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人間を考える』

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No.0284

 

 『人間を考える』松下幸之助著(PHP文庫)を再読しました。

 

 わたしは、本書をもう10回以上読み返しています。


 本書は、松下電器(現・パナソニック)創業者であり、苦難の末、経営者として稀にみる成功をおさめ、「経営の神様」とまで呼ばれた松下幸之助の渾身の1冊です。


 松下幸之助はこの本を書き上げた後、「もう死んでもいい」とまで言ったとか。


 混迷を深め、人間が自らを見失いつつある現代。著者は、自然に対して弱い存在と認識されがちな人間を、あえて万物の王者であると位置づけます。


 そして、人間は万物を支配活用しながら、物質と精神を調和、繁栄させる事のできる優れた本質を持っていると定義しています。


 また、人間がこの事を正しく自覚し、認識するならば、人種、国家の枠を超えて相互理解を目指し、個々の知恵を超えた、集団の知恵を寄せ合い、様々な知恵の融和により、人間のさらなる進化創造を目指すことができるとしています。


 そうした過程で最も大切な事は、「素直な心」を持つ事です。


 ひとつの事にとらわれず、物事をあるがままに見ようとする心が、真の素直さであり、人間を正しく、強く、聡明にするものであると説いています。


 著者が日々の事業と思索のなかで到達した1つの結論。宇宙の理法から人生の真理まで、人間として、ひいては人類としての意識革命を迫る書です。


 本書の冒頭には、「新しい人間観の提唱」という文章が掲載されています。


 松下幸之助ほどの大人物が魂を込めて作成した文章ですので、敬意をもって以下に全文を紹介いたします。


  「新しい人間観の提唱」


 宇宙に存在するすべてのものは、つねに生成し、たえず発展する。万物は日に新たであり、生成発展は自然の理法である。


 人間には、この宇宙の動きに順応しつつ万物を支配する力が、その本性として与えられている。人間は、たえず生成発展する宇宙に君臨し、宇宙にひそむ偉大なる力を開発し、万物に与えられたるそれぞれの本質を見出しながら、これを生かし活用することによって、物心一如の真の繁栄を生み出すことができるのである。


 かかる人間の特性は、自然の理法によって与えられた天命である。


 この天命が与えられているために、人間は万物の王者となり、その支配者となる。すなわち人間は、この天命に基づいて善悪を判断し、是非を定め、いっさいのものの存在理由を明らかにする。そしてなにものもかかる人間の判定を否定することはできない。まことに人間は崇高にして偉大な存在である。


 このすぐれた特性を与えられた人間も、個々の現実の姿を見れば、必ずしも公正にして力強い存在とはいえない。人間はつねに繁栄を求めつつも往々にして貧困に陥り、平和を願いつつもいつしか争いに明け暮れ、幸福を得んとしてしばしば不幸におそわれてきている。かかる人間の現実の姿こそ、みずからに与えられた天命を悟らず、個々の利害得失や知恵才覚にとらわれて歩まんとする結果にほかならない。


 すなわち、人間の偉大さは、個々の知恵、個々の力ではこれを十分に発揮することはできない。古今東西の先哲諸聖をはじめ幾多の人びとの知恵が、自由に、何のさまたげも受けずして高められつつ融合されていくとき、その時々の総和の知恵は衆知となって天命を生かすのである。まさに衆知こそ、自然の理法をひろく共同生活の上に具現せしめ、人間の天命を発揮させる最大の力である。


 まことに人間は崇高にして偉大な存在である。お互いにこの人間の偉大さを悟り、その天命を自覚し、衆知を高めつつ生成発展の大業を営まなければならない。


 長久なる人間の使命は、この天命を自覚実践することにある。この使命の意義を明らかにし、その達成を期せんがため、ここに新しい人間観を提唱するものである。


 昭和47年5月    松下幸之助 (『人間を考える』より)


 本書のスケールはとにかく大きいのですが、著者は次のように述べています。


 「多くの偉大な聖人、哲人といわれるような人がでて、人としての道、人間のあるべき姿についてすぐれた教えを説き、人心の教化向上をはかってきました。釈迦やキリスト、マホメットもそのひとりでしょう。また中国には、孔子とか老子、孟子というような人がおりましたし、古代のギリシャにもソクラテスやプラトンなど今日まで名を残している数かずの賢人がでています。さらに時代をへて、東洋では朱子とか王陽明など、西洋では、カント、マルクスというような人たち、また日本に限っていえば、聖徳太子、最澄、空海、親鸞、日蓮などといった哲学者、宗教家、思想家が、それぞれにすぐれた説を残しています。そうした記録に残されている人びとだけでなく、それ以前の先史時代にも、ここにあげた人びとと同じように偉大な哲学者、宗教家、思想家ともいうべき人が数多くあったと思います」


 わたしは、この文章を読み、自分もこのようなスケールの大きな本を書きたいと思いました。それで、その考えを当時のPHP研究所の社長であった江口克彦氏(現・参議院議員)にお話したところ、『世界をつくった八大聖人』(PHP新書)を書かせていただきました。ちなみに、江口氏は若い頃に松下幸之助の秘書的な役目を務めておられ、本書の執筆にも多大な寄与をされています。


 わたしが何よりも本書を読んで感動したのは、松下幸之助が「礼」というものを重んじている点でした。サンレーという社名の意味のひとつに「讃礼」すなわち礼の精神を讃えることがあるように、わが社は何よりも「礼」を重んじる会社です。


