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グーグル秘録』

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No.0110

 

 グーグル秘録』ケン・オーレッタ著、土方奈美訳(文藝春秋)を読みました。

 

 著者は、米誌「ニューヨーカー」のベテラン記者です。また、「アメリカ最高のメディア論者」と呼ばれている人物でもあります。

 

 現在の地球上における最大のモンスター企業になりつつあるグーグル。本書は、そのすべての秘密に迫っています。


 本書の「まえがき」の冒頭で、著者はいきなり「世界はグーグル化された。」と書いています。人々は情報を検索するのではなく、"ググる"のだというのです。いま、世界中で何かを検索しようとする人の70%がグーグルを利用します。すると、約0.5秒で答えが表示されるのです。

 

 新聞、雑誌から出版、テレビ、映画会社、広告代理店、電話会社、そしてマイクロソフトに至るまで、グーグルほど畏敬と畏怖の念を同時に呼び起こすメディア企業は存在しません。グーグルは世界を代表するブランドになりました。

 

 その本質について、著者は、「グーグルはエンジアニアが経営する会社であり、エンジニアとは"なぜ?"という疑問を抱く人種である」と表現しています。彼らエンジニアは、「なぜ、これまでどおりでなければならないのか?」と考えます。

 

 そして、すべての出版物をデジタル化すること、新聞や雑誌の記事をネット上で読むこと、テレビ番組をパソコンでも無料で観ること、自分の音楽CDやDVDをコピーして友人と共有すること・・・以上のような行為が自由にできない現実に対して「なぜ?」という疑問を抱くのです。著者は、次のように述べます。

 

 「グーグルを率いるのは冷徹なビジネスマンではない。冷徹なエンジアニアである。常に新たな解を求める科学者なのだ。彼らが求めるのは、人間の行動を図式化すると同時に予測するための構造であり、数式であり、アルゴリズム(演算方法)である。人間行動の謎を含む、たいていの謎はデータによって解明されると無邪気に信じている。だが、そうした数学的モデルをウォール街が妄信したことが、米国経済を機能不全に陥れる一因となったことは言うまでもない」


 1998年のはじめ、著者は、ワシントン州レドモンドにある広大なマイクロソフト本社にビル・ゲイツを訪ね、インタビューしました。そのとき、自信に満ちたゲイツに対して、「最も恐れている挑戦者は?」と尋ねたそうです。

 

 ゲイツの口をついて出たのは、ネットスケープ、サン・マイクロシステムズ、オラクル、アップルといった数多くのライバルたちの名前ではありませんでした。ゲイツはダイエットコーラをすすりながら、こう言ったそうです。

 

 「怖いのは、どこかのガレージで、まったく新しい何かを生み出している連中だ」

 

 ゲイツには、そのガレージがどこの国のどこにあるか、またその新しい何かがどのようなものか、まったく心当たりなどありませんでした。ただ、イノベーションというものはたいてい、しっかり足場を築いた企業の足元を脅かすものであるということだけは知っていたのです。そして、ゲイツの怖れは現実のものとなりました。

 

 1998年、シリコンバレーのとあるガレージで、ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンという2人の若者が、新しい何かを生み出しました。後のグーグルです。ユダヤ人家庭に生れた2人の父親はともに大学教授で、母親もともに科学関係の仕事に就いていました。2人はともに1973年生まれで、何事にかけても徹底的に議論するという家庭で育ちました。

 

 『グーグル誕生 ガレージで生れたモンスター』(イーストプレス)の著者の1人であるマーク・マルシードは、ペイジとブリンの共通点として「許可も求めず、限界を突破しようとする傾向」を挙げています。


 話は変わりますが、今月の平成心学塾のテーマは「創造力」でした。どんな業界においても、いや経済や社会そのものの先が見えにくい現在、創造的発想や創意というものが求められます。動物行動学者の竹内久美子氏は、「発想を変えて、思い切って跳びなさいと言われたら、みんな前に跳ぶことしか考えない。前に跳ぶのは誰でもできることで、横に跳ぶことが必要なのだ」と述べています。

 

