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使える経済書100冊』

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No.0076

 

 使える経済書100冊』池田信夫著(NHK生活人新書)を読みました。「『資本論』から『ブラック・スワン』まで」というサブタイトルがついています。

 

 著者は、いわゆる「経済論争家」であり、アルファブロガーとしても知られる人物です。帯には、「経済学は教養ではない 生きるための道具だ」と大きく謳われています。

 

 「はじめに」で、著者はまず、「本書はすべての人に通用する『万能の読書術』を伝授しようというものではない」と述べています。「万能の読書術」というのは、拙著『あらゆる本が面白く読める方法』(三五館)のサブタイトルとまったく同じなので、ちょっとドキッとしました。(笑)

 

 それから著者は、読書を大きく2種類に分けます。

 

 一つは小説など「消費」として読む本で、これは読書そのものが目的なので、ゆっくり時間をかけて楽しむのがいいと述べています。

 

 もう一つは、ビジネスマンが「投資」として読む本で、これはなるべく効率よく、最小の時間で最大の効果をあげることが求められるといいます。

 

 そして、本書が対象とするのは後者だけだと言い切ります。著者は、また次のように述べます。

 

 「すべての人に最適の読書術や勉強法というのは存在しない。読書法は何を目的にするかによって違い、読者の年齢や知識水準によっても変わる。学生の場合には何のために読むかがはっきりしない一方、読書する時間はたっぷりあるので、基礎から勉強したほうがいいが、ビジネスマンの場合には仕事で必要な知識が明確で読書にさける時間は限られているので、時間を節約して必要な知識だけを得る工夫が必要だ」

 

 第1章「本の選び方・買い方・読み方」には、著者の読書に対する考え方や具体的な方法論が書かれていて興味深いです。「本選びはテーマを決めて」とか「アマゾンを活用しよう」とか「本は後ろから読め」など、わたしの読書法と共通する部分も多かったです。大事な箇所には線を引いたり、ページを折ってマークしたりという点も同じでした。

 

 そして、感想をブログなどの形でアウトプットすると効率よく内容が頭に入るという点も同じで、著者は次のように述べます。

 

 「読書で大事なのは、読書量でも時間でもなく、その効率である。娯楽か仕事か、基礎的な勉強か現状把握か、といった目的を明確にし、それに必要な本の必要な部分だけを読めばよい。読んだ感想をブログやSNSにまとめてみると、考えがまとまって記憶に残る。読書の価値は、こうして身についた知識の量で決まるのであって、蔵書の量で決まるわけではない」


 本書は、ビジネスマンのための実践的ブックガイドですが、一般にビジネスマンは、経営者の書いた「私はこうして成功した」という本をよく読みますね。でも、著者は、こういう本は実際のビジネスの役にはあまり立たないと断言します。わたしも、これには大いに同感です。だいたい、経営者が書いたビジネス本というのは、基本的に「自慢話」が多いですし、そこには尾ひれもついています。

 

 あまり言うと語弊があるかもしれませんが、世に出ている経営者本には、「文章の書けない商売人」と「ビジネスを知らないライター」の合作にすぎないものが多いようです。また、経営コンサルタントの「こういう会社が成功する」といった本も役に立ちません。

 

 著者によれば、この種の本の先駆として有名な『エクセレント・カンパニー』で取り上げられた43の会社の半分以上が、そのあと経営難に陥ったそうです。実際、ワングやデータジェネラルやアタリは倒産し、NCRやDEC(ディジタル・エクイップメント)は競合他社に買収されました。著者は、その理由として、企業の成功の原因は複雑なので「生存バイアス」があるからだとして、次のように述べます。

 

 「たとえばサイコロ賭博で丁だけに10回続けて賭けたギャンブラーが勝ち残ったとして、メディアが彼に『サイコロ賭博で勝つ秘訣は何ですか?』と質問すると、彼は『丁に賭けることだ』というだろう。市場が効率的であればあるほど、一つの企業が勝ち続けることはむずかしく、偶然の影響が大きくなるが、経営者は成功は自分の手柄で失敗は不運だと思いがちだ。腕のいい植木職人が植物学を理解しているとは限らない」

 

 そんな著者は、基本的にはハイエクを元祖とし、フリードマンが発展させたとされる「新自由主義」を支持していることが、本書全体からよくわかります。著者の経済学への理解は驚くべき深さで、ヘーゲルやフーコーやデリダといった哲学者の言説も自分のものとされていて、感服しました。


 本書では100冊の経済書が紹介されていますが、特に第10章「古典に学ぶ」が最も興味深かったです。

 

 アダム・スミス『国富論』、カール・マルクス『資本論』、ジョン・メイナード・ケインズ『雇用、利子および貨幣の一般理論』、ジョゼフ・シュムペーター『資本主義・社会主義・民主主義』、フリードリヒ・ハイエク『個人主義と経済秩序』、ミルトン・フリードマン『資本主義と自由』などの古典がずらりと紹介され、著者独自のコメントが綴られていますが、中でも『国富論』のくだりには強く興味を引かれました。

 

 アダム・スミスの「見えざる手」という言葉は有名ですが、これは、人々が利己心にもとづいて行動すれば、おのずと秩序が成立するという『国富論』の結論と矛盾するように見え、「アダム・スミス問題」として知られていました。

 

 著者によれば、スミスは「理神論」という合理主義的なキリスト教を信じており、同じく信者だったニュートンの「万有引力の発見」に強い影響を受けたそうです。スミスは社会秩序にもニュートン力学のような「神の手」が働いているはずだと信じ、利己心を「第三者の目を意識しながら自己の利益を追求すること」と考えました。「見えざる手」とはこの社会的自我であり、神のメタファーだと考えたのです。そして、神が世界を調和するように設計するのは当然ですから、利己心の追求によって秩序が生まれるのは自明であるとしました。しかし、ニュートン力学では、世界の動きはすべて物理的に決定されます。そこに自由意志の存在する余地はありません。


 このスミスの矛盾を解くために、著者は『道徳感情論』という本を持ち出します。『道徳感情論』は『国富論』と並ぶスミスの主著で、秩序の基礎を他人への「共感」に置いています。そして、著者は『道徳感情論』の中に「見えざる手」という言葉が1回だけ出てくることを示し、次のように述べます。

 

 「これは資本家が労働者を雇う際に、利潤最大化のためには労働者をフェアに扱わないと逃げてしまう、といった文脈で使われている。つまり人々が公正の感覚を共有していることによって、市場の均衡が実現するというわけだ。こう考えれば、共感と利己心は矛盾しない」

 

 この見事な論法に、わたしは思わず、「うーん」と唸ってしましました。ニュートンからスミスへの影響は、拙著『法則の法則』(三五館)にも通じます。

 

 著者は「経済学は教養ではない」と語っています。でも、この人ほど教養のある人はいないのではないでしょうか。ブログでは、その教養をわかりやすい形で、かつ惜しむことなく、一般読者に公開しているのが素晴らしいと思います。

 

 経済の本は、数年経つと内容が古くなるとされています。でも、本書で紹介されている本は、今でもビジネスの実践で使えるものが多いです。

 

 わたしはこの100冊の中から15冊ほどアマゾンに注文したくらいです。