No.0242 人生・仕事 『泣いて生まれて笑って死のう』 昇幹夫著(春陽堂)

2011.01.14

 『泣いて生まれて笑って死のう』昇幹夫著(春陽堂)を読みました。

 著者は、産婦人科であり、自らを「むかえびと」と名乗っています。また、ガン患者などに向けて「笑い」の効用を説き続け、現在は「日本笑い学会」副会長だそうです。「かっこちゃん」こと山元加津子さんとも非常に親しい方だとか。

 世に中には、いろいろなタイプの「ためになる」本があるでしょう。知識が得られる本、教養が身につく本、悩みが解決される本など・・・しかし、本書は、多くの意味で「ためになる」本でした。まず、話題が非常に多岐に渡り、しかも、日頃からわたしがテーマとしている問題がたくさんありました。

 たとえば、おなかの中の赤ちゃんの胎内記憶および誕生の記憶の話。

 映画「おくりびと」に学ぶ、死があるから生が輝くという話。

 自殺された家族の一生消えない深いこころの傷の話。

 そして、遺族にはグリーフケアが大切であるという話。

 いずれも、わたしには馴染みの深い話題であり、とても共感をもって読めました。

 本書には、著者の育児や教育についての考えも述べられています。

 かのナポレオンは、「子どもの教育はいつから?」と聞かれて、「子どもの生まれる20年前にその母親から始めよ」と答えたそうです、偉人には立派な母親がいたというのが定説のようですが、母親が育児に専念できるのは父親の大きな精神的バックアップがあればこそ。

 著者は、「育児は育自、教育は共育、育った結果を見て、生まれつきと考えるのはやめて、親子ともども成長しましょう」と述べます。本書には、この「育自」「共育」といったような一種のダジャレが満載で、他にも「逝き方は生き方」、「笑進笑明」などの言葉が紹介されています。

 何を隠そう、わたしもダジャレ大魔神なので(笑)、とても楽しく本書を読みました。

 また、特に考えさせられたのは第二章「共育と食育」の中の「家庭の食卓点検」という章です。ここには、わたしたちの常識を揺るがす情報がたくさん紹介されています。

 1999年の日本不妊学会でセンセーショナルな発表がありました。大阪の森本義晴という産婦人科医が、普通の男性、平均年齢21歳60人の精子を調べた結果を発表したのですが、それは正常がたったの2人という驚くべきものでした。

 体外受精で生まれる数は50人に1人、年間2万人もいます。体外受精は自費で平均50万円もかかりますが、そうしなければならない原因は女性にあるのではありません。それは、精子が減り、その動きも悪いためだそうです。つまり、男性不妊が原因だというのです。そして、彼らの8割がハンバーガーやカップめんといった加工食品を常食にしていたそうです。それ以来、森本医師の外来では栄養士による食生活始動を不妊治療に加えたとのこと。

 ハンバーガーの半分は脂肪ですが、発ガン性や環境ホルモンへの影響があるダイオキシンなどの有害物質は油に溶けます。ハンバーガーが半額セールになったとき、ある母親は50個買って冷凍し、おやつのたびにこれを解凍して子どもに与えたそうです。このようなジャンクフードを常食とする子どもが増えた結果、10代の糖尿病や高血圧なども珍しくなくなりました。さらに著者は、次のようにショッキングな発言をしています。

 「M社の社長は、味覚は10歳までに決まる。それまでにハンバーグの味に漬け込めば、味噌、しょうゆの味は忘れるから売り上げは上がる、と豪語したのです。ハンバーグショップが最初にできたのは沖縄でした。アメリカの食習慣がいち早く若い人を汚染しました。毎年、成人式のニュースで荒れる若者が出るのは結婚式の引出物はK社のフライドチキンというのが沖縄です。離乳食にフライドポテトを買ってすりつぶして食べさせているヤンママもいます」

 その結果、5年ごとの都道府県別平均余命調査で大きな変化が現れました。「日本一の長寿県」と言われた沖縄県の男性は26位に転落し、「26ショック」という言葉が県内を駆けめぐったそうです。2005年も25位でした。ところが、明治生まれの人に関しては今でも日本一だそうです。

 大正から昭和20年生まれまでが日本人の平均値で、戦後、米軍の支配下に置かれた時代に生まれた人々が短命になったというのです。著者は、「親が子どもの葬式を出すという逆縁という現象が身近に起こるようになったのです」と述べています。わが社も沖縄とは非常に縁が深いので、この内容には少々ショックを受けました。

 ここまで食の真実を知らされると怖くなりますが、著者は次のようにも述べています。

 「数年前、福岡のある養豚業者はエサ代の高騰に悲鳴を上げていました。そこにエサの代わりに賞味期限の切れたコンビニ弁当を安くするから買わないかという話が舞い込んで来ました。一日二日賞味期限が過ぎた程度で腐っているわけではありません。人間が食べても別段なんともないというような代物でした。ブタは人間と同じものを食べますから喜んでこの話に乗りました。まず気づいたことは母ブタがブクブクと異様に太り始めました。ブタの妊娠期間、114日目にその結果が出たのです。羊水はコーヒー色に濁り死産、仔豚の奇形など過去に見られなかったことが相次いで起こり、大損害でした」

