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千年樹』

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No.0364

 

 『千年樹』荻原浩著(集英社文庫)を読みました。

 

 「小説すばる」の2003年12月号から06年12月号まで、3年間にわたっって掲載された作品をもとにした連作短編集です。短編集『押入れのちよ』はとにかく読みやすかったですが、逆に本書は非常に読み応えがありました。


 ある町の神社の境内にそびえ立つ樹齢1000年といわれる1本の大くすの木が主人公です。長い時間を生き続ける巨樹の「生」と、その周辺で繰り返される人々の「生」と「死」のドラマが描かれています。それらの人間ドラマは時代を超えて交錯します。


 1つの短編の中に、2つの時代の物語が交互に入っていますが、それらが絶妙に相互リンクしています。そして、時代背景が異なるにもかかわらず、本書で描かれるすべての物語の根がしっかりとつながり合っているのです。


 まるで、巨樹を土中で支える根が絡み合っているように・・・・・。


 わたしは、「リゾーム」という懐かしい言葉を思い出しました。


 本書には、8つの連作短編が収められています。


 「萌芽」では、雅也という中学生がいじめに悩み、くすの巨樹の前で自殺を考えます。


 「瓶詰の約束」では、雅也をはじめとする幼稚園児たちがタイムカプセルを埋めようとして、巨樹の下から戦中のガラス瓶を発見します。


 「梢の呼ぶ声」では、巨樹の下で愛しい男を待つ女たちが時空を超えて出会います。「蝉鳴くや」では、巨樹をナイフで切り刻む中学教師と、理不尽な切腹を命じられた武士の運命が交錯します。「夜鳴き鳥」では、人を殺した盗賊の過去が、人を殺そうとしていたヤクザの現在に影響を与えます。「郭公の巣」では、多くの問題を抱えた家族と、間引きの風習に苦悩 する150年前の母親がオーバーラップします。


 「バァバの石段」では、苦労続きの人生を送った祖母の初恋を孫娘が知ります。


 「落枝」では、市役所職員となった41歳の雅也が、かつて中学時代に首を吊ろうとした巨樹の伐採に立ち合います。ここで1000年におよぶ木の歴史は終わりを告げます。


 それにしても、人間たちの営みを、くすの巨樹だけはすべて見ていたのです。


 一種の「無常観」さえ漂ってくれ不思議な味わいの連作集でした。


 8つの物語は基本的に悲劇ですが、それぞれの「切なさ」や「哀しみ」から、他者への「優しさ」が生まれてくるような気がします。


 とにかく、全体の構成のうまさには感心しました。


 それぞれの物語の情景描写も、非常にリアリティがありました。


 最初の「萌芽」は、東下りの国司が襲われ、妻子と山中を逃げる場面から始まります。


 その国司は足の腱を斬られており、右足がまったく動かず、左足だけで妻子を連れて逃げます。わたしは、ちょうど今、右足を骨折していますので、国司の焦りや痛みがリアルに感じられ、非常に感情移入しました。まったくの偶然ですが、こういったシンクロニシティ的な体験も、読書の醍醐味かもしれません。


 また、本書の舞台は関東地方の郊外のようですが、わたしは尾道を連想しました。


 くすの巨樹は、神社の長い石段を上ったところにあるそうです。


 それが、尾道の御袖天満宮の光景とまったく同じだったのです。


 そこには御神木として、本書に出てくる木と同じようなくすの巨樹がそびえていました。


 その木を見た直後に、わたしは石段で足を踏み外し、骨折したのでした。


 人生、何が起こるか、わかりません。だからこそ、人生は面白いと思います。