No.0214 コミック 『思い出食堂 A定食編』 (少年画報社)

2010.11.24

 いわゆる「コンビニ・マンガ」という出版物があります。コンビニの雑誌・書籍コーナーに置かれているコミックのことです。「ヤクザ」「芸能界の裏」「地下社会」「都市伝説」「危険な仕事」「猟奇殺人」「逃亡生活」「刑務所の中」「死刑囚」といったダークなテーマが多いのですが、中には心あたたまるコミックもあります。

 今日は、自宅の近くのファミリー・マートで、そんなハートフル・コミックを見つけました。『思い出食堂 A定食編』(少年画報社)という本です「オール新作よみ切り漫画」ということで、新人マンガ家を中心に、思い出の食べ物を題材とした感動物語が18編収録されています。

 じつに色々な食べ物が出てきますが、「和食の部」のメニューが、鳥のからあげ、いなり寿司、卵かけご飯、海鮮茶漬け、おでんの5品。「洋食の部」のメニューが、お子様ランチ、コロッケ、カレーライス、ハヤシライス、オムライスの5品。「中華の部」のメニューが、支那そば、五目焼きそば、ヤキメシの3品。「軽食・その他」のメニューが、お好み焼き、ホットドッグ、ソース焼きそば、ワサビ、食べるラー油の5品となっています。

 ちなみにタイトルの「A定食」というのは、チキンライスにハンバーグ、海老フライ、クリームコロッケ、ウインナー、ポテトサラダの定食です。つまり、お子様ランチですね。会社員である主人公は、ハイボールと一緒にA定食を注文し、なつかしいお子様ランチを思い出しながら、いつもお子様ランチを食べさせてくれた父親を回想するのです。

 本書には、「A定食」ならぬ、いわゆる「B級グルメ」の数々が登場します。いずれも美味しそうな絵が並び、食欲を大いにそそられます。しかし、それ以上に、その食べ物にまつわる多くの人々の思い出に心が動かされます。

 人には、誰でも好物の食べ物があるはずです。そして、その好物は必ず、大好きな家族や友人や隣人の思い出と結びついているのです。本書には、交際中の恋人たちや夫婦にまつわる思い出の料理も出てきます。

 わたしは、結婚披露宴のメニューに、新郎新婦の思い出の料理を1品加えてもいいのではないかなと思いました。たとえ、それがカレーライスとかオムライスなどのカジュアルな料理であってもいいと思います。

 本書に出てくるカレーはステンレス皿にカツとキャベツの金沢カレーですが、金沢の披露宴でカツカレーを出したっていいのではないでしょうか。大分県の中津は鳥のからあげの発祥地として知られていますが、中津の披露宴で鳥のからあげを出したっていい。沖縄では、沖縄そばを出せば、県外からの参列者はきっと大喜びするでしょう。結婚式とは、「こころ」と「縁」を結ぶセレモニーです。思い出のメニューを出すことによって、新郎新婦と参列者たちとが結ばれるのではないでしょうか。

 また、本書の中にある「ソース焼きそば」(岩村俊哉)という作品では、橋の上から川に身投げをしようとする青年が出てきます。

 彼は、友人と一緒に会社を立ち上げるという夢を抱き、尼崎で肉体労働のバイトに励んでいました。しかし、その友人が開業資金を全部持ち逃げし、彼はショックで自ら命を絶とうとしていたのです。そんな彼に1人の老婆が声をかけます。

 老婆は、自分が経営するヤキソバ屋に彼を連れていきます。そして、失意の若者に大盛りのソース焼きそばを食べさせ、ビールを飲ませます。最初は食欲などなかった彼も、空腹のあまり、焼きそばを食べ、ビールを飲みます。そして、思わず、「うまい~」と声を上げます。そのとき、老婆が彼に次のように語りかけるのです。

 「どやっ、元気になったやろ? 人間ハラふくれたら、たいがいのことは何とかなるねん」

 青年は老婆の優しさに涙ぐみながら、焼きそば4玉と大瓶ビール2本を飲み干し、もう一度、生きる決意をするのです。

 こんな泣けるエピソードが18話も詰まっていて、381円(税別)は安い! 『むすびびと~こころの仕事』(三五館)に出てくるような感動のストーリーばかりです。まだ全国のコンビニにあると思いますので、見つけた方は、ぜひ読んでみて下さい。

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