No.0066 児童書・絵本 | 死生観 『おかあさんのばか』 細江英公著』(窓社)

2010.05.09

 『おかあさんのばか』(窓社)という本をご存知ですか? 今から46年も昔、昭和39年に作られた細江英公の写真集です。被写体は、小学6年生(当時)の吉田幸ちゃんです。彼女の写真と詩がたくさん収められています。

 その最初の詩は次のような内容です。

      私のおかあさんは

      一ヵ月前に

      のう出血という

      おそろしい病気で死んだ

      このごろおかあさんの

      夢ばかりみる

      さいだんの前にすわってにらみつけたりする

      友だちのおばさんにあうと

      おかあさんていいなあと

      急に思い出してしまう

      おかあさんは病院で

      目をあけた時もあった

      その時おかあさんは

      なみだを流して

      ないていた

 そうです。幸ちゃんは、大好きなお母さんを脳出血で亡くしたのです。学校の先生をしているお父さんと中学生のお兄ちゃんとの三人の生活が始まります。ただ一人の女手となった幸ちゃんは、「おかあさんのかわりに/うちの中を/明るくしなくちゃ」と思って、家事をはじめ健気にいろいろと頑張ります。家計簿をつけ、家計が赤字のときは、自分の小遣いで補てんしたりします。

 でも、小学生の女の子です。やはり寂しさ、悲しさを消すことはできません。幼い自分を残して旅立った母親に対し、つい「おかあさんのばか」と言いたくなります。わたしは、最初の詩から涙腺がゆるみ、本を閉じ終えるまでボロボロと涙を流しました。三島由紀夫などを撮影した写真家として知られる細江英公の写真もどれも素晴らしく、なつかしい昭和の風景がよみがえってきます。 

 巻末には、40年後の幸さんの短い手記が添えられていて、「理解ある夫と二人の子供と幸せに暮らしています」と書かれています。母を亡くした幸さんは、自らが母となったのです。良かった、良かった、本当に良かった! ここで、また号泣。こんなに母親の有難さが心に沁みる本はありません。

 わたしは幼少の頃、よく母が亡くなった夢を見て、眠りながら涙を流していたことがありました。「母が死んだら、どうしよう」といつも思っていました。幼稚園は3年保育だったのですが、最初に入園したとき、母と離れるのが怖くて号泣してしまい、数日間は教室の後にいてもらったほどです。そんな母は、足を悪くはしたものの、まだ元気です。

 先程、元気な母に会ってきましたが、いつまでも元気でいてくれることは本当に有り難いことです。人間、親が元気だと、「親から褒めてもらいたい」「親に喜んでもらいたい」という心のエネルギーになりますから。

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