No.0445 グリーフケア 『悲しみを忘れないで』 諸富祥彦著(WAVE出版)

2011.09.14

 『悲しみを忘れないで』諸富祥彦著(WAVE出版)を読みました。

 著者は、わたしと同じ1963年生まれで、明治大学文学部教授です。日本トランスパーソナル学会会長や日本カウンセリング学会理事も務めています。臨床心理士として、多くの現代人の悩み、悲しみに寄り添い続けてきたそうです。

 本書の帯の裏には、「今、この瞬間を、こころを込めて生きること」と大きく書かれ、「私たち無力な人間に確実にできるのは、ただ、このことだけ。」「つらくて悲しくて心が押しつぶされそうになったとき、スーッと気持ちが軽くなるワークを心理カウンセラーが緊急書き下ろし」という言葉が続いています。

 本書の目次構成は、以下のようになっています。

「はじめに」
第1章 悲しみを分かち合う
第2章 簡単な気づきのワーク
第3章 未来からの問いかけ
「おわりに」

 第1章と第3章は著者からのメッセージで、第2章は最新の心理学の方法にもとづく実践的な「ひとりでできるワーク」が紹介されています。

 全体で200ページほどの本ですが、文字数は少なく、活字は大きいです。たった2~3行で、10文字ほどしか印刷されていないページも多く、イメージとしてはかつての中谷彰宏氏や田坂広志氏の本に近いでしょうか。いわば紙を贅沢に使った「ゆとり」本とでも呼ぶべきかもしれません。文字数が少ないために、メッセージの部分も詩集のような印象です。

 第1章では、自分の気持ちを「語る」ことの大切さ、そして相手の話を「聴く」ときの基本が示されています。著者は、次のように述べています。

「つらい気持ちを聴くときに重要なのは、
『何を言うか』よりも
『何を言わないか』です。
一言、『そうか・・・・・』とつぶやいて、
あとは同じ気持ちをいっしょに味わっている―
ただそれだけでいいのです。」

 そこで他人に余計なアドバイスをしたり、「いったい何があったの?」と、あれこれ質問することも戒めています。このあたりは、実際にカウンセリングの基本なのでしょうね。

 第3章では、本書のタイトルにもなっている「悲しみを忘れないで」という言葉がキーワードとして登場します。これは、精神科医エリザベス・キュープラー・ロスの有名な言葉で、ポートランドにある「ダギー・センター」という子どもの心のケア施設の壁に記されています。ロスの言葉を受けて、著者は次のように述べています。

「悲しみを忘れないで
なぜなら、私たちを包んだあの悲しみは、
私たちに多くのことを、教えてくれもしたからです。
大切なものを失ったとき、人は大きな悲しみに包まれています。
その悲しみをごまかしてはいけません。
悲しみには意味があります。
悲しみをじゅうぶんに悲しみ、誰かと分かち合うことが大切です。
そして、その悲しみを時間の経過に任せて、決して風化させないでください。
『悲しみを忘れないで』。」

 悲しみをじゅうぶんに悲しむこと。悲しみを誰かと分け合うこと。この2つこそは、本書のメイン・メッセージだと思います。

 著者は、大震災以降、日本は「悲しみの共同体」になっているといいます。その共同体の中で、わたしたちは悲しみを分け合わなくてはならないのです。それは、「隣人愛の実践者」こと奥田知志さんが言うように「傷」の共有としての「絆」づくりにも通じることだと思います。

 本書の最後に、著者は次のようなメッセージを書いています。

 「私たちのたましいは
 この世に降りてくるときに、
 その使命(ミッション)を刻印されて
 降りてきています。
 私たち、一人ひとりには、つねに、そしてすでに
 『人生からの問いかけ』が
 『未来からの問いかけ』が
 届けられています。
 それは『世界からの問いかけ』でもあり
 『自分のたましいに刻印された意味と使命を実現するように』という
 『宇宙からの呼びかけ』であり
 『大いなる何か』からの呼びかけであり、促しでもあります。
 まずは、この大地のうえに素足で立って、
 未来からの
 世界からの
 宇宙からの
 大いなる何か、からの
 『呼びかけ』を一人、全身で受け止めることから始めましょう。
 その呼びかけに応えていくなかで立ち現れてくる『いのちの流れ』『たましいのうねり』そのものが、あなた自身なのです。
 未来に向かって、問いを投げかけてみましょう。
 『この人生で、私にできることって、何だろう?』
 『どんな使命が私には、与えられているのだろう?』
 『いのちが私に与えられていることの意味って?』
 『私は何をすることを求められているのだろう?』
 さぁ、一歩だけ前に進んでみましょう。
 未来に向かって。
 『未来からの問い』に答えるために。
 どんなちっぽけなことからだって
 かまわないから」

 非常に改行が多いので、行数が増えてしまいましたが、文字数そのものはそんなに多くありません。このようなスピリチュアルな文体は、「心に響く」という人と「今さら、スピ系か?」と引いてしまう人に二分されるかもしれません。

 わたしは、大震災で愛する人を亡くした人のためのグリーフケアの書を執筆するために、いろいろと関連書を読みました。本書もその中の1冊なのですが、非常に感性的というか感覚的に書かれた本だと思いました。

 わたしは、自分しか書けないスタイルで、「悲しみ」や「生かされている意味」、さらに「死とは何か」を問うべく、『生き残ったあなたへ』(仮題、佼成出版社)を書きました。

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