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マスカレード・ホテル』

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No.0497

 

 『マスカレード・ホテル』東野圭吾著(集英社)を読みました。

 

 当代一のベストセラー作家である著者の作家生活25周年記念作品だそうです。表紙カバーにはヴェネチアの仮面舞踏会で使われるようなマスカレードが描かれ、帯には「完璧に化けろ。決して見破られるな。」と大きく書かれています。てっきりホテルで開催される仮面舞踏会の話かと思いましたが、読んでみると、まったく違う内容でした。


 本書は、「ダンディ・ミドル」ことゼンリン・プリンテックスの大迫益男会長から「ホテルのことをよく描いているから、読むといいよ」と薦められていた本です。


 東野圭吾の本は読んだことがありません。もちろん当代一のベストセラー作家であることは知っていますが、なにしろ作品の数が膨大なので、いったん手をつけたら大変だという思いがありました。それに、東野圭吾は「ミステリー」の作家なので、「ホラー」や「ファンタジー」を好むわたしの関心外だったのです。


 しかし、白石一文の『僕の中の壊れていない部分』をはじめ、これまで大迫会長から薦められた本にはどれもハズレがなかったので、迷わず本書を購入しました。


 本書には、東京都内で起きた不可解な連続殺人事件が描かれています。


 3つの現場に残されたメッセージを解読すると、次の犯行現場として、超一流ホテルの「コルテシア東京」が浮かび上がってきました。殺人を阻止するため、警察は潜入捜査を開始します。ここで登場するのが、「東野作品史上、最高にカッコイイ」とされるニューヒーローの新田浩介です。警視庁のエリート刑事なのですが、彼が加賀恭一郎(加賀シリーズ)、湯川学(ガリレオシリーズ)に続く「第三の男」だというのです。


 新田浩介はホテルマンに扮して、第4の殺人の発生を防ぐためにコルテシア東京のフロントで働く才媛・山岸尚美とコンビを組みます。本書のダブル・キャストともいえる2人は、最初はいがみ合いつつも互いに認め合っていくのでした。


 ネタバレになってしまいますので、ストーリーを詳しく書くことは遠慮します。しかし、冒頭の1ページ目からいきなり物語の世界に没入させる著者の筆力は「さすが!」だと思いました。その後も、ぐんぐん引き込まれ、最後まで一気に読めました。文章もとても読みやすく、これなら中学生でも楽しめるでしょう。


 ただ、ネットを使ったトリックの説明が少々わかりにくかったです。それと、ラストが急展開すぎて、ちょっとバタバタした印象を受けました。


 本書の魅力は、トリックよりも人間の心理を見事に描いているところでしょう。ホテルを舞台としているだけあって、ホテルのカスタマーサービスのあり方、クレーマー対応の事例が描かれています。石ノ森章太郎の『ホテル』を連想しましたが、この『マスカレード・ホテル』の事例のほうがより現代的で、実務の参考にもなります。ちなみに舞台となったホテルのモデルは、日本橋の水天宮にあるロイヤルパークホテルだとか。

 

 中には、「これは、ちょっと」という非現実的な設定もありました。しかし、フロントに配属された新田刑事が、ホテルマンとして成長していく過程などは、そのまま新人ホテルマンの研修に使えます。


 わたしはミステリーのことはよくわかりませんが、「ホテル小説」としては第一級の部類に入るのではないでしょうか。次の新田と尚美の会話が「ホテル小説」としての本書の核心であり、タイトルの説明にもなっています。


 「でも改めて思いますが、ホテルというところは本当にいろいろな人間が来るものですね。誰もが腹に一物あるように感じられます」


 彼の言葉に尚美は頬を緩めた。


 「昔、先輩からこんなふうに教わりました。ホテルに来る人々は、お客様という仮面を被っている、そのことを絶対に忘れてはならない、と」


 「ははあ、仮面ですか」


 「ホテルマンはお客様の素顔を想像しつつも、その仮面を尊重しなければなりません。決して、剥がそうと思ってはなりません。ある意味お客様は、仮面舞踏会を楽しむためにホテルに来ておられるのですから」


 (『マスカレード・ホテル』p.367)


 特に本書には、さまざまなクレーマーの姿が描かれており、ここが一番興味深く読めました。読み終えて思うことは、「人間の恨みって怖い!」ということです。本書を読んで、著者の他の作品も読みたくなりました。


 作家生活25周年を記念した「東野圭吾作品・人気ランキング」というものがあって、7月7日の時点で以下の作品がベストテンに選ばれています。『悪意』『秘密』『白夜行』『時生』『手紙』『幻夜』『容疑者Xの献身』『赤い指』『流星の絆』『新参者』・・・・・このベストテン以外にも多くの作品がノミネートされており、本書『マスカレード・ホテル』を入れて、なんと76作品もあります。


 もちろん読もうと思えば、2~3ヵ月で全作品を読むことは可能ですが、わたしには他にも読まなければならない本が山のように控えており、とても不可能です。


 とりあえず本書の余韻に浸りつつ、東野ワールドからいったん離れることにします。