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「つながり」を突き止めろ』

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 No.0314

 

 『「つながり」を突き止めろ』安田雪著(光文社新書)を読みました。

 

 東日本大震災後、「絆」と並んで、「つながり」という言葉をよく目や耳にします。本書のテーマは、ソーシャルメディアにおける「つながり」であり、ネットワーク分析です。


 著者は、関西大学社会学部教授で、わが国のネットワーク・サイエンスの第一人者です。ネットワーク分析の研究一筋に、産業連関表、企業集団、研究者共著関係、サプライヤの取引関係、電子メールログからの組織内協働関係抽出、ウェブページ、SNS、掲示板の書き込み解析まで、あらゆるネットワークの問題を手がけています。


 その学問的ベースは社会学とのことですが、経営学、組織論、マーケティング、人工知能、情報工学など、多岐にわたる領域の研究者との共同研究を現在展開中だそうです。


 本書では、ネットワークに関する、さまざまな領域を分野横断的に分析しています。決して研究論文のような堅い内容ではなく、著者がネットワーク・サイエンスという新しい学問と格闘してきたドキュメント仕立てですので、非常に読みやすいです。


 本書の目次は、以下のような構成になっています。


「はじめに~ネットワークの怖さと魅力」
第1章:対ゲリラ戦略と米軍マニュアル
第2章:電子メールから浮かび上がる業務遂行ネットワーク
第3章:SNSの人脈連鎖
第4章:広告作品「カレシの元カレの元カレを、知っていますか。」
第5章:知人の連鎖と新型インフルエンザつながり
第6章:弱い絆の強さと弱さ
終章:"入る"を制する
「あとがき~橋を燃やす」


 この目次を見れば、本書のテーマの広さがおわかりいただけると思います。著者は、「はじめに―ネットワークの怖さと魅力」で次のように述べています。


 「私がここで語るネットワークは、性的接触、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、業務メール送受信関係、情報伝達実験など、とりあえず人間を主体としたものに限定しているが、それでも『いったいこれは何の学問なんだ』と思われるかもしれない。企業でも産業でも国家でも、データさえあれば、それこそ疾病、自殺、天下り、何だってネットワークとして分析してみせる」


 なぜ、「人のつながり」が重要な問題となるのか。たとえば、インフルエンザの場合を見てみましょう。著者は、次のように述べます。


 「人のつながり方は、感染症拡大予測のためにはきわめて重要なデータになる。中高生の教室内での密接な接触、そして通学やクラブ活動や就学旅行での移動を通じてできるつながりが、新型インフルエンザをあのような形で広めることになると誰が当初、想像しただろうか。女子高生や中学生の口コミは有名だが、病も同じく、同質的集団が地理的移動と密閉空間での濃厚接触を繰り返すことで、同世代集団に広まりやすくなるという仮説を私は検証してみたい。人の関係のあり方の解明は本当に重要なのだ。人々の地理的移動や、接触関係の実態がわかれば、病も口コミも権力も、人々の中をどう伝わっていくのかさえ予測できる。


 「人のつながり」はインフルエンザだけでなく、社会が新たな局面にぶちあたる時にも大いに影響します。著者は、次のように述べています。


 「与野党が交代すれば、国会へつながる人、国会へ通じる声の大きさがまるで変わる。これまで政治権力へのつてを持たなかった人々が、新たな橋を経て、連なりとなり流れに加わってくる。古いきずなが弱まり、分断され、橋が崩れおちていく。ネットワークの交代が政治権力の場に流入する情報の質を変え、ダイナミックに社会構造を変革することは、日本でも十分起こりうる。いや、起こりつつある」


 さらに「人のつながり方」に目を向けたとき、それは組織のあり方にも影響します。著者は、ネットワークと従来型の組織の違いを次のように説明します。


 「組織は階層構造によって権威を保つが、ネットワークではメンバーの持つ知識や技能が権威の源泉となる。会社、地域、人種、同世代といったいわゆる単純な社会的な分類枠組みのカテゴリーをこえて、ネットワークは、人々、小集団、グループを結び付ける。ネットワークのメンバーは、上司の指示命令によってではなく、相互の責任感に基づいて任務を遂行する。また、ネットワークは、必要に応じて内部のチームを再構成する。場合によっては、破壊もいとわない」


