No.0436 コミック 『I 【アイ】(第1集)』 いがらしみきお著(小学館)

2011.09.04

 『I 【アイ】』第1集、いがらしみきお著(小学館)を読みました。

 これもまた凄い漫画です。東北の地を舞台に、「人間にとって神とは何か」という根源的なテーマを問う作品です。

 物語の主人公は、宮城県にある田舎町の医者の息子に生まれた雅彦です。彼は小学生の頃から、自分が生きていることの意味をひそかに考え、その答えが見つからないことに深く悩んでいました。

 雅彦の同級生にはイサオという身寄りのない少年がいました。医者である雅彦の父がイサオの面倒を見ることになり、彼らは同じ家で暮らし始めます。

 それは、2人が中学生になった時に起きました。イサオが恩師の臨終の場で、人の魂を己に乗り移らせたかのような不思議な力を見せたのです。それ以来、イサオは常識を超えた能力の持ち主となり、多くの人々が彼に救いを求めるようになります。

 雅彦は、高校入試の日に、イサオ2と人で旅に出ることを決意します。2人は、「生」と「死」の秘密を求めて長い長い旅へ出たのです。

 一読して、わたしは仰天しました。宗教の本質、発生、発展のプロセスなどについて見事に描かれています。これは、「神」について描かれたこれまでのすべての漫画の中で最高傑作ではないかと思います。

 いがらしみきお氏といえば、大ヒット漫画『ぼのぼの』の作者として有名です。てっきりギャク漫画が専門かと思っていましたが、じつは最近、ホラー漫画の分野でも名作を続々と発表しています。

 2005年から07年にかけての短編が『いがらしみきおモダンホラー傑作選 ガンジョリ』(小学館)にまとめられています。この本には、以下の4編が収録されています。

 東北のスキー場へと向かう若者たちが狂気の村に迷い込む表題作「ガンジョリ」。

 ある日、巨大観音像が動き出して日本中が驚愕する「観音哀歌」。

 細胞の存在に少年が気づいたときから、世界が少しづつ崩れていく「みんなサイボー」。

 そして、落語家のもとに送られてくる謎のテープを描いた「ゆうた」。

 どれもこれも、傑作リアルホラーとなっています。

 そして、作者は恐るべき実験作ともいえる『Sink』をインターネット上で連載します。これは、とにかく異様な作品であるとしか言えないです。

 日常的な風景が少しづつバランスを崩し、異常な世界が出現するさまが怖い。その怖さも、無意識の一番深い場所を刺激するような恐怖です。

 読んでいるうちに混乱し、世界が歪んで、自分がゆっくりと海の底に沈んでいくような気分になってきます。この作品の読者で、混乱しない人は少ないでしょう。

 著者も描いているうちに心身のバランスに変調をきたしたのでしょうか、執筆中に2度もガンになって入院したそうです。

 間違いなく、いがらしみきお氏はホラーというジャンルに向いている漫画家です。

 『I 【アイ】』連載開始にあたって、いがらし氏は「この年になって、ようやくこのテーマと物語を描くだけの『確信』を得た」と語ったそうです。担当編集者も、「生と死、人生、祈り、奇跡、そして宗教といったものに触れてゆくこの作品は、漫画史にその名が刻まれること間違いありません」と述べています。

 なお、いがらし氏は仙台で被災されたそうです。その経験をも踏まえつつ、東北の地で「神」を問う本書を描き続けています。

 第2集の刊行を心より楽しみにしています。

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