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山妣(上・下巻)』

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No.0346

 

 『山妣』上・下巻、坂東眞砂子(新潮文庫)を読みました。

 

 けっこう長い作品ですが、一気に読みました。直木賞受賞作ですが、素晴らしい小説でした。まさに、著者の「最高傑作」と呼ぶべき物語です。


 時代は明治末期、舞台は静かな越後の豪雪地帯にある山村。


 そこに東京から旅芸人がやって来たところから、この物語は始まります。


 旅芸人の若い男の肉体には秘密がありました。


 彼と地主の若夫婦との間には密やかな三角関係が芽生えます。そして、彼らが織り成す人間模様が、伝説の中から山妣の姿を浮かび上がらせるのです。


 里の人々が怖れる山妣(やまはは)の正体とは何か。


 物語が進行するにつれ、少しづつ山妣の凄絶な過去が明らかになっていきます。


 そして、山神の叫ぶ声が響く熊狩りの日に惨劇の幕が開きます。


 多くの人々の血が白雪を朱に染めてゆきます。


 あまり書くと「ネタバレ」になるので、このへんにしておきましょう。


 本書を読んで、まず連想したのは、柳田國男の『遠野物語』でした。


 日本民俗学の出発点となった記念碑的作品ですが、雪国の自然と習俗と伝説を背景に、そこに暮らす人々の情念が描かれているところが共通していました。


 そう、本書『山妣』は「民俗学的ホラー」とでもいうべき内容だと思います。


 それとも、本格的な「伝奇小説」と呼んだほうがいいのでしょうか。


 いずれにせよ、大の怪談好きだった柳田國男が本書を読めば、狂喜したでしょう。


 山の魔物の謎、業深き男と女が織りなす愛憎劇、それらに加えて、旅芸人、遊女、又鬼、瞽女、山師といったマージナルな人々が実に魅力的に描かれています。


 おそらく、著者は相当に民俗学の勉強をしていると思います。


 本書には「情念どろどろの世界」がこれでもかというくらいに描かれており、読み終わるとやはり疲れます。しかし、極限状態に置かれた人間について書かれているので、生きる気力を失いかけた人が読むと、ある意味で元気が出てくるかもしれません。


 この物語の登場人物、特に山妣の生き方を思えば、「少々のことなら頑張れる」と思うのではないでしょうか。それはもう、想像を絶するほど凄まじいのです。


 読者に自殺を思いとどまらせるくらいのパワーを本書は持っていると思いました。


 もしも、この作品を映画化するとしたら、主役の山妣が誰演じるべきでしょうか?


 真っ先に浮かぶのは、今は亡き乙羽信子です。彼女が主演した「裸の島」や「鬼婆」のイメージは、「山妣」の世界にも通じるのではないかと思います。


 しかし、乙羽信子はすでにこの世の人ではありません。現在活躍中の女優から適任者を探すなら、「告白」の怪演が印象に残る松たか子などが面白いかもしれません。


 現役最年長の新藤兼人監督がメガホンを取ってくれないかな?