No.0254 評伝・自伝 『百人力新発売』 (文藝春秋NESCO)

2011.02.02

ようやく完成した『100番目のメッセージ』をながめていたら、なつかしい思いにとらわれました。なんだか、似たような本が昔あったような気がします。

そう、やはり100人のメッセージを集めた本があったような・・・・・。

思い出しました! 『百人力新発売』(文藝春秋NESCO)という本です。

この本でも、わたしはメッセンジャーの1人になっていたのです。

じつに23年前に刊行された本書は、『100番目のメッセージ』とは違って、学生に向けた本ではありません。一応、当時の日本人全般に向けた内容となっています。

本書が刊行された1988年は、バブル経済のピーク時でした。

また、「ニューアカ」ブームなどで、「新しい知」の必要が叫ばれた時期でもありました。

「インテリジェンス」についてどう考えるか、各界の100人に意見を求めています。

わたしは、処女作『ハートフルに遊ぶ』(東急エージェンシー)を1988年5月20日に上梓しました。この『百人力新発売』は同年11月20日に刊行されています。

つまり、本書はわが処女作からちょうど半年後に生まれた本なのです。

その半年という期間は、わたしにとって激動の時期でした。

4月に入社した会社からいきなり5月に本を出して話題となりました。

そのために、新入社員でありながら多くのマスコミの取材を受ける日々だったのです。

さらに、バルブの真っ只中の広告代理店でマーケティングの部署に配属されたこともあり、毎日が目のまわるような忙しさでした。

今から思うと夢のようですが、なつかしい思い出です。

わたしは、「エッセイスト」の肩書きで、「ぼくにとってのインテリジェンス」というタイトルでメッセージを寄せています。

最初に、九州から出てきて早稲田大学に入ったわたしが「多くの大学生がそうであったようにカタログ文化に見事に巻き込まれてしまった」と書かれています。

少なくとも2年間は、おびただしい情報の中で「何が、今一番カッコいいか?」を考え続けました。着る服、行く店、飲む酒、聴く音楽、読む本・・・・・・すべてにこだわって、他人と差別化を図ろうとしていました。

でも、大学3年くらいから、それに飽きてしまったのです。

誰かが「今、フォーターフロントだよね」と言えば、すかさず誰かが、「もう、ウォーターフロントじゃないよね」と言い返します。とりあえず、現在の流行や実験を否定しさえすれば自分の立場は安全だという袋小路の差異化ゲームに嫌気がさしたのです。

ついには、みんなが、「今、何が新しい」と言って否定されるのを恐れて、レトロブームまで生まれてしまいました。これは、カタログ文化の成熟のためでした。

馬鹿らしくなったわたしは、ゲームから降りてしまいました。

わたしは、何が本当の「インテリジェンス」であるかを考えました。

三木清は「近代的な冒険心と、合理主義と、オプティミズムと、進歩の観念との混合から生まれた最高のものは企業家精神である。古代の人間理想が賢者であり、中世のそれが聖者であったように、近代のそれは企業家であるといい得るであろう」と述べていますが、当時のわたしはこの言葉を重く受け止めました。

そして、本書で次のように述べました。

「行動する者の前では、アナリストも評論家も学者も無力だ。知識や情報量の豊かな人間はいくらでもいるが、自分の思想を具現化できる者、つまり、わかりやすいプレゼンテーションを立体形でできる人間こそ、現代のインテリジェンスを有していると言える」

この一文を読んで、わたしは少し驚きました。なぜなら、23年前の自分が現在の自分とまったく同じことを考えていたからです。よく「一条さんの考えは、昔からブレませんね」と言われることがあるのですが、社会人1年生の自分が現在の自分と重なって、びっくりしたのです。

