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日本復興計画』

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No.0336

 

 『日本復興計画』大前研一著(文藝春秋)を読みました。

 

 著者は、言わずとしれた日本を代表するコンサルタントです。本書では、未曾有の国難にある日本が、これから何をすべきかを明快に語っています。


 東日本大震災後、著者は「ビジネス・ブレークスルー 大前研一ライブ」に出演し、原発事故の問題などを解説しました。その映像が大評判になり、Youtube上での再生は膨大な回数になりました。本書の内容は、そのWeb番組をベースとしています。


 いわゆる「緊急出版」で、現状分析および今後の取るべき道が述べられています。


 「はじめに」の冒頭には、次のように書かれています。


 「今ほど日本人にとって、全体の冷静な事実認識と、そのうえにたった短期・長期双方の見通しが望まれているときはないだろう。
 2011年3月11日、日本を襲ったマグニチュード9.0の地震とそれに続いた大津波、それによる居住区の破壊、工場群の被災、インフラの破断、そして福島第一原発のチェルノブイリ原発事故に並ぶレベル7の災害。
 この本は、これらの危機・破壊がなぜ起こったかという事実認識と、そのうえにたった短期・長期の復興の道筋を考えてみようというものである」


 日本復興への著者の提言は非常に具体的です。特に、原子力問題への提言には強い説得力があります。それもそのはずで、著者はMITで原子力工学の博士号を取得し、日立製作所で原子力プラントを設計していたとか。原子力の専門家としての著者の見識は、以下のような大震災直後の原発対策についてのコメントでも光っています。


 「これは後知恵になるけれど、たぶん原子炉は地震で緊急停止しない方がよかったのだ。少なくとも、地震発生時に運転していた1~3号機の3台全部が緊急停止せず、1台でも動いていれば、そこで発電をし、他の4つの炉につないで、冷却システムを動かすことができたかもしれない。原子炉は地震の加速度が一定レベルに達すると止まるようになっている。もしかしたら、この自動停止の設計思想に問題があったのかもしれない。
 もちろん、今回の事態を招いたのはそれだけではない。想定以上の大津波が襲ったこともそうだし、海側に電源関係の設備を配置したことも問題だった。マーフィーの法則ではないけれど、すべてが悪いほうに悪いほうに行ったということなのだろう」


 また、今回の原発事故の本質を次のようにずばりと語っています。


 「今回はっきりしているのは、これで日本の原子力輸出政策は終わり、日立・東芝などの原子炉メーカーとしての未来もこの段階で終わったということである。
 これまで、原子力技術者を多く擁する日本企業が非常に有利なポジションにいたことは間違いなく、私も、日本は原子力を「国技」として優秀な人材を投入し、CO2削減をめざす世界に売り込みをかけるべきだと提言してきた。もちろん原子力推進論者である。
 民主党政権は、日本国内では2030年までに少なくとも14基以上の原子炉の新増設を行うことと、新興国を始めとする電力需要の多い国へ原子炉を輸出していくことを宣言していたが、この段階でそれは全て終わったということだ」


 著者は、原発事故にまつわる多くの問題を指摘します。科学的事実に基づき、原発から5キロ以内は何十年も立ち入り禁止になると断言。また、東電をはじめとした電力会社については次のように述べています。


 「東電がこの先も原子炉を抱えていられるかという問題が出てくるだろう。
 今回の事故でかなりの人が被曝したとして、農・漁業などに対するもろもろの補償につとめながら、一民間企業が原子炉という巨大リスクを抱えることは、もはや無理というものである。アメリカですでに、民間企業が原子炉を持つことは出来ないとの試算が明らかになっているくらいだ。
 もし原発事業を続けるのであれば、国が公営会社のようなものを作ってやるしかない。
 いま現在も国家(経済産業省)、原子力委員会、原子力安全・保安院の指導で民間の電力会社が行っているが、そういう歪な形でなく、国そのものが原子力発電を行って東電や東北電力などに売電する。私はそうなると思う」