 まさに、グーグルを生み出した2人は横に跳んだのです。そして、人間は、まったくゼロから創造性を発揮することはできません。偉大な創造の背景には、必ず先達の歩みがあります。その意味で、創造の達人とは読書の達人でもあります。

 

 プロイセンの鉄血宰相ビスマルクに「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という有名な言葉があります。生物のなかで人間のみが、読書によって時間を超越して情報を伝達できるのです。人間は経験のみでは、1つの方法論を体得するのにも数十年かかりますが、読書なら他人の経験を借りて、1日でできます。つまり、読書はタイム・ワープの方法なのですね。

 

 人生を商売にたとえてみると、すべて仕入れと出荷から成り立っている。そこで問題となるのは仕入れであり、その有力な仕入先が読書なのです。つまり、本を読むことによっての学習力が創造力につながるのですね。というような話をしたばかりで、「創造の母とは本と悟るとき 新しきもの生まれ出るなり」という短歌を詠みました。


 そして、本書を読んでその考えが間違っていなかったことを確認しました。グーグルを生んだ2人は、本から大きな影響を受けていたのです。

 

 まず、ブリンはノーベル賞物理学者のリチャード・P・ファインマンの伝記に夢中になりました。「彼の貢献は物理学にとどまらない。レオナルド・ダ・ビンチのように、科学者であると同時に芸術家なんだ。すごく刺激を受けたよ」と著者に語ったことがあるそうです。

 

 また、ラリーのほうは12歳のときにニコラ・テスラの伝記に刺激を受けたそうです。テスラはエジソンと並び称せられるほどの大発明家で、彼の先駆的な研究は電気、送電網、放射線、無線通信などの呼び水になったとされています。しかし、偉大な発明をしたにもかかわらず、科学者としては無名のまま極貧のままで辛い生涯を終えました。ラリーは、著者に次のように語ったそうです。

 

 「テスラからは、世界で最も偉大な発明をしても、単に発明しただけでは何もならないことを学んだ。悲しいじゃないか。彼にもう少しビジネスの才があり、人づきあいがうまかったら、はるかに多くを手にすることができたのに」

 

 ブリンもラリーも、偉大な科学者の伝記からインスピレーションを受けたのです。いま、日本の子どもたちは、あまり偉人の伝記の類を読みません。でも、子どもの頃に偉大な人物の伝記を読むことは、「こころ」に最大の栄養をもたらし、その後の人生に多大な影響を与えることを見直す必要があると思います。


 いずれにせよ、優れた業績を残す人物に読書家が多いことは事実です。新興メディア企業であるグーグルの快進撃を受けて立つ側にも、読書から多くを学んだ人物がいました。2005年にウォルト・ディズニー・カンパニーCEOに就任したロバート・アイガーです。

 

 アイガーは、ディズニーのDNAに、デジタル重視、ユーザー重視の視点を植え付け、新しい企業像を考えていました。そのとき、アイガーが参考にした本は、じつに意外なものでした。なんと、精神科医エリザベス・キューブラー・ロスの古典的代表作『死ぬ瞬間』(読売新聞社)だったのです。同書には、有名な「死の5段階」が登場しますが、それをアイガーは次のように説明します。

 

 「最初に経験するのは否認、それから怒り、取引、抑鬱、受容の段階を踏む。まさに音楽業界が経験したことじゃないか。雑音ばかりに耳を傾け、最も重要な視聴者の声、つまりお客様の声を聞かなかったんだ」

 

 アイガーは、音楽会社と同じ過ちを繰り返してはならないと考え、テレビや映画会社で初めてアップルのアイチューンズに番組や映画をライセンス供与したのです。しかし、『死ぬ瞬間』をマネジメントの書として読んだとは驚きです。アイガーという人物は、本に書いてある内容を自分の中に取り込み、それを編集して現実のビジネスにアウトプットしたわけで、まさに読書の達人であると思います。


 メディアの世界に変化に驚くアイガーは、ABCで視聴者の投稿作品を流す「アメリカ人の愉快なホームビデオ」という人気番組の生みの親でもありました。アイガーは、「それなのに、なぜユーチューブの登場を予期できなかったんだろう?」と大いに反省するのです。しかし、著者のオーレッタは次のように書いています。