 さらには、次のような人間の精神性に関わる重要な内容も述べています。

 「2008年6月、秋葉原の歩行者天国に車で突っ込み7人を無差別に殺した犯人や、同じ年の3月に茨城県土浦市のJR荒川駅前で無差別に8人殺した犯人らはコンビニ弁当の常食者で、その部屋からはその空の袋が山のように発見されています。古い事件ですが、1972年の浅間山荘事件で、あの赤軍派の学生たちが冬の浅間で食べていたものは、インスタント食品とかんづめだけでした。生鮮野菜などは全く取ってなかったのです」

 最近では、三大栄養素の他に微量ミネラルの大きな効用がわかってきました。欠乏すると、すぐに切れる、自分をコントロールできない人間となることがわかってきたのです。

 著者は、「風土はフード」と述べ、日本人にはこの千年来の人体実験で残った日本食こそが一番合うと断言します。現在、すべての遺伝子が解明され、白人と日本人は遺伝子が違うという事実が明らかになりました。著者は「日本人、食い改めよ」と訴え、次のように書いています。

 「最近、乳がんや大腸がんが増えています。これは食物繊維の多い日本食の消費が減って脂肪、動物性たんぱく質の多い欧米食が増えたことが一因とされています。名著『粗食のすすめ』の著者で管理栄養士の幕内秀夫先生は1万人以上のガン患者の食生活を、川越市のガン専門病院である帯津三敬病院での調査の結果、乳がん患者の八割は洋食であることに気づきました。とくに帰国子女です。日本人なのに洋風の食事ばかりの結果、乳がんや大腸がんが増えてきています。世界で11万人以上の大腸ファイバースコープをして確かめたニューヨーク大学の新谷弘実教授も同じことを言っています。風土はフードということをもう一度、思い出してください」

 食に関する部分を読んでいると、まことに暗い気持ちになってきます。しかし、本書は「笑い」の効用というものも大いに説いています。

 最近、映画化されましたが、SF作家の眉村卓氏のエピソードも紹介されています。ガンになった奥さんを支えるために、笑えるSF短編を1778話も毎日書いたという実話です。笑いというのは体内の免疫力を高め、ガン細胞をも弱めることができるのです。「笑い」を重要視する著者は、当然ながら、徹底して前向きな人です。

 本書のいたるところに著者のポジティブな人生観見られ、読んでいるうちに元気になれます。中でも、著者の次の発言には本当に感心しました。

 「ガンという病名、音の響き、いやですね。これがガンという病名でなくてポンという病名だったらどうでしょう。国立ポン研究所なんて笑っちゃいますね。日本語の音の響きは聞くほうにいろんなイメージを作ります。サ行の音はサラサラ、スベスベ、ソヨソヨと耳に心地いいですね。バ行の音は耳障りです。バカ、ブス、ベタベタ、ビンボーといった具合です。ガ行は元気に代表されるように力強い響きなので、怪獣の名前はガ行が多いですね。ゴジラ、ガメラ・・・・・。そういう音の響きの一つですからガンというと「ガーン」ときてやられた! という感じになるのです。胃ポン、肺ポン、乳ポンなど怖いイメージはありませんね。こんなことも病む人の気持ちを明るく前向きにしてくれるんですよ」

 わたしは、この著者の指摘はものすごく重要ではないかと思います。言葉には手垢がつくもの。その音を聞いただけでイメージができあがる。

 たとえば便所と聞くとなんとなく悪臭を感じますが、パウダールームと言い換えるとイメージが変わります。それは別にカタカナに限りません。 「おくりびと」という日本語が、いかに従来の葬祭業者にまとわりついていた負のイメージを落としてくれたことでしょう。それにしても、ガンをポンに変えるとは! これには、わたしも仰天しました(笑)。

 このように著者はユーモアの感覚に満ち溢れた人生の達人ですが、不治の病とされるガンに立ち向かう知恵を紹介しています。その最大の方法こそは笑うことです。笑うと、ガン細胞を直接攻撃するリンパ球である「NK細胞」が活性化されるのです。著者は、第六章「笑いの効用」で次のように述べています。

 「人間は賢いから明日のことを心配し悲観論者になります。でもまた賢いから笑えるんです。悩むことと笑うことは本来セットなんですね。それなのに悩むだけ悩んで笑わなかったら生きていけませんよ。昔から言うでしょ、落ちるだけ落ちたらあとは笑うしかないって。これも不思議な日本語の言い回しですね。そして笑いと同じくらいNk細胞を上げるのが泣くこと。涙の中にストレスホルモンが排出されます。シクシク泣いて4×9で36、ハハハは8×8で64、合わせて100。泣いて笑ってちょっとだけ笑いが多ければいい人生ですね」

 いやあ、ポンにも参りましたが、これにも一本取られました。わたしは本書を読了して、心から「ためになった」と思いました。

 それにしても、『泣いて生まれて笑って死のう』とは素晴らしいタイトルですね。本書は、新しい「生老病死」の書であり、大変な名著です。

 ぜひ、ご一読をおすすめいたします。

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