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トラウマ映画館』

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 No.0313

 

 昨夜、東京から北九州へ帰ってきました。帰りの機中で、『トラウマ映画館』町山智浩著(集英社)を読了しました。

 

 わたしのブログ記事「ザ・ライト」でも紹介した本ですね。

 

 わたしは映画論や映画ガイドの類が大好きで、よく読むのですが、本書はとにかく夢中になって一気に読みました。いやあ、こんなに面白い映画の本は本当に久しぶりです!


 面白い映画の本というのは、ふつう、自分が知っている映画、つまり観たことのある映画がたくさん取り上げられた本です。


 しかし、本書に紹介されている映画のほとんどを、わたしは観ていません。


 それもそのはず、本書に出てくる多くの作品は、東京12チャンネルの「4時のロードショー」で放映された劇場未公開作品が多いのです。


 「映画秘宝」の編集長だった著者は1962年生まれで、わたしの一つ年上です。


 でも、当然ながら当時の九州にはテレ東系列の「テレQ」も存在しておらず、著者が大きなトラウマを受けたという怪作の数々を観ることはできませんでした。


 さて、本書には、現在アメリカ在住の著者が主に10代の頃、テレビなどで出会った衝撃の映画たちが紹介されています。


 本書の帯には、「呪われた映画、闇に葬られた映画、一線を超えてしまった映画、心に爪あとを残す映画、25本!」と書かれています。


 本書の目次は以下のようになっています。


1.「消えた旅行者」は存在したのか?―『バニー・レークは行方不明』
2.孤高の鬼才が描く、アイドルの政治利用―『傷だらけのアイドル』
3.人間狩りの果てに言葉を超えた絆を―『裸のジャングル』
4.『エクソシスト』の原点、ルーダンの悪魔祓い―『肉体の悪魔』 『尼僧ヨアンナ』
5.世界の終わりと檻の中の母親―『不意打ち』
6.ハリウッド伝説の大女優、児童虐待ショー―『愛と憎しみの伝説』
7.少年Aが知らずになぞった八歳のサイコパス―『悪い種子』
8.あなたはすでに死んでいる―『恐怖の足跡』
9.奴らは必ずやって来る―『コンバット 恐怖の人間狩り』
10.初体験は水のないプールで―『早春』
11.古城に吠える復讐の火炎放射―『追想』
12.人間対アリ、未来を賭けた頭脳戦―『戦慄! 昆虫パニック』
13.残酷な夏、生贄のかもめ―『去年の夏』
14.核戦争後のロンドンはゴミとバカだらけ―『不思議な世界』
15.アメリカが目を背けた本当の「ルーツ」―『マンディンゴ』
16.ヒルビリー、血で血を洗うご近所戦争―『ロリ・マドンナ戦争』
17.深夜のNY、地下鉄は断罪の部屋―『ある戦慄』
18.メーテルは森と湖のまぼろしの美女―『わが青春のマリアンヌ』
19.真相「ねじの回転」、恐るべき子どもたち―『妖精たちの森』
20.十五歳のシベールは案山子を愛した―『かもめの城』
21.サイコの初恋は猛毒ロリータ―『かわいい毒草』
22.聖ジュネ、少年時代の傷―『マドモアゼル』
23.二千年の孤独、NYを彷徨う―『質屋』
24.復讐の荒野は果てしなく―『眼には眼を』
25.誰でも心は孤独な狩人―『愛すれど心さびしく』
「あとがき」


 この25本の映画の中で、わたしが観たことのある作品は、『尼僧ヨアンナ』『悪い種子』『恐怖の足跡』『妖精たちの森』ぐらいです。他にも、『バルカン超特急』とか『サイコ』とか『回転』とか『エクソシスト』とか『シックス・センス』とか、『イレイザー・ヘッド』『ロスト・ハイウエイ』『マルホランド・ドライブ』など、文中で引き合いに出される映画はよく観ているのですが、メインとして扱われている作品はほとんど観ていません。


 わたしも映画は好きなほうで、自宅にも大量の映画のDVDやビデオ・ソフトをコレクションしています。他人からは「一条さん、本当によく映画を観ていますね」と言われることが多いのですが、本書の著者には完敗です。


 25本の映画ガイドは、それぞれに鋭い分析と洞察で、興味深いものばかりでした。すべてに言及していてはキリがないのですが、とりあえず最初の『バニー・レークは行方不明』という作品評について触れましょう。


 『バニー・レークは行方不明』は、1965年に製作されたアメリカ映画です。けっして有名な作品ではなく、日本ではビデオもDVDも出ていません。この映画の原作は女性作家イヴリン・パイパーによるパルプ小説で、「パリ万博事件」という実際の事件をモチーフとしているそうです。


