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さらば脳ブーム』

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No.0225

 

 『さらば脳ブーム』川島隆太著(新潮新書)を読みました。

 

 著者は東北大学加齢医学研究所教授で、いわゆる「脳ブーム」の立役者の一人です。著者が提唱し、任天堂がゲームとして発売した「脳トレ」がブームを起こした大きな起爆剤だとされています。全世界で累計3300万本売れたというから、すさまじいですね。


 この脳ブームのきっかけは、1990年代の初め頃から立花隆氏や養老孟司氏といった「知」のフロントランナーたちがメディアを通じて展開した社会啓蒙活動にあるようです。その背景には、90年代より日米欧の科学者と政府が一体となって推進してきた脳科学研究が、長足の進化を遂げた事実があるとか。そんな中で、著者が仕掛けた「脳トレ」は生まれたわけです。著者は、本書の「はじめに」で次のように述べます。

 

 「最近の脳ブームの大過熱状態のさなか、研究者サイドからは、社会の側で活動をしている脳関連の研究者や知識人に対して、批判の声が続々と上ってきており、私の背中にも弾がどんどん撃ち込まれるようになってきた。本来、私は基礎科学の研究者であるが、一方で『脳トレ』のように産学連携活動を通して社会と関わってきたので、双方の立場が理解できる。お互いに面白くなく思っているであろうことは、想像がつく。科学に対する考え方、社会に対する考え方が全く違うのだから仕方がない・・・・・と私の理性は私に言っている」

 

 でも、テレビをつけた時に最近良く見る「芸脳人」が、いい加減な脳の話をしているのを見ると、著者は黙っていられないそうです。「この野郎! 研究者でもなんでもないのに、わかったような口で勝手なことばかり言いやがって!」と不愉快になり、チャンネルを変えたりテレビを消したりするそうです。


 驚くべきことに、日本を代表する「脳科学者」として知られている茂木健一郎氏も、著者から見ると「芸脳人」だそうです。著者は、次のように述べています。

 

 「実際、『脳科学者』と称することには、何の資格もいらない。脳に興味があり、本の一冊も読めば、あなたが自分を『脳科学者』と呼んでも全く問題ない。うちの嫁さんも、近所のじいさんばあさんも、皆『脳科学者』になれる。芸脳人が自らを『脳科学者』と呼び、テレビに出ようが、本を書こうが、誰もそれを咎めることはできない。それでも、学者とは言えない彼らが自らを学者と呼び、自身の商品価値を高め、通訳者としての活動を行うことは、養老氏や立花氏と比べるとひどく見苦しく感じる」

 

 わたしは、この記述に非常に驚きました。この本は新潮新書から出ていますが、同じ新潮新書からは『ひらめき脳』とか『人は死ぬから生きられる』などの茂木氏の著書も出ており、しかも前者はかなりのベストセラーになっているのです。もちろん著者同士の喧嘩に出版社は関与しないでしょうが、それにしても・・・・・しかし、茂木氏でさえ、ここまでボロクソに言われるのなら、あの「脳機能学者」などは、著者はどのように見ているのでしょうか。ちょっと、興味があります。


 著者は、さらに続けて次のように述べています。

 

 「本来、学者や研究者とは、人類に新しい知恵や知識をもたらす研究活動を主な生業とし、研究成果を定期的にレフリーによる査読が行われる学術雑誌や学会が主催する学術集会で発表している種族を指す言葉である。社会と学術の間を結ぶ通訳者をするにしても、研究者としての学術活動が最低9割、残りの1割弱の力を使って通訳者として働くくらいでないとインチキである。過去に一時、脳関連の研究施設にいたことがあっただけで『脳科学者』と名乗るのは、本来的にはおこがましい」

 

 いやはや、なんともストレートな物言いですね。でも、この著者、誰に対してもストレートに発言される方のようです。ノーベル賞受賞者の江崎玲於奈氏と利根川進氏に会ったとき、「江崎博士は『頑張りなさい』と言ってくれて、写真も一緒に撮ってもらいとても感激したが、利根川博士にはしっかり無視されて、なんだかな~と思ったのを覚えている」と書いています。

 

 また、養老孟司氏についても、「養老氏には一度だけ、講演で御一緒する機会があり挨拶したことがある。私が若輩者なのでしかたないのであろうが、すでに大先生(文化人)といった感じで、学者同士のコミュニケーションの作法は通用しなかった。まあ、率直に言って、あまり良い印象は持てなかったのは事実ではある」と書いています。これもまた、出版の歴史に残る超ベストセラー『バカの壁』を出している新潮新書の本でこんなふうに言われるとは、養老氏も複雑な心境でしょうね。


 著者は、「芸脳人」にストレスを感じる一方で、週刊誌や著書の中で一連の脳ブームを「軽薄だ」と批判している研究者に対しても怒りを向け、「基礎研究ばかりしていて何も世の中のことがわかっていないくせに、わかったようなことを言うな!」と憤慨しています。

 

 そう、著者は本書の中で、なんだか怒ってばかりいる印象があるのです。それというのも、ここ最近、痛烈なバッシングを浴びてきたからでしょう。自分を批判した人を一人ひとり挙げて、本書で反論したりもしています。そして、最終章である第七章「さらば脳ブーム」の最後に次のように書いています。

 

 「私が煽り煽られのせられた『脳トレ』ブームは、大膨張の時期のピークを超え、批判の声も吸収しながら、収斂が始まっていると感じている。これから5年後、2015年にも、『脳を鍛える』『脳トレ』という言葉が死語でなかったら、私の蒔いた種は社会に根付き、社会と共存できたということだろう。その時は、脳トレ批判をした連中に向かって、大きな声で『ざまあみろ! 私の勝ちじゃ!』と叫ぶことにしよう」

 

 うーん、著者の恨みは相当に根深いようですね。それはそうと、著者いわく、脳に良いことで一番間違いがないのは朝食をきちんと取ることだそうです。意外にも、超シンプルなところに頭を良くする秘密はありました!