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黒祠の島』

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No.0359

  

 『黒祠の島』小野不由美著(新潮文庫)を読みました。

 

 嵐の夜、孤島で巻き起こる猟奇殺人を描いた作品です。本書は、本格ミステリー・ファンを唸らせた傑作として知られています。


 実際、本格ミステリー3位(原書房『2002本格ミステリーベスト 10』)や、『ダ・ヴィンチ』4位(Book of The Yearミステリー部門)などに選ばれているようです。


 さて、「日本ホラー小説の金字塔」とも呼べる『屍鬼』を読んで、著者の筆力に心酔したわたしですが、本書を読むのは少し億劫でした。というのも、本書のテーマが心に引っかかったからです。


 本書は、近代国家が存在を許さなかった"邪教"が伝わる島を舞台とした伝奇ミステリーです。すなわち、辺鄙な地方に伝わる奇怪な風習を描いた作品で、民俗学的興味にあふれた「奇習もの」とでも呼べるジャンルです。


 このジャンルには多くの作品があり、たとえば石原慎太郎氏の『秘祭』などもその一つです。沖縄の離島とか、中国地方の山奥(横溝正史の世界がまさにそうですね)とかに伝わる異常な怪奇習俗をテーマにしたものが多く、過疎地に対する悪質な偏見であると批判する見方もあるようです。鎌田東二先生も、明らかに八重山諸島を舞台とした『秘祭』には離島に対する差別意識があると憤慨されていました。


 その見方に共鳴するわたしとしては、本書の「"邪教"が伝わる島」という舞台設定に少々疑問を抱いていたのです。


 読んでみると、たしかに偏見がゼロとは言えないでしょう。


 しかし、非常に良質なエンターテインメントであると思いました。


 物語は、葛木志保という作家が失跡するところから始まります。彼女のパートナーであった式部剛は、彼女の後を追って「夜叉島」という島に行き着きます。


 その島は、明治以来の国家神道から外れた「黒祠の島」でした。


 明治政府の採用した「祭政一致政策」によって、神社は信仰の対象ではなくなりました。それは、国民が義務として崇拝する対象とされたのです。


 神社は国家の宗祀として社格制度のもとに統合され、国家の施設とされました。


 全国の神社は位階制によって整然と編成され、そこで行われる祭祀も国家の定めた様式に統一されました。そして、この統合に与しないものは迷信として弾圧されました。


 つまり、「黒祠」とは国家神道の中にあって統合されなかった神社のことなのです。


 それは迷信の産物であり、つまるところ「邪教」とされました。


 因習に満ちた孤島連続殺人の背景で、本書は神道および信仰の本質を問います。


 そう、本書は「神道ホラー」あるいは「神道ミステリー」と言うべきジャンルなのです。


 わたしは、ぜひ本書を鎌田東二先生に読んでいただきたいと思いました。