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「経済人」の終わり』

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No.0157

 

 「経済人」の終わり』P・F・ドラッカー著・上田惇生訳(ダイヤモンド社)を再読しました。「全体主義はなぜ生まれたか」というサブタイトルがついています。

 

 1939年に刊行された本ですが、1997年に日本版新版が出ています。20世紀を代表する知の巨人ドラッカーの記念すべき処女作です。本書によって思想家ドラッカーは誕生しました。

 

 ヨーロッパで書かれ、アメリカで完成し出版された本書は、ドイツとイタリアに勃興したファシズムの精神的・社会的起源を実存主義的な視点から分析した著作です。言葉をかえれば、資本主義および社会主義への信仰が危機的な状況にあり、その原因に対処する必要があることを描写した本ですね。

 

 ドラッカーはドイツ、イタリアに固有な背景を無視し、ファシズムの起源を文明に求めました。わたしたちが今まさに暮らしている、この文明です。

 

 ドラッカーは本書について、「多分に政治的な本だった」と語っています。自由を捨てて全体主義を受け入れろという脅しに屈してはならない、自由を守る意思を固めよ、という政治的な意図を持っていたのです。

 

 この政治的な意図を歓迎したのが、イギリスのウィンストン・チャーチルでした。チャーチルは、本書を絶賛する書評を1939年春に発表し、ドラッカーを初めて世の中に紹介しました。そして翌40年に首相に就任すると、英国士官学校の「卒業記念書籍」に本書を加えるよう指示しました。

 

 「どういうわけか、そこにはルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』も一緒に入っていたらしい。陸軍省にはユーモアのセンスがある人物がいたようだ」とドラッカーは述懐しています。


 ファシズムについて語りながらも、じつはドラッカーは、経済のために生き、経済のために死ぬという経済至上主義からの脱却を説いています。それは、21世紀を生きるわたしたちにとってのメッセージでもあります。

 

 社会が機能するには、一人ひとりの人間に「位置」と「役割」があって、かつそこに存在する「正当性」がなければならないという主張は、ドラッカーの生涯において常に一貫していました。しかしながら、本書を完全に読みこなすには、かなりの忍耐力が必要とされます。文章は高度に抽象化されており、さまざまな存在に対する造語が頻出するからです。

 

 たとえば、「宗教人(Spiritual Man)」や「知性人(Interectual Man)」「経済人(Economic Man)」「英雄人(Heroic Man)」「自由平等人(Free and equal Man)」などの造語を登場させ、その実態に応じて特別な使い方をしています。コンセプターそしてコピーライターとしてのドラッカーの才気がほとばしっています。

 

 鋭い観察眼と独創性にあふれ、知的かつ大胆な本書は、現代社会で自分の判断力に自信が持てない若者にも必読の名著だと思います。

 

 まだ読まれていない方は、ぜひ、お読み下さい。