の手助けをしてくれた貴人だったのである」


 本書を読んで感心した点はまだあります。著者の説明能力の高さというか、「この本は、要するにこういう本ですよ」という紹介のポイントがじつに的確で見事なのです。たとえばウィリアム・ジェイムズの『プラグマティズム』では、著者は次のように書いています。

 

 「本書は西洋哲学に関するエッセンスを、20世紀の新しい視点で抽出した本とも言えるだろう。ヨーロッパから離れて客観的に事物を見る米国人のジェイムズだからできたワザでもある。実は、この『座右の古典』で私が行っている作業も、まさにこの手法である。古典の中から現代人に役立つ点、実践可能なところを、理系の科学者である私が客観的に浮き彫りにしている。何事も袋小路に迷い込んだら、少し離れて見ればよいのである」


 『自省録』の著者であるマルクス・アウレリウスは以下のように紹介されます。

 

 「著者はギリシャ時代の哲学者プラトンが望んだ哲人政治を、人類史上ただ1人行ったリーダーであった。彼には自らを律する哲学と、自分を諫めてくれる者に忠実に従おう、という謙虚さがあった。これがローマ帝国という巨大組織を率い『ローマの平和』を維持した一因なのである」

 

 ギボンの『ローマ帝国衰亡史』の解説は、以下の通りです。

 

 「西洋では歴史への深い理解が教養の基盤とされる。本書は1776年の刊行以来、長く読み継がれてきた。発刊当初にベストセラーとなり、後にロングセラーともなった。

 経済学者のアダム・スミス、哲学者のバートランド・ラッセル、インド首相のネルーなど、錚々たる知識人が本書の文体を格調高い英文の手本としてきたのである。

 若かりし頃の英国首相ウィンストン・チャーチルも本書の虜になった。

 彼は赴任地のインドで全巻を食い入るように読破し、余白に感想を書き連ねていった。

 ここで高雅な叙述法を学んだチャーチルは、後に『第二次大戦回顧録』でノーベル文学賞を受賞することになる」

 

 このように鋭い視点と高い説明能力で50冊の名著を紹介していくわけです。わたし自身、多くの新しい発見を与えられたブックガイドの名著でした。いつか、わたしも、このような名著案内を書いてみたいものです。