No.0165 経済・経営 『未来への決断』 P・F・ドラッカー著、上田惇生+佐々木実智男+林正+田代正美訳(ダイヤモンド社)

2010.09.07

 未来への決断』P・F・ドラッカー著、上田惇生+佐々木実智男+林正+田代正美訳(ダイヤモンド社)を再読しました。「大転換期のサバイバル・マニュアル」というサブタイトルがついています。

 1995年に日米で同時発売された本です。「日本語版への序文」で、ドラッカーは、本書を書いた意図を次のように述べています。

 「その意図は、組織のエグゼクティブたちのために、この大転換期における一種の『サバイバル・マニュアル』をまとまることにあった。きたるべき変化の数々を警告するとともに、それらを解釈し、とくに日本のような先進国のエグゼクティブたちに対して、何を、なぜ、いつ、いかに行なうべきかを知らせることにあった」

 本書は4部構成で、それぞれマネジメント、情報型組織、経済、社会についての実にさまざまな問題を扱っています。いずれも見かけは異なるものの、一つの共通するテーマのもとに書かれています。すなわち、元に戻すことのできない、すでに起こった変化を扱っているのです。したがって、あらゆる組織のエグゼクティブが行動の基礎とすることのできる変化、それどころか、行動の基礎としなければならない変化を扱っています。ですから、本書は現実の問題解決に非常に役立ちます。

 たとえば、本書には同族企業の問題が取り上げられています。世界中において、ほとんどの企業が同族企業であることはよく知られています。同族経営は中小企業に限定されません。デュポンのような世界最大級の企業もあります。1802年の創業以来、同社は1970年代半ばまでの170年間、同族所有、同族経営のもとに世界最大級の化学会社へと成長しました。200年前、主要国の首都に息子たちを配した無名の両替商ロスチャイルド家が所有する金融機関は、今日も依然として世界有数の大銀行です。

 ところが、マネジメントについての文献と講座のほとんどが、プロの経営者が経営する企業だけを扱っています。同族企業に触れることはほとんどありません。

 もちろん、同族企業と他の企業の間に、研究開発、マーケティング、会計などの仕事で違いがあるわけではありません。しかし経営陣に関しては、同族企業にはいくつかの守るべき重要な留意事項があると、ドラッカーは述べます。それらを守ることなくしては、繁栄するどころか生き残ることもできないというのです。

 第1に、同族企業は、一族以外の者と比べて同等の能力を持ち、少なくとも同等以上に勤勉に働く者でないかぎり、一族の者を働かせてはならない。

 第2に、一族の者が何人いようと、また彼らがいかに有能であろうと、トップマネジメントのポストの一つには必ず一族以外の者を充てなければならない。その好例が、専門的な能力が大きな意味をもつ財務や研究開発担当のトップです。

 第3に、生産、マーケティング、財務、研究開発、人事に必要な知識や経験はあまりに膨大である。ゆえに同族企業は、重要な地位に一族以外の者を充てることをためらってはならない。

 この3つの原則を忠実に守っていても、問題は起こります。特にトップの継承をめぐって起こります。一族の事情が企業の事情に反するわけです。したがって第4に、継承の問題について適切な仲裁人を一族の外に見つけておかなければならない。本書は、特に同族企業の関係者にとってのバイブルであると言えるでしょう。

 最後に、わたしが本書で一番感銘を受けた次の一言を紹介したいと思います。

 「人はコストでなく資源である。共有する目的に向けてともに働くとき、大きな成果が得られる。マネジメントとは地位や身分ではない。かけひきでもない。仕事、生活、人生にかかわることである」

 すべてのマネジメントに関わる人は、この言葉を肝に銘じておくべきでしょう。

 まだ読まれていない方は、ぜひ、お読み下さい。

Archives