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平面いぬ。』

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No.0422

 

 『平面いぬ。』乙一著(集英社文庫)を読みました。

 

 『夏と花火と私の死体』『天帝妖狐』に続く、ホラー界の若き俊英の作品集です。「石ノ目」「はじめ」「BLUE」「平面いぬ。」の4つの短編が収録されています。


 例によってネタバレにならないように、カバー裏の内容紹介を以下に引用します。


「『わたしは腕に犬を飼っている―』ちょっとした気まぐれから、謎の中国人彫師に彫ってもらった犬の刺青。『ポッキー』と名づけたその刺青がある日突然、動き出し・・・。肌に棲む犬と少女の不思議な共同生活を描く表題作ほか、その目を見た者を、石に変えてしまうという魔物の伝承を巡る怪異譚『石ノ目』など、天才・乙一のファンタジー・ホラー四編を収録する傑作短編集」


 いずれの作品も著者の大学進学以降、つまり20歳前後に執筆されたそうです。

 

 最初の「石ノ目」は、ギリシャ神話に出てくるメドゥーサをモチーフとしていますが、そこにミステリーの要素を注入したことで傑作に仕上がっています。

 

 次の「はじめ」は、幻覚だったはずの少女が現実の世界に影響を与えるというファンタジーで、なかなか切ない物語でした。特にラストは泣けます。

 

 3番目の「BLUE」は、ぬいぐるみたちの物語です。彼らは意思を持っているという設定なのですが、この作品だけはピンときませんでした。

 

 良い悪いというより、わたし好みの作品ではなかったのです。そして最後の「平面いぬ。」は、腕に犬の刺青を入れた女の子の物語です。その犬の刺青が生命をもって動き出します。わたしは、なつかしい「ど根性ガエル」のピョン吉を思い出しました。


 彼女は家族の中で孤立していたのですが、次々に家族が末期がんであることが発覚し、これ以上ないほどの孤独感を味わいます。そんな彼女を慰めてくれる平面いぬは、家族の愛情の素晴らしさをも教えてくれるのでした。設定は非常に奇抜ですが、完成度の高い幻想短編であると思います。


 いずれもの作品もシュールな物語ですが、「ホラー」とか「ファンタジー」とか簡単にひとくくりにできないような不思議な世界を作り上げています。本書の「解説」は作家の定金伸治氏が担当していますが、その冒頭で「語りえぬひとについて語らねばならない」と書き、次のように述べています。


 「天才と言い奇才と言ってかれの作品を把握しようとすると、黙々と努力する性質が表面にたちのぼってくる。逆に努力家として作品を分析しようとすると、その天性のセンスに圧倒されてしまう。そうしたひとなのである。


 作品の性質を見ても、ミステリでありホラーでありジュブナイルでありファンタジーでもある・・・・・という面があるのは、だれもが認めるところだろう。


 ものがたり自体にも同じことが言え、そのおもしろみの性質は、ひとつのことばでは容易に捉えることができないようになっている。怖いから愉しい。せつないから愉しい。トリックが愉しい・・・・・。そのようにひとつひとついくら列挙していっても、かれの作品のおもしろみは、からなずそこから少しづつずれている。


 結局のところ、おもしろいもののおおよそを要素とした集合について、それを『乙一的なもの』と呼ぶほかはないような気がしてくる。『おもしろいものがたりを書くひと』としか言い難いのではないか。そのように思えてしまうのだ」


 本書は、いわゆる「乙一ワールド」と呼ばれる世界の始まりかもしれません。この後も、著者はなんとも面白い物語を次々に書き続けていきます。