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都市伝説セピア』

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No.0195

 

 都市伝説セピア』朱川湊人著(文春文庫)を読みました。

 

 「アイスマン」「昨日公園」「フクロウ男」「死者恋」「月の石」という5つの作品が収められた短篇集です。なんだか題名を見ただけで、ワクワクしますね。


 本書は著者のデビュー作であり、人間の心の怖さ、そして哀しさを描いています。『かたみ歌』『花まんま』に比べると、ホラー色が強いと言えるでしょう。一読して、江戸川乱歩の影響を強く感じました。

 

 "河童の氷漬け"が登場する縁日の妖しい見世物の世界を描いた「アイスマン」。かの"怪人二十面相"を連想させるような「フクロウ男」。そして、本書の中でもわたしが最も好きな幻想小説の名編「死者恋」。以上の3作品は、まさに乱歩の世界だと思います。

 

 また、最後の「月の石」に出てくるテーマも、乱歩の「人でなしの恋」に通じています。さらに、そのテーマは、著者の『白い部屋で月の歌を』と言う作品にまでつながってくるのですが、そのテーマ自体を明かすと「ネタバレ」になってしまうので、控えておきます。まあ、「人でなしの恋」といえば、気づく人は気づくでしょうけれど。(微笑)

 

 唯一、タイムスリップを描いた「昨日公園」だけが、乱歩色の感じられない作品でした。乱歩以外では、本書全体の雰囲気が高橋克彦の短編集『悪魔のトリル』(講談社文庫)によく似ていると思いました。ちなみに高橋克彦も乱歩の影響を強く受けています。


 さて、「月の石」には、1970年に開催された大阪万博の思い出が描かれています。ものすごい数の人の波をかき分けて入場し、長い時間をかけて並び、やっと見ることができたアメリカ館の「月の石」について、著者は次のように書いています。

 

 「月の石は、半円のカプセルの中に入れられて展示されていた。そのセットは未来的でかっこよかったけれど、石そのものは強いライトのために、灰色一色の塊にしか見えなかった。月からもってきたのだと思えばありがたい気もするが、そこらの石にペンキを塗ったものだといわれても、納得がいくような気がした」

 

 本書の「解説」を書いた作家の石田衣良氏は、本書の中では「月の石」が一番好きだそうで、次のように述べています。

 

 「ぼくが大阪万博にいったのは、十歳のときだった。頭が粗雑にできているので、ぼくはなにひとつ覚えていない(一番印象的だったのが往復の新幹線!)。同じときを七歳で迎えた朱川さんは、これほど鮮やかに時代の空気を切り取ってくるのだ」


 わたしも朱川氏と同じ7歳のときに、小倉から夜行列車に乗って家族と一緒に大阪万博に行きました。岡本太郎デザインの「太陽の塔」を初めて見たときは感動しました。わたしは三度の飯より太陽の塔が好きなのです。

 

 「月の石」は、著者の朱川氏と同じような感想でした。

 

 太陽の塔、月の石ともに、レプリカがわたしの書斎には飾られています。大阪万博のときに7歳だった重松清氏の『トワイライト』や、浦沢直樹氏の『20世紀少年』などに代表されるように、わたしと同年代の人々には大阪万博には強い思い入れがあるようです。太陽の塔と月の石を書斎でながめつつ、あの頃を懐かしむわたしもまた、"20世紀少年"の1人なのですね。