No.0181 哲学・思想・科学 『センス・オブ・ワンダー』 レイチェル・カーソン著、上遠恵子訳(新潮社)

2010.09.24

 センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン著、上遠恵子訳(新潮社)を再読しました。

 著者のレイチェル・カーソンは、海洋生物学者でもあったアメリカの女流作家です。環境の汚染と破壊の実態を世界にさきがけて告発した『沈黙の春』の著者として知られていますが、人生最後のメッセージとして『センス・オブ・ワンダー』という、すばらしい小著を残しました。

 美しいもの、未知なもの、神秘的なものに目を見張り、人間を超えた存在を認識し、おそれ、驚嘆する感性、すなわち「センス・オブ・ワンダー」を育んで、かつ強めていくことの意義をおだやかに説いた本です。

 カーソンは言います。地球の美しさと神秘を感じとれる人は、科学者であろうとなかろうと、人生に飽きて疲れたり、孤独にさいなまれることは決してない、と。たとえ生活のなかで苦しみや心配ごとに出会ったとしても、必ずや、内面的な満足感と、生きていることへの新たな喜びへ通じる小道を見つけ出すことができる、と。そして、地球の美しさについて深く思いをめぐらせる人は、生命の終わりの瞬間まで、生き生きとした精神力を保ちつづけることができるとして、彼女は次のように語ります。

 「鳥の渡り、潮の満ち干、春を待つ固い蕾のなかには、それ自体の美しさと同時に、象徴的な美と神秘が隠されています。自然がくりかえすリフレイン―夜の次に朝がきて、冬が去れば春になるという確かさ―のなかには、限りなく私たちを癒してくれる何かがあるのです」

 わたしが最もセンス・オブ・ワンダーを感じるのは、何と言っても、皆既日食です。昨年2009年にも見られましたね。

 なぜ、皆既日食が起こるかといえば、太陽と月がぴったりと重なるからです。つまり、地球から眺めた太陽と月の大きさは同じなのです。人類は長いあいだ、このふたつの天体は同じ大きさだとずっと信じ続けてきました。

 しかし、月が太陽と同じ大きさに見えるのは、月がちょうどそのような位置にあるからに他なりません。月の直径は、3476キロメートル。太陽の直径は、138万3260キロメートル。つまり、月は太陽の400分の1の大きさです。

 次に距離を見てみると、地球から月までの距離は、38万4000キロメートル。地球から太陽までの距離は、1億5000万キロメートル。この距離も不思議なことに400分の1なのです。こうした位置関係にあるので、太陽と月は同じ大きさに見えるわけです。

 それにしても、なんという偶然の一致! この「あまりにもよくできすぎている偶然の一致」を説明する天文学的理由はどこにもありません。月がUFOのような人工の天体であり、何者かが月を一定の速度と位置に正確に保つようにしているとでも考えなければ、この謎はどうしても解けないのです。 こんな驚異が、どこにあるでしょうか!

 皆既日食のみならず、宇宙は、そして地球は驚きに満ちています。月の満ち欠けを見るたびに、天からの贈り物である雨や雪に、また庭の花々が咲き誇る姿に、自然にふれるという終わりのない喜びを感じています。太陽と月、大地と海、そして驚きに満ちた生命たち・・・・・・・センス・オブ・ワンダーさえあれば、世界はいつも輝いているのです。

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