 でも、礼には大きく分けて2つの意味があります。人の道としての礼と、作法としての礼です。「モラル」としての礼と、「マナー」としての礼と言ってもいいでしょう。


 そして前者を、わたしは「大礼」と呼び、後者を「小礼」と呼んでいます。


 本書『人間を考える』で触れられている礼は、まさに「大礼」です。


 わたしは日頃から「礼経一致」の精神を大事にしたいと考えていますが、「経営の神様」といわれた松下幸之助も「礼」を最重要視していました。


 松下思想の集大成である本書において、人間は万物の王者であるという考え方が示されています。そして、礼は人間のみが行う。動物には礼がない。


 そこに人間と動物の相違がある。これは言い換えれば、礼を知らないものは人間ではないということを意味します。人間らしい生活をしていくためには、お互いに礼を欠かさないようにすることが不可欠なのです。


 松下幸之助はさらに言います。礼とは、素直な心になって感謝と敬愛を表する態度である。商いや経営もまた人間の営みである以上、人間としての正しさに沿って行なわれるべきであることを忘れてはならない。礼は人の道であるとともに、商い、経営もまた礼の道に即していなければならないのです。


 礼の道に即して発展してこそ、真の発展と言うことができます。


 70年間で実に7兆円の世界企業を築き上げ、ある意味で戦後最大の、というよりも近代日本で最大の経営者といえる松下幸之助が最も重んじていたものが人
の道としての「礼」と知り、わたしは非常に感動するとともに、「礼経一致」に基づくサンレーの企業姿勢が間違っていないことを確信しました。


 そして、人間尊重思想を世に広める「天下布礼」の道を歩む決意を固めたのです。


 松下幸之助は、「人間がいちばん偉大だ」と考えて、お互いに尊重しあい、敬意をはらっていくことが幸福な結末をもたらすのだと喝破しました。


 「人間がいちばん偉大だ」という考え方には、傲慢だという批判もあるでしょう。


 しかしそれでは、人間が偉大だと考えることと、小さな存在だと考えることと、どちらが幸福な結末をもたらすか。人間は偉大であるという見方に立てば、お互いに尊重しあい敬意をはらうようになります。一方、人間はつまらない小さな存在である、他の動物と同じでなんら変わりないなどと考えれば、周りの人に対しても、こいつはつまらない存在だと、つい否定したくなります。お互いに相手を否定しあいながらでは、人間どうしが仲良くなるはずもないし、社会がよくなるはずもありません。


 このような松下幸之助の考え方に、わたしも深く共感しています。


 松下幸之助がさらに凄いところは、本書の内容を日本の各界を代表するトップ・リーダーたちに読んでもらい、その感想を述べさせていることです。


 そのメンバーは、もう信じられないような面々です。以下の人々です。


芦原義重(関西電力会長)、池田大作(創価学会会長)、平澤興(元・京大総長)、
谷川徹三(元・法大総長)、高田好胤(薬師寺管長)、扇谷正造(評論家)、
井深大(ソニー会長)、武者小路実篤(作家)、立花大亀(大徳寺最高顧問)、
滝田実(前・同盟会長)武見太郎(日本医師会会長)、日向方斉(住友金属社長)、
岩井章(前・総評事務局長)、平塚益徳(国立教育研究所所長)、太田薫(前・総評議長)、
石原慎太郎(作家・政治家)、槇枝元文(日教組委員長)、大山康晴(将棋名人)、
石垣綾子(評論家)、飯島幡司(関西経済連合会顧問)、茅誠司(元・東大総長)、
伊藤淳二(鐘紡社長)、赤堀四郎(元・阪大総長)、佐々木良作(民社党書記長)、
宮田義二(鉄鋼労連委員長)、高坂正堯(京大教授)、市村真一(京大教授)、
細谷松太(新産別顧問)、加藤日出男(若い根っこの会会長)、
古賀専(造船重機労連委員長)、森戸辰男(日本育英会会長)、
会田雄次(京大人文科研教授)、細川隆元(評論家)、千宗室(茶道裏千家家元)、
石山四郎(ダイヤモンド社社長)、鈴木剛(ホテル・プラザ社長)、
出口常順(四天王寺管長)、野田一夫(立教大学教授)、
塚本幸一(京都経済同友会代表幹事)、坂西志保(評論家)、
牛尾治朗(元日本青年商工会議所会頭)、小坂徳三郎(政治家)、盛毓度(評論家)、
三鬼陽之助(評論家)、村野賢哉(評論家)、高畑敬一(全国民労協代表幹事)、
草柳大蔵(評論家)、清田晋亮(電機労連委員長)、黛敏郎(作曲家)、
朝永振一郎(ノーベル賞受賞物理学者)、芹澤光治良(作家・日本ペンクラブ会長)、
堀田庄三(住友銀行会長)


 肩書きは昭和47年当時のものですが、まさに日本を代表する超豪華メンバーです。


 これほどの人々がみんな真剣に松下幸之助の人間観を読み、それに対する賛辞や意見を綴ったものが本書に収められています。


 わたしは、本書を日本思想史に残る1冊ではないかと思います。そして、松下幸之助という人は「経営の神様」のみならず、近代日本で最大の実践思想家だと確信します。