 著者は非常に原子力に詳しいだけあって、テレビに登場する専門家のコメントには不満が多いようです。次のように述べています。


 「ついでに言っておく。NHKはじめテレビに登場するエキスパートとやら。○○大学工学部の教授とか何とか称しているけれど、彼らは原子炉の理論は教えていても、プラントを設計したこともないだろう。放射線量の話になるとやたら詳しかったりするが、全体として何が起こっているのかになると、ほとんど政府発表を焼きなおして喋っているだけ。しかもそのエキスパートの多くは東電や関電がスポンサーで研究開発費をもらっていたりするので、東電と政府が発表する以上のことは言えない。専門家としての意見よりも、解説に回る方が無難、と心得ている御仁ばかりだ。
 NHKなどの解説委員にしても、相も変わらずパワーポイントを出してネットで調べてきたような説明を朝から晩まで繰り返している。こうしているうちにも国民の不安と不信が増大し、心理が萎縮して経済が低迷してしまう・・・・・・」


 自衛隊の必死の空からの放水も、著者から「蝉のション便」作戦と言われる始末です。それくらいの命中率という意味だそうで、「霧吹きにしかならず、まったく意味がないパフォーマンスである。あれでは世界の物笑いだ」と言いたい放題です。批判の矛先は、計画停電にも向けられ、次のように述べています。


 「計画停電の愚かしさについては、政府・民主党の最大の罪だったと思う。東電から泣きつかれて容易に認めた計画停電により、早晩、日本の産業は破壊されるだろう。これは、いかに東電が顧客の気持ちを理解していないかの表れであり、菅総理は最後まで拒否しなければならない計画だったのだ。どんな経営者でも、部下が持ってきたプランが『お客様に甚大なご迷惑がかかりますが・・・・・・』というものなら、『死力を尽くして迷惑のかからない代案を3つ持ってこい!』と突き返すものだ。それを3月の13日に東電に泣きつかれて、いきなり国民に発表してしまうのだから始末に負えない」


 わたし個人としては、首都である東京に住む人々が未曾有の国難を身をもって実感し、危機感を国民が共有したという点では計画停電は間違いではなかったと思うのですが。


 それでは、今回の大震災に関して、日本人は何も意味のあることをしなかったのかというと、そうでもありません。しかし、それは政策に関わることではなく、意外にも津波の撮影だというのです。著者は次のように述べています。


 「今回の災害で日本に誇れるものがあるとすれば、津波というもののリアルな姿をカメラが鮮明にとらえたことだろう。
 初めてビデオで、空からも陸からも津波の実態が映し出されたから、海外のメディアも、これは『従来の津波とは全然違う!』と腰を抜かさんばかりに報じている。
 インド洋スマトラ島沖大津波(2004年)でプーケット島に押し寄せた津波の映像も衝撃的だったが、素人の観光客が撮ったようなものでしかなかった。今回はヘリコプターから名取川を空撮した映像などプロのものもあるし、素人の撮ったものも相当に上手だ。チリ津波が三陸のリアス式海岸を襲ったときの経験をはるかに超えて、波がS字型に入ってきてL字型に曲がって、そのあと奥まで行って・・・・・・ああいう映像を人類は見たことがなかった。この凄い貴重な記録を将来に生かさなくてはいけない」


 さらに国家コンサルタントとしての視点から、著者は復興の財源、エネルギー問題、外交政策など緊急提言します。たとえば、電力ピーク時カットの3つの案などは、「さすがは大前研一!」と思いました。3つの案とは、以下のような内容です。

1.4月からサマータイムで2時間ずらす。
2.週5日間を選択性で操業し平準化する。
3.夏の甲子園を中止、または春か秋に。


 この中で、特に感心したのは、3番目の夏の甲子園の中止です。というのも、決勝戦の最中にあたる午後2時から3時が1年のうちで電力消費量が一番のピークになるというのです。退職した人々をはじめ、多くの国民がエアコンをガンガン入れながらテレビを観るからです。つまり夏のまん中にピークが来るのを避けて、高校野球は春の選抜だけにするか、秋に開催すれば問題は解決するというのです。


