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ゼロから考える経済学』

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No.0074

 

 ゼロから考える経済学』リーアン・アイスラー著、中小路佳代子訳(英知出版)を読みました。「未来のために考えておきたいこと」というサブタイトルがついています。

 

 帯に、「経済はリセットできないけれど、私たちの考え方は変えられる。」というコピーが書かれています。著者のリーアン・アイスラー女史は、社会科学者にして弁護士にして社会活動家です。

 

 かのピーター・ドラッカーと同じウイーン生まれで、ナチスの迫害を逃れました。ただドラッカーはそのままアメリカに向かいましたが、アイスラーはキューバに亡命し、後に米国移住しています。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で教鞭をとり、「思いやりのための経済のための同盟」創設メンバーとなります。また、ダライ・ラマ14世やデズモンド・ツツ大司教らとともに「グローバル・コンシャスネスとスピリチュアリティ」に関する世界委員会」の委員も務めます。さらには、「偉大な思想家20人」の中に、ヘーゲル、アダム・スミス、マルクス、トインビーらとともに、ただ1人の女性として選ばれたこともある人物です。


 著者は、「子供が生まれてから、ますます経済について考えるようになった」そうです。彼女は、序章「より良い世界のための経済学」で、「私たち人間にはこれほど偉大な思いやりと理性と創造性があるのに、なぜ私たちの世界では、これほどまでに多くの残酷で無神経な行為や破壊が行なわれてきたのだろうか」と問いかけます。

 

 その答を心理学、歴史、人類学から教育、経済学、政治学まで、さまざまな分野に求めた彼女は、何度も何度も経済学に立ち戻ったそうです。なぜなら、この世界で自分たち、そして子供たちや将来の世代が豊かな暮らしを続けていくためには、すべては経済が鍵になると考えたからです。そして、今の経済や社会がおかしいと思うのなら、これまでの常識にとらわれずにゼロから考えてみようと思い立ったのです。


 アダム・スミスは『国富論』を書いたとき、市場に焦点を当てました。そして、「神の見えざる手」である市場こそが、生活に必要なものの生産と配分を決める最良のメカニズムであると考えました。しかし、アイスラーは市場という枠を超えて、家庭や地域社会、さらには自然の生命維持活動を含めた、より大きな視点から経済システムを見直します。彼女は、次のように述べます。

 

 「私たちが直面している非常に大きな問題に立ち向かっていくのに役立つ経済システムを構築するために、人々や自然を思いやるという、社会的にも経済的にも不可欠な仕事の認知度を高め、それに価値を与えなければならないということを示す。実際、そのことをよく考えてみると、思いやることと世話することにもっと大きな価値を与えない限り、現状の思いやりのない経済の政策や手法に変化は期待できない」


 経済モデルに「思いやること」と「世話すること」を含めないのは、経済学者のいう人的資本(つまり人間のこと)が最も重要な資本となる脱工業化経済にとって、断じて不適当であると、アイスラーは喝破します。そして、彼女は「思いやりの仕事」というものを示すのですが、それは人間の幸福と人間の最適な発展に対する共感、責任、気遣いに基づいた行動を指しています。

 

 思いやりの姿勢は、家庭や地域社会から企業や政府まで、すべての分野における「思いやること」と「世話すること」の認知度を高め、それに価値を与えるというのです。まさに、わたしのいう「ハートフル・ソサエティ」そのものではありませんか!

 

 さらに、アイスラーは次のように述べます。

 

 「思いやりの姿勢は、人に与える影響という意味だけでなく純粋に金銭的な意味でも、経済政策により効果的な取り組み方を提供する。たとえば、犯罪率やそれに付随するコストが低下するだろう。そして、保育と教育が全面的に支援されるようになるため、健全な将来の経済のために必要となる質の高い人的資本が確保されるだろう」

 

 「思いやりは金銭的にも利益になる」という、新しい経済の考え方を示した本です。リーマン・ショック以降、アメリカ発の「強欲資本主義」が見直され、多くの人々が今後の経済の方向性を模索している今、ぜひ本書を一読されることをおススメします。