さて、本書に登場する100人の顔ぶれが、『100番目のメッセージ』と同様に非常にユニークです。また、今となっては感慨深いです。

石津謙介先生、わたしの少年時代にお会いして影響を受けた池田満寿夫さんのような故人もいらっしゃいますが、以下のようなメンバーです。

なお、50音順となっています。

1.渥美夏樹(フリーライター)
2.新井敏記(「SWITCH」編集長)
3.芦澤泰偉(ブック・デザイナー)
4.市川右近(歌舞伎役者)
5.赤瀬川原平(画家)
6.蛭子能収(マンガ家)
7.一条真也(エッセイスト)
8.稲田隆紀(映画評論家)
9.岩本圭一(プランニングプロデューサー + ペインター)
10.浅井愼平(写真家)
11.荒川洋治(詩人)
12.井坂洋子(詩人)
13.大橋歩(イラストレーター)
14.池田満寿夫(画家)
15.岡田亜子(コピーライター)
16.押切伸一(エディター&コラムニスト)
17.岡崎京子(マンガ家)
18.石津謙介(ファッション・コンサルタント)
19.いしかわじゅん(マンガ家)
20.泉麻人(エッセイスト)
21.加藤裕将(イラストレーター)
22.板坂元(創価女子短大教授)
23.梶本学(「よい子の歌謡曲」編集長)
24.加藤昌也(モデル)
25.亀和田武(小説家)
26.亀井武彦(画家・映像作家)
27.イッセー尾形(自作自演コメディアン)
28.岡崎球子(アートコーディネーター)
29.川勝正幸(放送作家)
30.桜沢エリカ(マンガ家)
31.大山真人(ノンフィクション作家)
32.磯川麻衣子(歌うたい)
33.北原照久(トーイズ代表)
34.久住昌之(マンガ家)
35.佐藤千賀子(スタイリスト&デザイナー)
36.鏡明(小説家)
37.北中正和(音楽評論家)
38.桑原一世(作家)
39.篠原勝之(ゲージツ家)
40.黒木香(女優)
41.鴻上尚史(劇団「第三舞台」主宰)
42.椎名桂子(エディター)
43.草森紳一(評論家)
44.しりあがり寿(マンガ家)
45.小林恭二(小説家)
46.佐山一郎(フリーエディター)
47.栗本慎一郎(経済人類学者)
48.椎名桜子(作家)
49.中尊寺ゆつこ(マンガ家)
50.島崎夏美(作文家になったモデル)
51.杉作J太郎(コラムニスト)
52.小島素治(プランナー)
53.高木完(音楽評論家)
54.近田春夫(ミュージシャン)
55.高杉弾(作文家)
56.小林泰彦(イラストレーター)
57.高見恭子(タレント&エッセイスト)
58.武田裕明(放送作家)
59.中野久美子(イラストレーター)
60.綱島理友(イマイチ探検隊隊長)
61.寺崎央(エディター&エッセイスト)
62.高橋睦郎(詩人)
63.ナンシー関(イラストレーター)
64.富田一雄(花火職人)
65.永尾カルビ(コラムニスト)
66.中須浩毅(スタイリスト)
67.武市好古(演出家)
68.中沢新一(作家)
69.野々村文宏(コラムニスト)
70.根本敬(イラストレーター)
71.団鬼六(SM作家)
72.西田公久(放送作家)
73.秦義一郎(「ポパイ」編集長)
74.林海象(映画監督)
75.堀内貴和(作家)
76.西木正明(作家)
77.ひさうちみちお(マンガ家)
78.林あまり(歌人)
79.桝山寛(テクノ・ディレクター)
80.松井雅美(インテリアデザイナー)
81.西部邁(評論家)
82.マーガレット酒井(エッセイスト)
83.松木直也(コラムニスト)
84.藤井春日(カメラマン)
85.ねじめ正一(詩人)
86.三浦明彦(ゲームデザイナー)
87.山本康一郎(スタイリスト)
88.みうらじゅん(マンガ家&イラストレーター)
89.平岡正明(音楽評論家)
90.松山猛(エッセイスト)
91.三田誠広(小説家)
92.三上晴子(サイエンス・アーティスト)
93.矢吹申彦(イラストレーター)
94.四方義朗(ファッション・プロデューサー)
95.輪島のトランクス(コメンテーター)
96.湯村輝彦(イラストレーター)
97.四方田犬彦(批評家)
98.山本コテツ(空間プロデューサー)
100.渡辺祐(街の陽気な編集者)

中沢新一氏が「宗教学者」ではなく「作家」として紹介されているのも興味深いですし、『負け犬の遠吠え』で有名なエッセイストの酒井順子氏は「マーガレット酒井」という名前で紹介されています。面白いですね。

わたしは、作家としてデビューした年、しかも社会人1年生の年から、こんなに凄い方々と並べていただき、「本当に恵まれていたのだなあ!」と思いました。

そして、「一条真也」をデビューさせて下さった当事の東急エージェンシー社長で媒酌人である故・前野徹氏に心からの感謝の念が湧いてきました。「出版寅さん」こと内海準二さんをはじめとした関係者の方々にも感謝の念が湧いてきました。

23年前、社会人1年生として『百人力新発売』にメッセージが掲載されたわたしが、今度は現在の社会人1年生に向けたメッセージが『100番目のメッセージ』に掲載されるのも不思議な縁だと思います。まさに、縁は異なものです。

そして、出版というのも、ひとつの「縁」の形であることを再認識しました。

最後に、23年前の社会人1年生のわたしに時を超えてアドバイスをするとしたら、「おまえの考えは、なかなかイイ線行ってるぞ。あとは、実行あるのみだ!」と言いたいです。

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