No.0072 神話・儀礼 『知ってびっくり!世界の神々』 一条真也監修(PHP研究所)

2010.05.16

 わたしが監修した知ってびっくり!世界の神々』がPHP研究所より刊行されました。「雑学3分間ビジュアル図解シリーズ」の一冊です。

 さて、映画「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」、「タイタンの戦い」などのヒットの影響もあって、ギリシャ神話をはじめとする神話の世界に大きな関心が集まっています。

 人間は神話を必要とする動物です。神話とは宇宙の中に人間を位置づけることであり、世界中の民族や国家は自らのアイデンティティーを確立するために神話を持っています。

 一般に、アメリカ合衆国には神話が存在しないといわれます。建国200年あまりで巨大化した神話なき国・アメリカは、さまざまな人種からなる他民族国家であり、統一国家としてのアイデンティー獲得のためにも、どうしても神話の代用品が必要でした。それが、映画です。

 映画はもともと19世紀末にフランスのリュミエール兄弟が発明しましたが、他のどこよりもアメリカにおいて映画はメディアとして、また産業として飛躍的に発展しました。映画とは、神話なき国の神話の代用品だったのです。

 それは、グリフィスの「國民の創生」や「イントレランス」といった映画創生期の大作に露骨に現れていますが、「風と共に去りぬ」にしろ「駅馬車」にしろ「ゴッドファーザー」にしろ、すべてはアメリカ神話の断片であると言えます。それは過去のみならず、「2001年宇宙の旅」「ブレードランナー」「マトリックス」のように未来の神話までをも描出す。

 また、フランケンシュタインのモンスターやドラキュラ、スーパーマン、バッドマン、スパイダーマンなどは、すべて原作小説やコミックに登場するキャラクターにすぎませんでしたが、映画によって神話的存在となりました。

 「ロード・オブ・ザ・リング」3部作や「スターウォーズ」シリーズはまさしく神話としての映画を実感させますが、日本においても、「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」から「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」などの宮崎駿監督のアニメ映画ほど神話的世界を想像力ゆたかに描いているものはありません。映画産業とは神話産業であり、現代人の共感の大きな源泉となっているのです。

 そう、人間は神々を必要とするのです。なぜなら、多神教の神々にふれると人間の魂は奥底から癒されるからです。そう主張したのは、ユング派「元型心理学」の創始者として知られるアメリカの心理学者ジェームズ・ヒルマンです。彼は、人間の魂は多くの機能を持っており、それぞれが必要とする神々がいると主張しました。オリュンポス12神にしろ、八百万の神々にしろ、多神教の神々は、それぞれの魂の元型が求める役割を演じてくれるわけですね。

 ヒルマンは、人間の魂はもともと一神教には馴染まないとし、「魂の自然的多神教」という言葉さえ使っています。たしかに、浮気がやめられなかったり嫉妬深かったりする神々を知ると、なんとなく安心してしまいますね。

 新刊『知ってびっくり!世界の神々』は、世界最古のメソポタミア神話からエジプト神話、さらにはギリシャ神話というように神話の流れに沿って神々を紹介しています。神話や神々についての類書が、いきなりギリシャ神話からスタートする中で、この時系列にあった目次立ては非常にユニークであり、読者が神話の影響関係を理解する大きなサポートになるのではないでしょうか。

 神話は、世界中の民族の「こころ」そのものです。神々は世界中の民族の「こころ」が投影されたものです。この神様のカタログを読んで、多くの方々に、ぜひ世界の人々の「こころ」を知ってほしいと思います。そして、自分だけの特別な神様を見つけてくれれば、監修者としてこんなに嬉しいことはありません。

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