 「パリ万博事件」とは、次のような事件でした。1889年、イギリス人の母娘がパリ万国博覧会を見物に来て、市内のホテルに宿泊しました。2人部屋を希望したのですが、あいにく満室だったため、母娘はそれぞれ1人部屋に泊まりました。翌朝、娘が母の部屋をのぞくと、そこには母の荷物はなく、人が泊まった形跡すらありませんでした。


 母親は忽然と姿を消したのです。娘は「母がいないわ!」と叫び、大騒ぎになります。


 しかし、集まったホテルの従業員たちは、娘に向かって「お客様、あなたは1人でいらっしゃったんですよ」と告げるのです。


 このエピソードは実話とされており、アメリカでは有名だそうです。ただ、新聞記事などの証拠が確認できないため、いわゆる「都市伝説」の1つと思われているとのこと。


 そして、この事件からは数え切れないほどの小説、映画、TVドラマが生まれました。


 最も有名なのは、アルフレッド・ヒッチコック監督の『バルカン超特急』(38年)です。


 ヨーロッパを横断する列車内で、ヒロインが居眠りしている間に同室の貴婦人が消えます。目をさまして動揺するヒロインに対して、乗務員や乗客たちは「そんな貴婦人など最初から見なかった」と言うのです。


 最近では、ジョディ・フォスター主演の『フライトプラン』(05年)が思い浮かびます。


 ドイツからアメリカへ向かう飛行機の機内、母が眠っている間に幼い娘が消えてしまうのです。乗務員は「最初から1人で搭乗し、娘などいなかった」と言い、周囲にいた乗客たちは「憶えていない」と一同に言う。


 これは、「パリ万博事件」と母娘の役割が逆転しているわけですね。著者は、これらの映画について次のように述べています。


 「これらの映画で、主人公たちは周囲から異常者扱いされ、そのためにかえって取り乱し、孤立し、自分でも自分が狂っているのかもしれないと思うほどに追い詰められていく。このカフカ的不条理ゆえに『消えた旅行者』の物語は人々を魅了してきた」


 この「カフカ的不条理」とは、本書では紹介されていませんが、アンジェリーナ・ジョリーが主演した「チェンジリング」(08年)にも通じるテーマです。


 「チェンジリング」は、いわゆる「取替え子」をテーマにしたスリラーですが、1920年代のロサンゼルスで実際に起こった「ゴードン・ノースコット事件」を素材としています。


 わが子が明らかに他の子どもと入れ替わっているのに、警察はそれを絶対に認めず、逆に母親を異常者扱いする場面は恐怖そのものでした。


 『バニー・レークは行方不明』に話を戻します。著者は、『バニー・レークは行方不明』に代表される「消えた旅行者」を扱った映画は、単なるサスペンスを超え、観る者に実存的不安を与えると述べています。


 わたしは「実存的不安」という言葉を目にして、最近わたしが講演などでよく触れる「孤独葬」のことを連想しました。


 孤独葬とは、誰も参列者のいない葬儀のことです。わたしは、いろんな葬儀に立ち会いますが、中には参列者が1人もいないという孤独な葬儀が存在するのです。


 そんな葬儀を見ると、わたしは本当に故人が気の毒で仕方がありません。


 亡くなられた方には家族もいたでしょうし、友人や仕事仲間もいたことでしょう。なのに、どうしてこの人は1人で旅立たなければならないのかと思うのです。


 もちろん死ぬとき、誰だって1人で死んでゆきます。


 でも、誰にも見送られずに1人で旅立つのは、あまりにも寂しいではありませんか。


 故人のことを誰も記憶しなかったとしたら、その人は最初からこの世に存在しなかったのと同じではないでしょうか?


 最近よく、そんなことを講演でお話するのですが、これはそのまま「実存的不安」の問題に他ならないことに気づきました。つまり、その人の葬儀に誰も来ないということは、その人が最初から存在しなかったことになるという不安です。


 逆に、葬儀に多くの人々が参列してくれるということは、亡くなった人が「確かに、この世に存在しましたよ」と確認する場となるわけです。


 「となりびと」は「おくりびと」でもあります。


 わたしは、孤独な高齢者の方々を中心に、1人でも多くの「となりびと」を紹介する「隣人祭り」を開催しています。というわけで、本書を読んだわたしは、今後も「隣人祭り」を開催し続けていく決意を固めたのでした。


 最後に、本書を読んで、わたしは著者の書き手としての凄みに圧倒されました。『マドモアゼル』の映画評で、著者は父親の出自について告白しています。


 また、『眼には眼を』の映画評で、著者は母親の不倫について告白しています。


 この2つのカミングアウトはとても重い内容で、それだけで1冊の本が書けるほどです。


 そんなヘヴィーでディープな話を映画の話題の間にさらりとカミングアウトしてしまう。


 わたしは著者の精神のタフさに驚愕するとともに、本書が「映画」だけでなく「人生」をも語っている本であることに気づいたのでした。