 著者によれば、人間の行為や嗜好、信条を決定するのは、性別や年齢、生まれついての傾向などではないといいます。学歴や出身地でもなく、その人を取り囲むネットワークが決定するというのです。つまり、その人が誰と共に過ごしたか、誰に取り囲まれているか、誰に影響を受けるのか、誰に影響を与えようとしているのかといったことなどです。これが、ネットワーク分析の哲学だそうです。人々のつながりを「制御不可能な大海原」と表現する著者は、次のように述べます。


 「誰もその全体像は知らず、そして目の前にいる、自分の大切な、恋人、親子、夫婦、兄弟姉妹であれ、相手の持つ人間関係のごく一部しか理解していないのだ。他者との人間関係は完全に重複することはありえない。自分の交際範囲の構成者とその連なりのパターンは、かけがえなく世界に唯一のものである。


 人々が一人一人固有に持っている、過去からの人間関係の蓄積。それまでの生涯で出会った他者が与えたすべての影響の結果として、私たちは存在している。それはアイデンティティともパーソナリティとも見なしうる。私はこれを『ネットワーキング・アイデンティティ』と呼んでいる」


 そして、著者は「ネットワーキング・サイエンス」について次のように要約します。


 「人間を理解するためには、その人の持つ関係を理解することが重要だ。組織や社会を理解するためには、そのなかで人がどうつながっているのかを知る必要がある。だが、関係は目に見えないのでわからないことが多い。あえて蓋を開けず曖昧なままにしているのが生きる知恵でもある。だからこそこれを支配し、制御する者は、人々を、組織を、社会を制御する可能性を持つ」


 すなわち、人間や組織の行為は、そのネットワークが決定するのです。その人の属性よりも、その人がどういうネットワークの中にあるかの方が重要なのです。その人を知るには、その人の友達を見るのが一番早くて正確だというわけですね。


 わたしには『人間関係を良くする17の魔法』(致知出版社)というタイトルの著書がありますが、「人間関係」すなわち「人と人とのつながり」は大きなテーマです。新刊の『隣人の時代』(三五館)のテーマもそこに行き着きます。


 TwitterやFacebookの登場により、ソーシャルグラフというものが非常に身近になってきています。でも、これらは可視化かつオープンになっている、ごく一部のネットワークに過ぎません。世の中にはまだまだ可視化できないソーシャルグラフ、クローズドなソーシャルグラフが、たくさんあるのです。


 そして、その目に見えないソーシャルグラフについて、著者は次のように述べます。


 「震災や気象災害後の一人住まいの高齢者の事故死や独居老人の孤独死など、誰かがそばにいれば防げたであろうと思われる痛ましい事件も多い。長年、スーパーアイドルとして業界の期待と投資を一身に受けてきた男性タレントが、深夜の公園できわめて非合理的な奇行を行うなどといったことも、誰か一人、判断力のある人間がそばにいさえすれば簡単に阻止できたはずだ。この件に限らず、悲しい犯罪が起こり、犯罪者が検挙されるたびに私が思うのは、誰か一人、誰か一人で良いから、この人を愛し、守り、正し、支える人がそばにいなかったのだろうかということだ。一方でそういう誰か一人を求めていながら、そういう誰か一人に出会えないことを原因とする犯罪も増えつつある気さえする」


 最後に、本書で一番面白かったのは、著者が東京メトロ丸ノ内線で大学へ向かう途中で目にした1枚の広告作品です。


 それは、帽子を被ってうつむいた渋谷系の青年の顔をぼかした写真の上に、「カレシの元カノの元カレを、知っていますか。エイズ検査はあなたにも必要です」という強烈なインパクトのキャッチコピーが踊っている広告でした。


 まさに、「人のつながり」の広がりを見事に表現した作品です。


 普通は恋人の過去の恋愛相手など詮索しないのが大人のたしなみですが、この広告は逆にそれを想起させ、性的接触が感染症の原因になりうることを示唆しています。


 著者は、きわめて高度な感情操作による行動促進型、説得型の広告に感動しました。面白いのは、以下に述べられている、著者のその後の行動です。


 「あまりに感動した私は、即座にこの広告メッセージを分析的に考えるべく、学生さんと議論にふけったが、いったい、これは何人につながっていくのか。普通の女性が彼氏の元カノを知っている確立は、その元カレを知っている確立はどのくらいか等々問題設定からして無限に出てくる始末であった」


 結局、当時、東京大学の大学院生だったシミュレーションの名手が一定の研究成果を出すまで、ほぼ一夏の半分を費やして議論に議論を重ねたそうです。


 それにしても、カレシの元カノの元カレの研究とは!


 「人のつながり」も興味深いですが、著者の好奇心の強さには感心しました。