 基本的に、わたしはこれらを名案と思いましたが、1つだけ問題があります。それは、夏の甲子園の開催時期には深い意味があるのです。


 8月とは亡くなった人々を供養する月なのです。6日は広島原爆記念日、9日は長崎原爆記念日、12日は御巣鷹山の日航機墜落事故、そして15日が終戦記念日です。6日、9日、12日、15日と、3日置きに日本人にとって意味のある日が訪れるのです。そして、それはまさにお盆の時期と重なります。8月の前半は、日本人にとって、死者を思い出す季節なのですね。


 特に、15日の終戦記念日では、甲子園の試合が一時中断されて、両校の球児たちは帽子を取って黙祷します。その頭は坊主頭で、まるで追悼供養に集った僧侶のように見えます。つまり、日本人にとって夏の甲子園とは死者たちの追悼儀礼であり、それはお盆の時期にあたる8月に開催されなければならないからです。


 まあ、著者にこのような意見をぶつけても、「はあ?」と言われるかもしれませんが。わたしは経済だけではなく、このような国民の心の問題は重要であると思います。


 日本人の心の問題といえば、著者は次のように述べています。


 「3・11は日本人の心に大きな傷跡を残した。しかも、その後の福島第一原発の政府および東電の対応のまずさが、世界中を恐怖に陥れた。最初はあまりの不幸(地震・津波・原発)の連続に同情と哀れみの声も聞かれたが、放射性廃棄物を海洋投棄するに至って怒りと不信に変わっていった。日本政府が何か隠しているという疑心暗鬼によって、日本から全ての食品の輸入禁止(インド)などという途方もない行動に走る政府も出てきている。日本への渡航禁止や渡航制限、という通達を出した国もある。日本の政府は完全にメルトダウンしたかのようだ」


 それにしても、3月11以降の出来事を改めて見ると、短期的、中期的、長期的に判断すべきことが津波のように日本政府を襲っていたことがよくわかります。


 それらは、いずれも日本の国運を左右するような出来事であり、それは今も現在進行形で続いています。優れたリスク・マネジメントの具体案を提示する著者について、4年後の都知事選に出馬するべきであるとか、菅内閣に入閣すべしなどという声もあるようですが、わたしはそうは思いません。著者はあくまで優秀なコンサルタントであり、政治家には向かないと思います。


 というのも、これまでの著者のさまざまな提言に共通することでもあるのですが、アイデアは素晴らしくとも実現までのハードルが高すぎるからです。そのハードルとは政治的ハードルであり、経済的ハードルでもあります。


 その最たる例が、本書の要とも言える「日本復興計画」の2本の柱です。1つは、地域の繁栄をもたらすための道州制。もう1つは、日本人のメンタリティの変革。なぜ、メンタリティを変える必要があるのか。著者は以下のように述べます。


 「日本の主としてサラリーマンは、成長期のパラダイムのまま、ただひたすら景気と所得の回復を待ちわびているからだ。将来は明るいという前提の下にローンを組んで家を買い、子どもを背伸びして私立に入れ、高級車を乗り回す。所得に対するこのあいも変わらぬ発想が、じつは日本人を貧乏にしているのだ」


 そして著者は、「住宅、クルマ、教育の三大熱病は早く治してしまおう」と言うのです。子どもに多大な教育費を使うよりも、主婦が資格を取って定職を見つけ、夫婦でダブルインカムしたほうがいいとまで言っています。


 わたしは、子どもに教育費をかけるのは、日本の将来にも関わっていると思います。


 「道州制」の問題もそうですが、「住宅、クルマ、教育」に金を使わないなどの提言には現実性を感じません。「批判は上手でも、実際の政治は下手」というのは現在の民主党政権が好例でしょう。何事も「言うは易く行う難し」なのです。


 ただ、本書の最後に書かれている以下のくだりには大いに共感しました。


 「個人は最小経済単位だ。あるいは家族が最小の経済単位だ。政治家に頼ってはいけない。政府に頼っていてもいけない。国がなんにもしてくれないことは、すでに明らかだ。自分自身だけが頼みの綱と覚悟を決める。そうしなければ、この日本も元気になりえず、復興もありえない」


 なお、著者は本書の印税を一切放棄しています。売上げの12%は被災地救援に寄付されるそうです。