 

 「アイガーの名誉のために、言い添えておこう。なぜニューヨーク・タイムズやCBSは、CNNを作れなかったのだろう?なぜスポーツ・イラストレイテッドがESPNを始めなかったのだろう?インスタント・メッセンジャーを世に送り出したAOLが、なぜフェースブックを生み出せなかったのだろう?なぜIBMはソフトウエアをマイクロソフトに譲ったのだろう?」

 

 そう、変化の波がどこに向かうかは、誰にもわからなかったのです。それでは、グーグルに波を作り出す包括的な戦略はあったのか。2002年には、明確なビジョンはありました。それは、ラリー・ペイジがスタンフォード大学の学生たちに語った次の言葉に集約されています。

 

 「検索の方法を極めれば、どんな質問にも答えられるようになる。それは基本的に何でもできるようになるってことなんだ」


 2人の若者がガレージで生み出したグーグルは、現在では絶対権力になりました。わたしたちが検索結果を選ぶたびに、グーグルに何かを与えているといいます。

 

 データベースはプライバシーや企業間競争、商取引やコンテンツへのアクセスといったものを、すべて支配します。最初は、科学を愛する無邪気な好奇心から生まれたグーグルは、あまりにも巨大化しました。グーグルの"真の目的"を調べたとして有名な『グーグル・バージョン2.0 計算高い略奪者』と題するレポートがあります。

 

 コンサルタント会社のトップであるスティーブン・アーノルドを筆頭とする研究チームが5年の時間をかけて、グーグルの特許、アルゴリズム、SECへの提出資料を徹底的に調べ上げたものです。その中で、アーノルドは次のような結論を述べています。

 

 「"グーグル"を集中的かつ徹底的に調べた結果、『邪悪なことはしない』という意思を持って出発した同社が、すでに親しみやすい検索エンジンから、一部の人々にとっては不吉な存在に変化したことが分かった。卓越した技術力を武器に、"グーグジラ"はもう動きだしている」

 

 "グーグジラ"とは怪物ゴジラを連想させる言葉ですが、「グーグルは特定の市場に狙いを定め、すばやく、冷酷に攻撃する」というのです。また、「底なしの胃袋を持つグーグジラは、自らが皿に盛られたチキン・ブリトーであることに気づかない企業を、次々と呑みこんでいくだろう」と結んでいます。


 マッド・サイエンティストであったフランケンシュタインは、悲劇のモンスターを生み出してしまいます。サイエンティスト企業を興したブリンとラリーが創り出したものは果たしてモンスターだったのでしょうか?「グーグル・アース」などを見ると、なんだか途方もないことを企んでいる気配がプンプンします。その答えは、これから明白になるでしょう。

 

 著者は、グーグルの最大の弱みとして「社会性のなさ」を挙げています。たしかに許可を求めずにあらゆる試みを繰り返し、他企業から告訴されまくっている現状を見ると納得できます。また、ヤフーなどの他の検索サイトに比較して、得体の知れない怪しげな匿名ブログなどを堂々と上位に表示する企業姿勢にも、社会性というものがまったく感じられません。

 

 多くのユーザーが閲覧するサイトをとにかく上位に表示するというなら、他人の誹謗中傷を目的とした反社会的なサイトが次々に日の目を見てしまいます。これは大いに問題があり、このこと自体が反社会的行為であるとさえ思います。

 

 著者のオーレッタは、本書で「怖いもの知らず」の創業者の2人が独自の"論理的思考"でグーグルを巨大化していく過程を詳細に描きつつ、2つの点を懸念しています。1つは、技術者特有の効率至上主義です。そして、もう1つは"EQ(こころの知能指数)"の低さです。

 

 世界中から頭脳優秀な若者を集めているグーグルという企業集団。著者が心配するように、その正体が高いIQと低いEQを持った技術者集団であるとしたら、彼らに操縦され、翻弄されてゆく世界のメディアは、今後どうなるのでしょうか。

 

 当分、目が離せないことだけは確かです。