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ネクスト・ソサエティ』

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No.0053

 

 ドラッカーの著書は、主なものだけで約30冊あります。しかし、わたしが最も影響を受けたのは『ネクスト・ソサエティ』上田惇生訳(ダイヤモンド社)です。

 本書は、ピーター・ドラッカーの遺作にして最高傑作です。

 長年のコンサルタントとしての経験から、きわめて現実的であり、かつ実際的である一方、未来社会に対する展望が見事に描かれています。20世紀における「知の巨人」であったドラッカーが、最後にわれわれに21世紀の見取り図を示してくれました。

 1行読むごとに「そうか、なるほど」と指を鳴らし、「ワクワクしてきたぞ」と知的興奮が呼び起こされます。とにかく本書は面白い!

 ドラッカーは本書の冒頭で日本の読者に対して、「日本では誰もが経済の話をする。だが、日本にとっての最大の問題は社会のほうである」と呼びかけています。

 90年代の半ばから、ドラッカーは、急激に変化しつつあるのは、経済ではなく社会のほうであることに気づいたといいます。

 IT革命はその要因の1つにすぎず、人口構造の変化、特に出生率の低下とそれにともなう若年人口の減少が大きな要因でした。

 IT革命は、世紀を越えて続いてきた流れの1つの頂点にすぎませんでしたが、若年人口の減少は、それまでの長い流れの逆転であり、前例のないものでした。

 その他にも、雇用の変容、製造業のジレンマ、ビジネスモデルの多様化、コーポレートガバナンスとマネジメントの変貌、起業家精神の高揚、人の主役化、金融サービス業の機器とチャンス、政府の役割の変化、NPOへの期待の増大など、さまざまな逆転現象が起こっています。

 本書が言わんとすることは、1つひとつの組織、1人ひとりの成功と失敗にとって、経済よりも社会の変化のほうが重大な意味を持つということです。

 急激な変化と乱気流の時代にあっては、単なる対応のうまさでは成功は望みえない。

 企業、NPO,政府機関のいずれであれ、その大小を問わず、大きな流れを知り、基本に従わなければならない個々の変化に振り回されてはならず、大きな流れそのものを機会としなければならないのです。

 その大きな流れこそ、ネクスト・ソサエティの到来です。そして、その2つの特質は「少子高齢化社会」と「知識社会」です。 大きな流れに乗った戦略をもってしても成功が保証されるわけではありません。

 しかし、それなくして成功はありえないとドラッカーは説きます。

 わたしは、2001年10月に社長に就任しました。当時、21世紀の社会像について漠然と考えをめぐらしていました。

 ドラッカーが未来を読み解く社会生態学者でもあると知り、数多く翻訳出版されているドラッカーの著書をすべて読みました。

 2002年に『ネクスト・ソサエティ』が発売され、むさぼるように読みました。そのインパクトの大きさは想像を絶するものでした。

 わたしは、『ネクスト・ソサエティ』という本はドラッカーからわたし個人へ送られた問題集ではないかと思いました。「あなたなら、ネクスト・ソサエティとはどのような社会であると考えるか」という質問がそこに書かれていたのです。

 そして、その質問に対する答えとして、拙著『ハートフル・ソサエティ』(三五館)を執筆しました。その本で、わたしは、「ネクスト・ソサエティ(次なる社会)」は「ハートフル・ソサエティ(心ゆたかな社会)」であると読み取りました。人間の「心」というものが最大の価値を持つ社会だと確信したのです。

 現代は高度情報社会です。 ドラッカーは、早くから社会の「情報化」を唱え、後のIT革命を予言していました。 ITとは、インフォメーション・テクノロジーの略です。 ITで重要なのは、I(情報)であって、T(技術)ではありません。その情報にしても、技術、つまりコンピューターから出てくるものは、過去のものにすぎません。

 ドラッカーは、IT革命の本当の主役はまだ現れていないといいました。 では、本当の主役、本当の情報とは何でしょうか? 日本語で「情報」とは、「情」を「報(ルビしら)」せるということです。「情」は今では「なさけ」と読むのが一般的ですが、「こころ」とも読みます。

 すなわち、情報の「情」とは、心の働きに他なりません。本来の情報とは、心の働きを相手に報せることなのです。

 「心の社会」は、ポスト情報社会などではなく、新しい、かつ本当の意味での「リアル情報社会」なのです。

 リアル情報社会=心の社会とは、ドラッカーが一貫して主張してきた人間尊重のマネジメントが広く浸透した社会です。結局は、わたしたちの仕事にかかわる人や顧客が幸せに生きることができる社会ということです。

 『ハートフル・ソサエティ』を上梓し、アメリカのドラッカー教授にお送りしようと思っていた矢先に、訃報を聞きました。

 ピーター・ドラッカーは、わたしにとって永遠の師です。そして、 『ネクスト・ソサエティ』は、生涯忘れえぬ一冊です。