お探しの書名・著者名・キーワード等を入力して下さい

  • HOME
  • 幸福を見つめるコピー
Title

幸福を見つめるコピー』

Category

No.0082

 

 幸福を見つめるコピー』岩崎俊一著(東急エージェンシー)を読みました。

 

 「一条真也の母」こと伏見貴子さんから送っていただいた本です。著者の岩崎さんは、日本を代表するコピーライターの1人として知られています。

 

 この本が伏見さんから送られてきたとき、驚きました。すごく読みたかったのに、書名や著者名がわからなかった本だったからです。というのも、昨年の夏、東京で銀座線に乗っていたとき、赤坂見附駅から乗ってきた会社員(東急エージェンシーの社員?)が、座っているわたしの目の前で読んでいました。そのとき、本に巻かれていた帯のコピーが印象的で、それだけを記憶していたのです。

 それは、「マーケティングという刃を持ち、詩人の魂を持って、コピーライターは言葉をつくり上げる。だからこんなに胸に響く。」という作家の林真理子さんのコピーでした。林さんもコピーライター出身だけあって、さすがに素晴らしい言葉ですね。


 そうして、やっと出会えた本書は、300ページを超えるハードカバーですが、コピーの部分は活字も余白も大きいため、1時間ほどで読めました。序文「人は弱い生きものである」で、「幸福になること。人は、まちがいなく、その北極星をめざしている」と著者は書きます。

 

 「そのためにこそ。さまざまな表現物はこの世に生まれ、人に出会い、出会った人の心に寄りそい、背中を抱きしめ、そして人の前に火を灯して、歩むべき道を照らす」とも。


 そして、「企業は何のために存在するのか、商品は何のために生まれるてくるのか」を著者は考え、このような答を出します。


 「すなわち、人の役に立つためである。人を助け、人を育て、人を守り、人を愉快にし、人によろこびを提供するためだ。すべての広告は、ここを『基地』とし、発信される表現物だ。それが、『幸福』という北極星をめざさないわけはないのである」


 製薬会社は人を救い、食品会社は安全でおいしい食べ物を届け、文具会社は自分の手のように使える文房具をつくり、老人ホームは安寧な老後を約束し、化粧品会社は美しくすこやかに生きるサポートをする。


 「至る道はそれぞれ違う。やることは別々である。しかし、めざす星はただひとつ、『人の幸福』である。逆に言えば、そうでない企業や商品は、この世に存在する理由はないのである」と、著者は述べます。


 この言葉を読んで、ちょっと驚きました。なぜなら、わたしは、1992年に上梓した『ハートビジネス宣言』で同じようなことを書いていたからです。東急エージェンシーから出した最後の本でしたが、その中に「志のある広告」という章がありました。そこで、人々を幸福にするという高い志を持った広告を紹介していたのです。

 

 当初は「日経広告手帖」に掲載された文章でしたが、わたしは「広告代理店とは幸福代理店である」などと書きました。そこで取り上げた企業は、カシオ計算機、アメリカンファミリー生命保険、国連支援交流財団、JR東海、キヤノン、カネボウ、全日空、三井不動産などでした。いずれも、岩崎さんがいう「北極星」をめざす企業たちでした。


 さて、「幸福」という北極星をめざしてコピーを書いてきた岩崎さんの作品のうち、わたしが好きなものを並べてみたいと思います。

 

 まずは、西武百貨店の"お中元"のコピーです。


 「もらったものは、買ったものより、ちょっとおいしい。」


 「うまいことを言う人より、うまいものをくれる人を、信じなさい。」


 同じく西武百貨店の"夏市"のコピーです。


 「安いものはほしくない。安くなったものがほしい。」


 大塚製薬の"おやすみ飲料、ネムー"のコピーです。


 「おやすみなさい。命令形なのに優しいね。」


 「3時を過ぎると、誰もメールを返してくれない。」


 日本フォスター・プラン協会のコピーです。


 「人は貧しいという理由で死んではいけない。」


 「子どもが苦しんでいる。どこの国の大人が助けてもいいじゃないか。」


 「仕事に追われ、生活に疲れる。日本では大人の話です。」


 東京海上日動サミュエル"谷内六郎シリーズ"のコピーです。


 「夕暮れは、帰る時間だった。出かける子どもなんか、いなかった。」


 「親戚中が集まった。だから、日本の盆や正月が輝いていた。」


 積水ハウスの"木造住宅シャーウッド"のコピーです。


 「花を育てるようになると 雨が好きになる。」


 そして、わたしが一番好きだった作品、というか不覚にも涙ぐんでしまったのは、ソニーのベータムービー「すべり台 篇」の次のコピーでした。


 「この子の3歳は、たったの1年。」


 本書には、著者のエッセイも多数収録されています。中でも、著者の娘さんをテーマにした「消えた娘」と「父親失格」が良かったです。2篇とも、わたしにも覚えがあるエピソードで、しんみりしました。


 本書から浮かび上がってくるのは、著者の優しさです。そして、その優しい著者を支えている家族の温かさです。きっと、著者にとっての「幸福」とは、ほとんど「家族」と同義語なのでしょう。


 本書を読んで、とても穏やかな気持ちになれました。伏見さん、素晴らしい本を送っていただいて、ありがとうございました。